「ヒメアノ~ル」
前にも書きましたが、この映画を観て改めて思いました:日本映画面白いですよ!
事前情報はあまり無しに、古谷実原作というのとこのポスターの「めんどくさいから殺していい?」というキャッチコピーだけで、イヤ~な作品なんだろうなというイメージを持って観に行ったのですが、そしたらほんとにイヤ~な映画でとても良かったです。
ほんとにロクに知らないまま観に行ったので、映画館内のスクリーン入口の小さなポスターを女の子がスマホで撮っているのを見かけて、あれ、なんで?とか疑問におもったりしたのですが、なんとポスターの茶髪さん*1がジャニーズのアイドルの森田剛さんなんですね。映画観ててもこの森田さんがほんとに荒んだオッサン感を出していて、アイドルとは全く見えませんでした。賞賛してます。すっごく。
『ヒメアノ~ル』予告編
主要登場人物は4人、あるいは6人といったところなんですが、なんとなくドヨ~ンと陰鬱な画面の中、その誰もが変なので、上に書いたように事前情報ろくに無し観に行った私は、あっきらかにヤバそうな茶髪の森田さんだけでなく他の登場人物も一体いつ何をやりだすか知れたものじゃないと警戒してしまいましたので(ヒロインの女が実はヤバイ奴で!とかも想像していた)、まだ話が見えず、様々な可能性が広がっていた前半はほんとにヒリヒリしながら映画を観ていました。完全、個人的な事情による感想ですが、「知らない」ものを観に行く醍醐味でしたね。ですがたとえ原作を読んでいて話を知って観に行っていたとしても、色々見所のある映画だったと思います。その中でも特に完全予想外に見所だったのが、タイトルロールでした!タイトルロールでゾクゾクしたのなんて初めてな気がします。
後半は当たり前ですけど話が見えてきて、私の中でのヒリヒリ感が収まって行ったのですが、それでもその上でこの映画はこっちを驚かしてくれました。暴力描写です。観てて、これは韓国映画か!みたい暴力描写を積み重ねていくのですよ。いや、素晴らしいです。前に評を書いた「アイ・アム・ア・ヒーロー」も凄かったですが、あっちは暴力というよりもカラッとしたアクションシーンなのに対して、こっちは(主に)弱者への陰惨な暴力。そういう暴力を執拗にアイドルが演じて描くのは大したものです。しかも、ラストのラストは湿っぽくなりますが、途中は陰惨でありつつも乾いている...暴力だけでなく小さな嘘を平気でつく事で、茶髪の森田はポスターの述べる「2通りの人間」の此方側でない人間で有ることを細かく見せていきます。
最近の作品で壊れた陰惨な暴力、というかポスターに書かれている「捕食者と被食者」を描いたものとしては、「凶悪」がありましたが、あっちがショッボイ「正義批判」でもって作品を下らなくしていたのとは違い、こちらは誰が悪いとか誰のせいだとかは関係なく(いや勿論、原因を作り出したような悪い奴はいるわけですが)、そうなってしまった存在との共存がもはや出来無い事を見せつけている映画でした(ラストはちょっと違うけど)。
*1:映画の中で金髪とか呼ばれてましたが、せいぜい茶髪程度なので、ちょっとそれに違和感がありました。
テキサスは合衆国から脱退するか?(どうせしないけど)
史郎正宗原作の攻殻機動隊のシリーズにおいて、アメリカ合衆国は東西海岸諸州の米ロ連合、テキサスを含む南部諸州からなるアメリカ帝国、そしてその残りの地域からなるアメリカ合衆国の三つに分裂します。そもそも19世紀アメリカの南北戦争は奴隷問題をもとにした南部諸州の合衆国からの脱退による合衆国の分裂を阻止して統合を維持する為に共和党のリンカーンが戦ったものですが、南部での民主党と共和党のポジションがひっくり返った21世紀のアメリカでは、テキサス共和党が党の公約として合衆国からの脱退をあと少しで掲げていたかもしれない状態になってます。こちらの記事によると党大会で採択の討議にかけられる党の公約の一つとして、脱退のための州民投票の提案がギリギリで公約案として選ばれなかったそうです。
ja.scribd.com
その代わりに採用されたのが、
- 生物の起源や環境変化について、すべての学説の客観的かつ平等な扱い*1
- LGBTの否定:ゲイはセラピー行き、トイレだロッカーだは生物学的特徴に基づいて利用
その他もろもろ。ついでにアメリカン・アイデンティティも強調してます。まあ、オバマが大統領になって以降、テキサス共和党はアメリカからの脱退をしょっちゅう持ち出してますが*2、それでも「アメリカ人」なわけですな。どうせ脱退なんてほんとにやるとは今のところ思いませんが、テキサスなので将来どんな事が起こるか起こらないかわかりません。なので本当にそうなったら、それはそれで面白いなぁー(棒)とは本気で思いますけれど。
「アイ・アム・ア・ヒーロー」と「太陽」、あるいは邦画、面白いって!
しばらく前に、海外で日本映画を配給しているイギリス人の方による
「日本映画のレベルは本当に低い。最近すごく嫌いになってきたよ!」
という発言がちょっと話題になってました。
www.sankei.com
最近の日本映画がつまらないので面白い邦画のプロデュースにも乗り出しているそうで、日本映画への愛を感じますが、それでも日本映画に対する評価がちょっと厳しすぎる気もしてしまいます。この記事(やヤフーで配信された時)のブクマを見てもこの批判に同意している人が多いようです。ですが、そういう批判が想定している「日本映画」って邦画の中でも「大作」と呼ばれるタイプの作品の事ですよね。うまく当たれば映画興行収入ランキングの中に入ってくるような。そういう作品だけを考えれば「日本映画ダメ!」と言ってしまいたい気持ちもわからなくはないのですが、日本映画を観てる人ならだれでも知っているように、日本映画の大半はそういう「大作」とか呼ばれるような作品ではない*1わけです。そういう作品は目立つわけですから仕方ないとはですが、面白い邦画も作られていますって!と声を大にして言いたいと思った映画ファンは多いはず。
ですが、そういう非大作系の面白い日本映画って、
matome.naver.jp
こういうタイプの作品である傾向が高いです。つまりアクションとかホラーとかSFとかいうジャンルラベルを貼られない非ジャンル系の作品であったりします。勿論、それはそれでいいのですが、ジャンルに分類されるタイプの映画が好きな人間としてはそれはそれでちょっと残念と思っていたら、まさにそういうジャンルに含まれるで傑作を最近、日本ならぬ二本も観ることができて興奮しましたので、宣伝の意図も込めて書いてみます。
*1:実際、このイギリス人の方が面白い日本映画として挙げている作品も、またプロデュースしている作品もそういう「大作系」ではないはず。
民主党予備選モデルの予測の結果
前回の記事に書いた民主党予備選モデルで予測されていた5州の予備選の結果がでましたので追記しておきます。
ニューヨークタイムズによりますと、モデルの予想通りヒラリー・クリントンがロードアイランド州以外の4州で勝利し、各州での彼女の得票率は以下のようになったそうです*1。
結構、予想通りの結果になりましたね。また、この結果によりクリントン対サンダースの獲得代議員数は1640対1331となりました。
まだ546の代議員を持つカリフォルニアも含めて14の予備選がありますが、以前から予想されていた通りサンダースがクリントンに逆転するのはまず無理でしょう。なのでそろそろサンダースにも民主党内でごねるんじゃなくて、11月の対共和党の本選を見据えた行動をとって欲しいのですが、果たしてどうなるかな?共和党にとってのトランプほどじゃなくても、2000年の民主党にとってのラルフ・ネーダーのような選挙の妨害者になったりはしてほしくないのですが。
*1:5州のうち3州はまだ開票率99%なのですが、まあここまで開いてれば比率はほぼ変わらないでしょう。
アメリカ民主党予備選モデルと、早いこと終わってくれという事
クルーグマンのブログ記事で、政治学者のAlan Abramowitzによる民主党予備選のモデルが紹介されていました。
これはヒラリー・クリントンの民主党予備選での得票率を、民主党員の比率、アフリカ系アメリカ人の比率、そして南部州かどうかの3変数で回帰したものです。3変数についての出口調査のデータがそろっている州からサンダースの地元であるヴァーモント州を除いた19州の予備選のデータから、下のような結果になったそうです。
クリントン = 4.637 + 11.571南部 + 0.217アフリカ系アメリカ人 + 0.572民主党員
(15.844) (2.727) (0.104) (0.238)
R² = 0.899 [係数下の(...)は標準誤差です]
そして、このモデルからの予測と実際の数字を比べたのが下のグラフです。
横軸がモデルからの予測で縦軸が実際の数値です。R²の数値からして当然ですが、非常に当てはまりが良いですね。
これから言えることは、クリントンは南部で、アフリカ系アメリカ人の比率が高く、民主党員比率の高いところ*1で強いという事。クリントンが非白人層からの支持率が高い民主党のエスタブリッシュメント候補だという事からして当然でしょう。サンダースはその逆で、非南部州、白人、非党員に強いわけですが、これもサンダースが若い白人リベラル層に強いという事からして当然。そして更にこれから出てくるのが、ここしばらくサンダースの勝利が続いていましたが、それは別にサンダースの勢いがどうこうという事ではなくて、サンダースに有利な条件を満たす州での予備選がしばらく続いていただけだったということです。
さて、アメリカ時間の26日に次の民主党予備選が5つの州で行われますが、このモデルと2008年での出口調査の数字を使っての結果予測が下の表になります。
ロードアイランド以外の5州でクリントン勝利の予想。まあ、8年前の数字からの変化がどれくらいかとかありますし、コネチカットの52%はノイズに飲み込まれて逆転してもおかしくはないとかありますが、26日の民主党予備選でクリントン有利なのは間違いでしょう。
ということで、民主党ではクリントン勝利はほぼ間違いないところなので、サンダース陣営や支持者には"Bernie or Bust"とか言いながらクリントン・ディスをしたりせずに、早いこと11月の本選に備えてほしいです。というか、内戦は止めようよ!
*1:予備選のシステムは各州ごとでバラバラで、党員しか投票できない州もあれば、非党員も投票できる州もあったりします。
金まみれの共和党は脱減税の夢を見れるか?
トランプの躍進についてアメリカは勿論、日本でも心配する意見がありますが*1、現代アメリカの代表的なリベラル言論人の1人になっているポール・クルーグマンがニューヨーク・タイムズのコラムで心配するどころか逆にこのトランプの躍進を歓迎すべきとまで書いています。
私が思うに、トランプ氏の躍進は実は歓迎すべき事なんだ。勿論、彼は詐欺師だ。しかし彼は他の(共和党の)連中の詐欺を暴露する役割を事実上果たしてもいる。つまり、信じがたいだろうが、この狂った困難な時代においてはこれは前進の一歩なんだ。
*1:もっとも、日本のは大抵、単に真面目ぶって問題を論じているフリをしているだけだと思いますけど。
(共和党の)天下分け目の戦い:フロリダ予備選
日本時間の3月9日現在、共和党の大統領選指名争いでまだ残っている4人の獲得代議員数は
- トランプ 458
- クルーズ 359
- ルビオ 151
- ケーシック 54
となっています。トランプがリードしていますが、トランプ大統領の可能性が取り沙汰されて騒がしいわりには、共和党候補指名を確実にする代議員数が1237人である事を考えるとトランプと2位のクルーズの差は大きくありません*1。なので、共和党内の反トランプ陣営はまだなんとかなるのではないかと希望を捨てておらず、#NeverTrumpというハッシュを作ったり、2012年の共和党大統領候補であるラムニーがトランプ批判したり、金持スポンサーが反トランプのCMに大金注ぎ込んだりしているそうですが、そもそもトランプ支持者は共和党のエスタブリッシュメント層、つまりエリート達に裏切られていると感じている人達なのでそういう金持・エリートによる批判はあまり効果を持っていないようです。ラムニーのトランプ批判の効果についてのとある調査によると、ラムニーの批判によってトランプに以前より投票したくなくなったと答えた人が共和党員の中で20%いたものの、31%がより投票したくなったと答えており、効果なしが43%となっています。2012年にラムニーに投票した人についてもほぼおなじ数字になっていますし、トランプ支持者についてだと、投票したくなくなったのが5%、より投票したくなったのが56%ですから、全然効果がなかったという調査結果になっています。また、ついにルビオ陣営が選挙戦から降りる事を検討し始めているという情報もあります。トランプの競争相手の数が少なくなれば反トランプ票が残りの候補に集結しますから、反トランプ陣営の共和党集会での逆転勝利も可能ではないかという希望を語っている人もいますね。
とにかく現状ではトランプの数字は圧倒的という程にはなっておらず、まだかすかな希望が反トランプ派には残っていますが、これがかき消されるかもしれないのがアメリカ時間で3月15日に行われる共和党の6つの予備選です*2。この3月15日から共和党の予備選ではウィナー・テイクス・オール、勝者の代議員総取りのものが増えていきます。これまでは、足切りがありつつも獲得した票数に応じた代議員の分配制度の州が多かったので、トランプが多くの州で勝ったのにかかわらず、その勝ち星からの印象ほどの差が獲得代議員数についてはなかったのですが、これからは総取り方式が増えていくので、トランプが勝てば勝つほど獲得票数差以上の差が代議員数においてついてきます。なので15日までに反トランプ派はなんとかトランプの勢いを抑え込みたいと考えているようです。ですが現状、その可能性はかなり低そう。15日の6つの予備選のうち、代議員数が一桁の北マリアナ諸島の予備選を除いた5つの中で総取り式の州は、フロリダ、イリノイ、オハイオの3つであり、それぞれ代議員数は
- フロリダ 99
- イリノイ 69
- オハイオ 66
となっています。この3州のうち、オハイオはケーシックの地元で今のところケーシック勝利の予想となっていますが、他は全てトランプ優勢の状況です。悲しいのがフロリダが地元であるルビオで、フロリダでの支持率がこういう状態になっており、
2012年の大統領選で名を上げたネイト・シルバーのサイト、FiveThirtyEightでの予測だとトランプ勝利の可能性が日本時間10日現在で97%、地元候補であるルビオ勝利の可能性がわずか2%というありさまです。この予測はフロリダでの世論調査の結果だけに基づいたものですが、その他の要素を考慮したモデルでもトランプ85%、ルビオ15%となっています。実はこのサイトは(そしてさまざまな世論調査も)サンダースが勝ったミシガンの民主党予備選でクリントン勝利を予測していましたから、当然番狂わせはありえるわけですが...
もしルビオが予想に反して逆転勝利し、そしてケーシックが予想通りオハイオで勝てば、トランプの代議員数のリードが少し詰められるのは勿論、共和党レースについての論調が変わり反トランプ陣営への追い風になります。しかしもしルビオが予想通りに負ければ、反トランプ陣営の厭戦ムードが一気に高まりそうです。なのでルビオのフロリダでのパフォーマンスが重要なのですが、しかしアメリカ時間の9日にフロリダのフットボール場で行われたルビオの集会が、
Rubio stadium event in Hialeah. Stands empty; crowd in one end zone. pic.twitter.com/9zj0xslwSA
— Byron York (@ByronYork) 2016, 3月 9
こういう人出だったので...