P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

金まみれの共和党は脱減税の夢を見れるか?

トランプの躍進についてアメリカは勿論、日本でも心配する意見がありますが*1、現代アメリカの代表的なリベラル言論人の1人になっているポール・クルーグマンニューヨーク・タイムズのコラムで心配するどころか逆にこのトランプの躍進を歓迎すべきとまで書いています。

私が思うに、トランプ氏の躍進は実は歓迎すべき事なんだ。勿論、彼は詐欺師だ。しかし彼は他の(共和党の)連中の詐欺を暴露する役割を事実上果たしてもいる。つまり、信じがたいだろうが、この狂った困難な時代においてはこれは前進の一歩なんだ。

*1:もっとも、日本のは大抵、単に真面目ぶって問題を論じているフリをしているだけだと思いますけど。

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(共和党の)天下分け目の戦い:フロリダ予備選

日本時間の3月9日現在、共和党の大統領選指名争いでまだ残っている4人の獲得代議員数は

  • トランプ  458
  • クルーズ  359
  • ルビオ   151
  • ケーシック 54

となっています。トランプがリードしていますが、トランプ大統領の可能性が取り沙汰されて騒がしいわりには、共和党候補指名を確実にする代議員数が1237人である事を考えるとトランプと2位のクルーズの差は大きくありません*1。なので、共和党内の反トランプ陣営はまだなんとかなるのではないかと希望を捨てておらず、#NeverTrumpというハッシュを作ったり、2012年の共和党大統領候補であるラムニーがトランプ批判したり、金持スポンサーが反トランプのCMに大金注ぎ込んだりしているそうですが、そもそもトランプ支持者は共和党のエスタブリッシュメント層、つまりエリート達に裏切られていると感じている人達なのでそういう金持・エリートによる批判はあまり効果を持っていないようです。ラムニーのトランプ批判の効果についてのとある調査によると、ラムニーの批判によってトランプに以前より投票したくなくなったと答えた人が共和党員の中で20%いたものの、31%がより投票したくなったと答えており、効果なしが43%となっています。2012年にラムニーに投票した人についてもほぼおなじ数字になっていますし、トランプ支持者についてだと、投票したくなくなったのが5%、より投票したくなったのが56%ですから、全然効果がなかったという調査結果になっています。また、ついにルビオ陣営が選挙戦から降りる事を検討し始めているという情報もあります。トランプの競争相手の数が少なくなれば反トランプ票が残りの候補に集結しますから、反トランプ陣営の共和党集会での逆転勝利も可能ではないかという希望を語っている人もいますね。
 
とにかく現状ではトランプの数字は圧倒的という程にはなっておらず、まだかすかな希望が反トランプ派には残っていますが、これがかき消されるかもしれないのがアメリカ時間で3月15日に行われる共和党の6つの予備選です*2。この3月15日から共和党の予備選ではウィナー・テイクス・オール、勝者の代議員総取りのものが増えていきます。これまでは、足切りがありつつも獲得した票数に応じた代議員の分配制度の州が多かったので、トランプが多くの州で勝ったのにかかわらず、その勝ち星からの印象ほどの差が獲得代議員数についてはなかったのですが、これからは総取り方式が増えていくので、トランプが勝てば勝つほど獲得票数差以上の差が代議員数においてついてきます。なので15日までに反トランプ派はなんとかトランプの勢いを抑え込みたいと考えているようです。ですが現状、その可能性はかなり低そう。15日の6つの予備選のうち、代議員数が一桁の北マリアナ諸島の予備選を除いた5つの中で総取り式の州は、フロリダ、イリノイオハイオの3つであり、それぞれ代議員数は

  • フロリダ  99

となっています。この3州のうち、オハイオはケーシックの地元で今のところケーシック勝利の予想となっていますが、他は全てトランプ優勢の状況です。悲しいのがフロリダが地元であるルビオで、フロリダでの支持率がこういう状態になっており、
f:id:okemos:20160310185707p:plain
2012年の大統領選で名を上げたネイト・シルバーのサイト、FiveThirtyEightでの予測だとトランプ勝利の可能性が日本時間10日現在で97%、地元候補であるルビオ勝利の可能性がわずか2%というありさまです。この予測はフロリダでの世論調査の結果だけに基づいたものですが、その他の要素を考慮したモデルでもトランプ85%、ルビオ15%となっています。実はこのサイトは(そしてさまざまな世論調査も)サンダースが勝ったミシガンの民主党予備選でクリントン勝利を予測していましたから、当然番狂わせはありえるわけですが...
 
もしルビオが予想に反して逆転勝利し、そしてケーシックが予想通りオハイオで勝てば、トランプの代議員数のリードが少し詰められるのは勿論、共和党レースについての論調が変わり反トランプ陣営への追い風になります。しかしもしルビオが予想通りに負ければ、反トランプ陣営の厭戦ムードが一気に高まりそうです。なのでルビオのフロリダでのパフォーマンスが重要なのですが、しかしアメリカ時間の9日にフロリダのフットボール場で行われたルビオの集会が、


こういう人出だったので...

*1:ちなみに、民主党側のクリントンとサンダースの間の差は3月9日現在で既に759対546となっています。

*2:予備選(primary)ではなく党員集会(caucus)もありますが、邪魔くさいので全部、予備選と書いていきます。

「白鯨との闘い」と「ブラック・スキャンダル」

ちょっとわけあって時間ができたので以前から気になっていた二本の映画を観てきました。
 
一本目は、予告編を観て怪獣モノなのか?とワクテカしてたのに実は怪獣モノじゃなかった「白鯨との闘い」です。
 

『白鯨との闘い』予告
 
監督ロン・ハワードで、主演がクリス・ヘムズワース。19世紀初めが舞台の映画なのですが、ヘムズワースの見た目がまさにクラシカルな「漢」という感じでカッコ良かったです。予告編でも語られている通り、ハーマン・メルヴィルの「白鯨」のネタ元の一つである、マッコウクジラによって捕鯨船が沈没させられた事件を映画化したという設定。フィクションなので一杯脚色が入っているはずですが、一応ルーズに事実に基づいたものなので、「白鯨との闘い」という邦題から想像されるアクションもののようなアガる結末はつきません。原題が"In the Heart of the Sea"、「海のまっただ中で」みたいな感じであり、もともとの邦題も「白鯨のいた海」というものだったようですが、これらのタイトルの方がちゃんと内容を表しています。怪獣アクションものではなくて(当然だろというツッコミは全て却下です)、白鯨によって「自然」の中に放り込まれた人間たちの漂流サバイバルものでした。なので予告編のイメージで観に行くとちょっと肩透かしっぽくなるのですが、しかしそれでもいい映画でした。正直、主人公であるクリス・ヘムズワース以外のキャラクター達は全くたっていないと思いますが、陸の上以外のシーン、とくに船と鯨のシーンは観てるだけで楽しいです。
 
この作品内での捕鯨は油を取る為のものなのですが、この19世紀初めの世界は「油を取りに海に漁へ行く」世界であり、「油が地面から出てくる」世界ではないので、まるで異世界物のような感じすらあります。その中で白鯨は巨大な世界が少しだけ覗かせた顔のような存在となっていて、主人公が直面する世界を表してくれます。船が沈み漂流が始まった以降の後半はそれほど面白くは無いのですが、しかし最後の対面のシーンの絶望感は良かったです。
 
二本目は、映画のポスターを見て、
ブラック・スキャンダル (角川文庫)
お、これは!と惹かれていた「ブラック・スキャンダル」です(上のはそのポスターを利用した書籍の表紙ですが)。

映画『ブラック・スキャンダル』本編映像
監督スコット・クーパーで、主演がジョニー・デップケヴィン・ベーコンもなぜだかこの映画にそんなに美味しい役でもないのに脇で出てきます。
 
ボストンのアイリッシュ系ギャングもので、ギャングのボスと、ボスの弟の政治家、そして彼らの幼なじみであるFBI捜査官の繋がりを描いた、こちらもBased-on-True-Story系の映画です。ポスター左の関西芸人さんみたいなのがFBI捜査官、右のベネディクト・カンバーバッチが政治家、そして真ん中のザ・「チンピラの兄貴」みたいなハゲのオッサンがボスでなんとジョニー・デップです。ギャングのボスというより、日本の感覚だとほんとにチンピラみたいな感じですが、映画で見るボストンのアイリッシュ系ギャングのボスはこういう見た目ばかりですね。ジョニー・ザ・ハゲ・デップは確か「ラスベガスをやっつけろ

ラスベガスをやっつけろ [Blu-ray]

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でもやっていたはずですが、シュールなコメディ調だったラスベガスに対してこっちはハゲでもシリアスです。あんまりにも怖めに決めてるのでギャングのボスというより吸血鬼のようにすら見えるところもある程なんですが、観ている間、このジョニー・デップに対する違和感をずっと感じていて、正直、あまりのこめり込めませんでした。自分でも驚いたんですが、この映画を観ていた感じたのが「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズの強さ。別にジョニー・デップのファンでもないし、まして「パイレーツ」シリーズが好きなわけでもないのに、ジョニー・デップがシリアスな声で話していてもその声を聴くとなぜだがジャック・スパロウ船長が出てきそうな気がして仕方がなかったです。あの声でかつハゲなのに、シリアスやられても違和感しか無いよ!!

ネットリンチは「不道徳」「不正義」と呼ばれるべきではないのか?

炎上と呼ばれるネットリンチが悪いものであり、批判されるべきだということについては同意なんですが...
bylines.news.yahoo.co.jp
なんで「道徳自警団」なんでしょうか?
 
法律を勉強したのは学部の時にとった「経済法」の講義くらいですし、更にその講義の教科書の内容が日本語で書かれているにもかかわらずさっぱり理解できず、分野の違いというよりも日本語で書かれているふりをした外国語ではないかと疑ったほどなので法律の事はよく分からないのですが、

我々は、あくまで「現在の法」に従って善悪の判断を形成するべきであり

 
そうなんですか?正直、合法なら正義、違法なら悪であって、法律以外に判断基準はないというのには疑問なんですが。
 
法律は時折改正されたり、新しい法律が作られたりしますが、そういう法律の変更は既存の法律だけを善悪の基準としてなされているわけはないと思うのですが。法律以外に判断基準がないのなら、既存の法律を変更する必要があるわけないですから。更に言いまして、もし法律だけが判断基準なのなら、この「道徳自警団」を筆者の方は何に基づいて批判されているのでしょう?
 
この「自警団」には恐らくそこそこの数の人間が関わっているでしょうから、「自警団」の一部のメンバーによる違法行為というのはありうるでしょうが、「自警団」によるネットへの批判の書き込みなり、テレビ局やスポンサーへの抗議なりというのは、違法じゃないですよね?筆者の方も「自警団」による違法行為を取り上げてはいませんし。違法でない行為を「現在の法」にだけ従ってどうやって批判するんでしょう?著者の方も実際は、法律以外の何かに基いてこの「自警団」を批判しているのじゃないでしょうか。
 
実際、問われるべきは合法かどうかではなくて、この「自警団」の行っているネットリンチが不道徳・不正義ではないのかという事だとおもいます。そしてリンチが「現在の道徳」において不道徳であり不正義であるのは自明じゃないでしょうか?
 
「自警団」の連中が本気で道徳を大事に思っているとは全く思えませんが、一応リンチの道具として「道徳」を利用しているとしても、過ぎたるは及ばざるが如しであり、食事は大切でも行き過ぎた暴食は「七つの大罪」の一つです。ネットリンチにおいて批判されるべきは「道徳」ではなく、行き過ぎ、というかいじめの快楽の「不道徳」と「不正義」であるべきじゃないのかと思います。

共和党:アニメでオナってる子無し独身男なんざ、人類にとって無価値!

かっけえ!(笑)

Rick Wilson MSNBC Trump's Fans Are Childless Single Men Who Masturbate to Anime

タイトルにあるような、一昔前の日本のネット界ならすぐさま炎上しそうな事を共和党のストラテジスト*1の方がアメリカのテレビ局MSNBCの"All In with Chris Hayes"という番組にて発言されてました。「アニメ」は本当に"Anime"であって、アメリカでアニメーションを一般に意味する"Animation"とか"Cartoon"ではないので、日本系のアニメの事を指していると思われます。番組全体を観たわけではないのですがどうもこの発言は、トランプとテッド・クルーズの強さは共和党エリートのお題目である「小さな政府」とか「自由な市場」等々に一般の共和党員が実際には感心が無いという事を意味しているのではないかという疑問、共和党員はその手の「保守主義」よりも実際は偏狭なナショナリズムの方に惹かれているのではないのかという疑問を問われて、共和党エリート層の保守主義も支持されているんだと反論している中で出てきたトランプサポーターへの中傷のようです。
 
以下、このストラテジストさんの返事の中のトランプとアニメについての部分です(途中の番組司会者の発言部分は削除)。
 

そして、自称オルト・ライト*2の大声で喚く狂った連中、トランプが好きで、ツイッターのアイコンがヒットラーまみれの連中ですが。
...
ドナルド・トランプが凄いと、凄い何かなんだと思っている連中のことですが。しかし実際のところ、連中のうちの大半はアニメでマスターベーションしている子供のいない独身男性で、本当に意味のある政治参加者などではない。連中は、全体としての人類のこれからにとって問題となるような人間ではないんです。
 
Now, the screamers and the crazy people on the alt right as they call it,
you know, who love Donald Trump, who have plenty of Hitler iconography in
their Twitter icons.
...
Who think Donald Trump is the greatest thing, oh, it`s something.
But the fact of the matter is, most of them are childless single men who
masturbate to anime. They`re not real and political players. These are
not people who matter in the overall course of humanity.

この後、このストラテジストさんは共和党エリートの奉じる保守主義への支持はまだまだ厚い、しかし物事というものはそう単純には云々とか言わはります。それはそうなんでしょうけど、でもこれまでやってきた保守的ではあるが別段経済保守主義的なわけではない、経済的・文化的な圧迫を感じている白人層を人種差別と恐怖で煽るという選挙戦略のつけが来てるだけじゃないかとも思うわけです。ま、それはともかく、CoolJapanの旗頭であるアニメがアメリカの政治番組の中でマスターベーションとセットで出てくる事に、アニメの浸透とその認識を感じて涙を禁じえませんですな(ウソですけど)。

*1:ここの定義によりますと、「政治家の為に選挙キャンペーンを計画・指揮する上級政治コンサルタント a senior political consultant who designs and directs election campaigns for politicians」なんだそうです。アメリカの「選挙」業界は膨大な金が動くところで、opensecrets.orgによるとたとえば2012年には、26億ドル、その他の議会選挙で37億ドル近く、総額63億ドル近く、つまり7000億円近い金が使われましたし、大統領選と中間選挙の年ごとに凸凹を除くと今の時代珍しいような成長業界です。

*2:alt right(("Alternative right"の略で、このQuoraの記載によると右を自称するが主流派のアメリカ保守主義に反対あるいは軽視されてきた人々なんだそうです。

13 Hours: マイケル・ベイのベンガジ映画


13 Hours: The Secret Soldiers of Benghazi - Trailer #2 Green Band (2016) - Paramount Pictures

アメリカで1月15日から公開されたマイケル・ベイの映画です。ドッカン・バッカンの銃撃と爆発はいかにもベイって感じですが、一つベイっぽくないのがこれが政治問題化(されて)しまっている実際に事件に基づいたものであること。
 
ベイの実話ものとしては「パール・ハーバー

パール・ハーバー 特別版 [DVD]

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がありますし、また日本だと劇場未公開の「ペイン&ゲイン」

ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金
も実話もの*1ですが、「パール・ハーバー」は70年も前の事件ですし、「ペイン&ゲイン」は政治問題化しているわけではない90年代の犯罪実話もの。ですがこの"13 Hours: The Secret Soldiers of Benghazi"は副題にあるリビアベンガジにあったアメリカ領事館が2012年9月11日にイスラム教徒の武装集団に襲われて大使を含むアメリカ人4人が死亡した事件を元にした映画です(日本語版wikipedia記事)。 
 
今のアメリカでは殆どどんな事でも保守とリベラルの対立のタネになりますから、このイスラム過激派による襲撃事件で揉めないわけがありませんでした。ことにこの事件が共和党の陰謀論脳を刺激してしまったので。なぜだかとにかくオバマのせいでリビアの大使館の警備が適切になっていなかったとか、オバマが救助を遅らせてそのせいで大使が死んだとか、更には事件後にオバマ政権がこの件について謝罪したとか、この事件をテロと呼ばなかったとかいう妄想批判を共和党側が行ってきました。この最後の「テロと呼ばなかった云々」というのは要するにオバマ/リベラルが海外勢力のテロに弱いという保守派の妄想なのですが、これが2012年の大統領選ディベートで一つコミカルなシーンを生み出してしまいました。この妄想を信じこんでいた2012年の共和党大統領候補ラムニー*2がテレビ放送されているディベートでこの点をオバマに突っ込もうとしたところ、「いや、なに言うてますねん、わし言ってまんがな」と返された上に司会者にも「ゆうてまっせ、このダンさん」と言われてしまい、わ、わ、わと慌てたラムニーがオバマに「続けて続けて」と催促されてしまったのです。

Romney Foolish During Debate vs Obama on Benghazi

というわけで事前の確認もせずテレビで醜態をさらしてしまうほど妄想にとらわれていたりする共和党は議会での公聴会を何度も開き、結果、調査報告がいくつも出されました。事件が起こったのが2011年であり、翌年が大統領選挙なので、共和党はこれをオバマ攻撃の為に利用しようとしたわけです。また当時ヒラリー・クリントン国務長官であったので、2012年の敗北後も2016年の大統領選を見据えて共和党は度重なる議会公聴会などでこれをヒラリー攻撃のネタとして利用してきました。

しかし結局、オバマやヒラリーに問題があったという証拠を共和党は見つけることができず、それどころか逆に公聴会でヒラリーが追求してくる共和党議員たちに堂々たる対応をみせて逆に評価を上げたりしたので、共和党側にとっては手詰まり感もあったところにこの映画です。すでにFoxニュースはこの映画をヒラリー攻撃に利用しようとしているようです。またドナルド・トランプは共和党の予備選が最初に行われるアイオワ州で映画館を借りきって、ただでこの映画のチケットを配るのだそうです。というわけで、正攻法ではオバマやヒラリーへのダメージを与える事ができなかった共和党は、この映画が少なくともヒラリーのイメージを悪くする助けになってくれないかと期待しているのでしょう。

とはいえ流石にマイケル・ベイも共和党の陰謀論に丸々乗ろうとしているわけではありません。この記事によると、オバマやヒラリーの妨害行為によって犠牲者が出たという共和党の筋書きには流石にそのまま乗っていません。この映画の「グッドガイ」達は警備の為にCIAに雇われていたムキムキコントラクターこと傭兵さんたちですが、彼らの敵である「バッドガイ」達はイスラム武装集団と、そして「ハーバードやイェール」出身で事なかれ主義のCIA局員達であり、政府内の官僚主義です。危険を感じて行動に出ようとする有能な傭兵たちをCIA局員や官僚主義が抑えて邪魔したが為に襲撃を防ぐことができずこんな事になったという筋書きになっているそうです。というわけで直接的にはオバマ政権批判をしていないのですが、しかしCIA局員や官僚主義の無能なり事なかれ主義のせいで防げなかったというのが、基本ウソ間違いなので、結局共和党側の対ヒラリー・ネガティブイメージ戦略を利するものになり得るそうです。まあ娯楽映画に歴史的事実をグダグダいうのは間違いではあるのですが、そうは言っても陰謀論のフィクションに基づいて議会公聴会が行われているという事実もあるわけで、予告編で"This is the true story you were never told(これまで語られなかった真実の物語)"とか言われるとなんだかなぁと正直思います。

ちなみにIMDBを見てみると、この記事を書いている時点で2126人が評価して平均7.4、これはマイケル・ベイの監督作品中では「ザ・ロック」と並んで一番の評価になっています*3。正直、色々書いてはいますが、事実認識と政治を置いとくと実は戦場アクションものとして実は面白いのじゃないかとちょっと期待しています。まあ公開直後であり、かつこういう政治的に揉める作品は一部からの強い評価を受けますから、多分これから落ちていくんでしょうが。ちなみに観客からではなくて、批評家の評価をまとめているmetacritic.comの評価は33人の批評からで100点中48点、ありがちな事ではありますが観客からの評価よりずっと厳しくなってます。ま、ベイ映画ですからねぇ(笑)

*1:この「ペイン&ゲイン」は未見ですが、面白そう。

*2:日本ではなぜかロムニーと呼ばれてましたが。

*3:個人的にはマイケル・ベイ作品の中では「バッドボーイズ」が一番じゃないかと思うので、この「ザ・ロック」の評価は意外。

金持ちですらアメリカ大統領選を買えるわけではない:あるいはチャールズ・コークの牡蠣ではなくて悲しみでいっぱいのインタビュー

政治家が金持ちに取りいって貧乏人に目を向けないなんてのは昔からの批判ですが、経済格差の拡大が取り沙汰される昨今、それは更にリアリティを増しているようにも思えます。政治が金で買われているという批判なり不満は、アメリカにおいて金持ち政党の共和党だけでなく民主党に対してもよく言わるものなのですが、実際、それを裏付けるような研究もあります。この調査によると、アメリカ政府の政策は所得階層で丁度真ん中(50パーセンタイル)の人達の選好よりも、高所得層(所得階層の90パーセンタイル)の選好の方により整合的であるそうです。

では金持ちは政治を「買って」我が世の春を謳歌しているのかというと、残念と言って良いのかどうなのか、大金持ちですら政治を操るのは難しいというインタビューがファイナンシャル・タイムズに掲載されていました。共和党の大スポンサーの一人で「古典的リベラル」を自称する、チャールズ・コーク(Charles Koch)のインタビュー*1です。

*1:ちなみにこのインタビューはチャールズ・コークの会社であるKoch Industriesの本社にあるCafe Kochで行われたものですが、このCafe Kochはこの本社があるカンサス州ウィチタでトップ10に入る美味しいレストランなんだそうで、評論家によるとKoch Industriesで働いている知人がいる地元民はその知人に連れて行ってくれとお願いする価値があるそうです。

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