P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

「アイ・アム・ア・ヒーロー」と「太陽」、あるいは邦画、面白いって!

しばらく前に、海外で日本映画を配給しているイギリス人の方による

「日本映画のレベルは本当に低い。最近すごく嫌いになってきたよ!」

という発言がちょっと話題になってました。
www.sankei.com
最近の日本映画がつまらないので面白い邦画のプロデュースにも乗り出しているそうで、日本映画への愛を感じますが、それでも日本映画に対する評価がちょっと厳しすぎる気もしてしまいます。この記事(やヤフーで配信された時)のブクマを見てもこの批判に同意している人が多いようです。ですが、そういう批判が想定している「日本映画」って邦画の中でも「大作」と呼ばれるタイプの作品の事ですよね。うまく当たれば映画興行収入ランキングの中に入ってくるような。そういう作品だけを考えれば「日本映画ダメ!」と言ってしまいたい気持ちもわからなくはないのですが、日本映画を観てる人ならだれでも知っているように、日本映画の大半はそういう「大作」とか呼ばれるような作品ではない*1わけです。そういう作品は目立つわけですから仕方ないとはですが、面白い邦画も作られていますって!と声を大にして言いたいと思った映画ファンは多いはず。
 
ですが、そういう非大作系の面白い日本映画って、
matome.naver.jp
こういうタイプの作品である傾向が高いです。つまりアクションとかホラーとかSFとかいうジャンルラベルを貼られない非ジャンル系の作品であったりします。勿論、それはそれでいいのですが、ジャンルに分類されるタイプの映画が好きな人間としてはそれはそれでちょっと残念と思っていたら、まさにそういうジャンルに含まれるで傑作を最近、日本ならぬ二本も観ることができて興奮しましたので、宣伝の意図も込めて書いてみます。

*1:実際、このイギリス人の方が面白い日本映画として挙げている作品も、またプロデュースしている作品もそういう「大作系」ではないはず。

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民主党予備選モデルの予測の結果

前回の記事に書いた民主党予備選モデルで予測されていた5州の予備選の結果がでましたので追記しておきます。
ニューヨークタイムズによりますと、モデルの予想通りヒラリー・クリントンロードアイランド州以外の4州で勝利し、各州での彼女の得票率は以下のようになったそうです*1
f:id:okemos:20160427213651j:plain
結構、予想通りの結果になりましたね。また、この結果によりクリントン対サンダースの獲得代議員数は1640対1331となりました。
 
まだ546の代議員を持つカリフォルニアも含めて14の予備選がありますが、以前から予想されていた通りサンダースがクリントンに逆転するのはまず無理でしょう。なのでそろそろサンダースにも民主党内でごねるんじゃなくて、11月の対共和党の本選を見据えた行動をとって欲しいのですが、果たしてどうなるかな?共和党にとってのトランプほどじゃなくても、2000年の民主党にとってのラルフ・ネーダーのような選挙の妨害者になったりはしてほしくないのですが。

*1:5州のうち3州はまだ開票率99%なのですが、まあここまで開いてれば比率はほぼ変わらないでしょう。

アメリカ民主党予備選モデルと、早いこと終わってくれという事

クルーグマンブログ記事で、政治学者のAlan Abramowitzによる民主党予備選のモデルが紹介されていました。

これはヒラリー・クリントン民主党予備選での得票率を、民主党員の比率、アフリカ系アメリカ人の比率、そして南部州かどうかの3変数で回帰したものです。3変数についての出口調査のデータがそろっている州からサンダースの地元であるヴァーモント州を除いた19州の予備選のデータから、下のような結果になったそうです。
 
 クリントン = 4.637 + 11.571南部 + 0.217アフリカ系アメリカ人 + 0.572民主党
      (15.844) (2.727)   (0.104)          (0.238)
   R² = 0.899   [係数下の(...)は標準誤差です]

そして、このモデルからの予測と実際の数字を比べたのが下のグラフです。
 
f:id:okemos:20160424125235j:plain
 
横軸がモデルからの予測で縦軸が実際の数値です。R²の数値からして当然ですが、非常に当てはまりが良いですね。
これから言えることは、クリントンは南部で、アフリカ系アメリカ人の比率が高く、民主党員比率の高いところ*1で強いという事。クリントンが非白人層からの支持率が高い民主党エスタブリッシュメント候補だという事からして当然でしょう。サンダースはその逆で、非南部州、白人、非党員に強いわけですが、これもサンダースが若い白人リベラル層に強いという事からして当然。そして更にこれから出てくるのが、ここしばらくサンダースの勝利が続いていましたが、それは別にサンダースの勢いがどうこうという事ではなくて、サンダースに有利な条件を満たす州での予備選がしばらく続いていただけだったということです。
 
さて、アメリカ時間の26日に次の民主党予備選が5つの州で行われますが、このモデルと2008年での出口調査の数字を使っての結果予測が下の表になります。
 
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ロードアイランド以外の5州でクリントン勝利の予想。まあ、8年前の数字からの変化がどれくらいかとかありますし、コネチカットの52%はノイズに飲み込まれて逆転してもおかしくはないとかありますが、26日の民主党予備選でクリントン有利なのは間違いでしょう。
 
ということで、民主党ではクリントン勝利はほぼ間違いないところなので、サンダース陣営や支持者には"Bernie or Bust"とか言いながらクリントン・ディスをしたりせずに、早いこと11月の本選に備えてほしいです。というか、内戦は止めようよ!

*1:予備選のシステムは各州ごとでバラバラで、党員しか投票できない州もあれば、非党員も投票できる州もあったりします。

金まみれの共和党は脱減税の夢を見れるか?

トランプの躍進についてアメリカは勿論、日本でも心配する意見がありますが*1、現代アメリカの代表的なリベラル言論人の1人になっているポール・クルーグマンニューヨーク・タイムズのコラムで心配するどころか逆にこのトランプの躍進を歓迎すべきとまで書いています。

私が思うに、トランプ氏の躍進は実は歓迎すべき事なんだ。勿論、彼は詐欺師だ。しかし彼は他の(共和党の)連中の詐欺を暴露する役割を事実上果たしてもいる。つまり、信じがたいだろうが、この狂った困難な時代においてはこれは前進の一歩なんだ。

*1:もっとも、日本のは大抵、単に真面目ぶって問題を論じているフリをしているだけだと思いますけど。

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(共和党の)天下分け目の戦い:フロリダ予備選

日本時間の3月9日現在、共和党の大統領選指名争いでまだ残っている4人の獲得代議員数は

  • トランプ  458
  • クルーズ  359
  • ルビオ   151
  • ケーシック 54

となっています。トランプがリードしていますが、トランプ大統領の可能性が取り沙汰されて騒がしいわりには、共和党候補指名を確実にする代議員数が1237人である事を考えるとトランプと2位のクルーズの差は大きくありません*1。なので、共和党内の反トランプ陣営はまだなんとかなるのではないかと希望を捨てておらず、#NeverTrumpというハッシュを作ったり、2012年の共和党大統領候補であるラムニーがトランプ批判したり、金持スポンサーが反トランプのCMに大金注ぎ込んだりしているそうですが、そもそもトランプ支持者は共和党のエスタブリッシュメント層、つまりエリート達に裏切られていると感じている人達なのでそういう金持・エリートによる批判はあまり効果を持っていないようです。ラムニーのトランプ批判の効果についてのとある調査によると、ラムニーの批判によってトランプに以前より投票したくなくなったと答えた人が共和党員の中で20%いたものの、31%がより投票したくなったと答えており、効果なしが43%となっています。2012年にラムニーに投票した人についてもほぼおなじ数字になっていますし、トランプ支持者についてだと、投票したくなくなったのが5%、より投票したくなったのが56%ですから、全然効果がなかったという調査結果になっています。また、ついにルビオ陣営が選挙戦から降りる事を検討し始めているという情報もあります。トランプの競争相手の数が少なくなれば反トランプ票が残りの候補に集結しますから、反トランプ陣営の共和党集会での逆転勝利も可能ではないかという希望を語っている人もいますね。
 
とにかく現状ではトランプの数字は圧倒的という程にはなっておらず、まだかすかな希望が反トランプ派には残っていますが、これがかき消されるかもしれないのがアメリカ時間で3月15日に行われる共和党の6つの予備選です*2。この3月15日から共和党の予備選ではウィナー・テイクス・オール、勝者の代議員総取りのものが増えていきます。これまでは、足切りがありつつも獲得した票数に応じた代議員の分配制度の州が多かったので、トランプが多くの州で勝ったのにかかわらず、その勝ち星からの印象ほどの差が獲得代議員数についてはなかったのですが、これからは総取り方式が増えていくので、トランプが勝てば勝つほど獲得票数差以上の差が代議員数においてついてきます。なので15日までに反トランプ派はなんとかトランプの勢いを抑え込みたいと考えているようです。ですが現状、その可能性はかなり低そう。15日の6つの予備選のうち、代議員数が一桁の北マリアナ諸島の予備選を除いた5つの中で総取り式の州は、フロリダ、イリノイオハイオの3つであり、それぞれ代議員数は

  • フロリダ  99

となっています。この3州のうち、オハイオはケーシックの地元で今のところケーシック勝利の予想となっていますが、他は全てトランプ優勢の状況です。悲しいのがフロリダが地元であるルビオで、フロリダでの支持率がこういう状態になっており、
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2012年の大統領選で名を上げたネイト・シルバーのサイト、FiveThirtyEightでの予測だとトランプ勝利の可能性が日本時間10日現在で97%、地元候補であるルビオ勝利の可能性がわずか2%というありさまです。この予測はフロリダでの世論調査の結果だけに基づいたものですが、その他の要素を考慮したモデルでもトランプ85%、ルビオ15%となっています。実はこのサイトは(そしてさまざまな世論調査も)サンダースが勝ったミシガンの民主党予備選でクリントン勝利を予測していましたから、当然番狂わせはありえるわけですが...
 
もしルビオが予想に反して逆転勝利し、そしてケーシックが予想通りオハイオで勝てば、トランプの代議員数のリードが少し詰められるのは勿論、共和党レースについての論調が変わり反トランプ陣営への追い風になります。しかしもしルビオが予想通りに負ければ、反トランプ陣営の厭戦ムードが一気に高まりそうです。なのでルビオのフロリダでのパフォーマンスが重要なのですが、しかしアメリカ時間の9日にフロリダのフットボール場で行われたルビオの集会が、


こういう人出だったので...

*1:ちなみに、民主党側のクリントンとサンダースの間の差は3月9日現在で既に759対546となっています。

*2:予備選(primary)ではなく党員集会(caucus)もありますが、邪魔くさいので全部、予備選と書いていきます。

「白鯨との闘い」と「ブラック・スキャンダル」

ちょっとわけあって時間ができたので以前から気になっていた二本の映画を観てきました。
 
一本目は、予告編を観て怪獣モノなのか?とワクテカしてたのに実は怪獣モノじゃなかった「白鯨との闘い」です。
 

『白鯨との闘い』予告
 
監督ロン・ハワードで、主演がクリス・ヘムズワース。19世紀初めが舞台の映画なのですが、ヘムズワースの見た目がまさにクラシカルな「漢」という感じでカッコ良かったです。予告編でも語られている通り、ハーマン・メルヴィルの「白鯨」のネタ元の一つである、マッコウクジラによって捕鯨船が沈没させられた事件を映画化したという設定。フィクションなので一杯脚色が入っているはずですが、一応ルーズに事実に基づいたものなので、「白鯨との闘い」という邦題から想像されるアクションもののようなアガる結末はつきません。原題が"In the Heart of the Sea"、「海のまっただ中で」みたいな感じであり、もともとの邦題も「白鯨のいた海」というものだったようですが、これらのタイトルの方がちゃんと内容を表しています。怪獣アクションものではなくて(当然だろというツッコミは全て却下です)、白鯨によって「自然」の中に放り込まれた人間たちの漂流サバイバルものでした。なので予告編のイメージで観に行くとちょっと肩透かしっぽくなるのですが、しかしそれでもいい映画でした。正直、主人公であるクリス・ヘムズワース以外のキャラクター達は全くたっていないと思いますが、陸の上以外のシーン、とくに船と鯨のシーンは観てるだけで楽しいです。
 
この作品内での捕鯨は油を取る為のものなのですが、この19世紀初めの世界は「油を取りに海に漁へ行く」世界であり、「油が地面から出てくる」世界ではないので、まるで異世界物のような感じすらあります。その中で白鯨は巨大な世界が少しだけ覗かせた顔のような存在となっていて、主人公が直面する世界を表してくれます。船が沈み漂流が始まった以降の後半はそれほど面白くは無いのですが、しかし最後の対面のシーンの絶望感は良かったです。
 
二本目は、映画のポスターを見て、
ブラック・スキャンダル (角川文庫)
お、これは!と惹かれていた「ブラック・スキャンダル」です(上のはそのポスターを利用した書籍の表紙ですが)。

映画『ブラック・スキャンダル』本編映像
監督スコット・クーパーで、主演がジョニー・デップケヴィン・ベーコンもなぜだかこの映画にそんなに美味しい役でもないのに脇で出てきます。
 
ボストンのアイリッシュ系ギャングもので、ギャングのボスと、ボスの弟の政治家、そして彼らの幼なじみであるFBI捜査官の繋がりを描いた、こちらもBased-on-True-Story系の映画です。ポスター左の関西芸人さんみたいなのがFBI捜査官、右のベネディクト・カンバーバッチが政治家、そして真ん中のザ・「チンピラの兄貴」みたいなハゲのオッサンがボスでなんとジョニー・デップです。ギャングのボスというより、日本の感覚だとほんとにチンピラみたいな感じですが、映画で見るボストンのアイリッシュ系ギャングのボスはこういう見た目ばかりですね。ジョニー・ザ・ハゲ・デップは確か「ラスベガスをやっつけろ

ラスベガスをやっつけろ [Blu-ray]

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でもやっていたはずですが、シュールなコメディ調だったラスベガスに対してこっちはハゲでもシリアスです。あんまりにも怖めに決めてるのでギャングのボスというより吸血鬼のようにすら見えるところもある程なんですが、観ている間、このジョニー・デップに対する違和感をずっと感じていて、正直、あまりのこめり込めませんでした。自分でも驚いたんですが、この映画を観ていた感じたのが「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズの強さ。別にジョニー・デップのファンでもないし、まして「パイレーツ」シリーズが好きなわけでもないのに、ジョニー・デップがシリアスな声で話していてもその声を聴くとなぜだがジャック・スパロウ船長が出てきそうな気がして仕方がなかったです。あの声でかつハゲなのに、シリアスやられても違和感しか無いよ!!

ネットリンチは「不道徳」「不正義」と呼ばれるべきではないのか?

炎上と呼ばれるネットリンチが悪いものであり、批判されるべきだということについては同意なんですが...
bylines.news.yahoo.co.jp
なんで「道徳自警団」なんでしょうか?
 
法律を勉強したのは学部の時にとった「経済法」の講義くらいですし、更にその講義の教科書の内容が日本語で書かれているにもかかわらずさっぱり理解できず、分野の違いというよりも日本語で書かれているふりをした外国語ではないかと疑ったほどなので法律の事はよく分からないのですが、

我々は、あくまで「現在の法」に従って善悪の判断を形成するべきであり

 
そうなんですか?正直、合法なら正義、違法なら悪であって、法律以外に判断基準はないというのには疑問なんですが。
 
法律は時折改正されたり、新しい法律が作られたりしますが、そういう法律の変更は既存の法律だけを善悪の基準としてなされているわけはないと思うのですが。法律以外に判断基準がないのなら、既存の法律を変更する必要があるわけないですから。更に言いまして、もし法律だけが判断基準なのなら、この「道徳自警団」を筆者の方は何に基づいて批判されているのでしょう?
 
この「自警団」には恐らくそこそこの数の人間が関わっているでしょうから、「自警団」の一部のメンバーによる違法行為というのはありうるでしょうが、「自警団」によるネットへの批判の書き込みなり、テレビ局やスポンサーへの抗議なりというのは、違法じゃないですよね?筆者の方も「自警団」による違法行為を取り上げてはいませんし。違法でない行為を「現在の法」にだけ従ってどうやって批判するんでしょう?著者の方も実際は、法律以外の何かに基いてこの「自警団」を批判しているのじゃないでしょうか。
 
実際、問われるべきは合法かどうかではなくて、この「自警団」の行っているネットリンチが不道徳・不正義ではないのかという事だとおもいます。そしてリンチが「現在の道徳」において不道徳であり不正義であるのは自明じゃないでしょうか?
 
「自警団」の連中が本気で道徳を大事に思っているとは全く思えませんが、一応リンチの道具として「道徳」を利用しているとしても、過ぎたるは及ばざるが如しであり、食事は大切でも行き過ぎた暴食は「七つの大罪」の一つです。ネットリンチにおいて批判されるべきは「道徳」ではなく、行き過ぎ、というかいじめの快楽の「不道徳」と「不正義」であるべきじゃないのかと思います。