P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

ハーラン・エリスン 「死の鳥」

帯の文句が「華麗なるSF界のレジェンド、再臨!」とあるハーラン・エリスンの日本オリジナル短編集。

10編の短編中、9つがヒューゴやネビュラ、エドガーやその他の賞を受賞しているか候補になっているという、非常にきらびやかかつ贅沢な短編集です。そのうち4つは既読、あるいは一部既読だったのですが、今回、これを読んでエリスンの印象がガラリと変わりました。
 
この短編集、前半に収められた既読の「『悔い改めよ、ハーレクイン!』とチクタクマンはいった」やら「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」を再読していた時には、以前同様、単純に、エリスン、カッコいいなと思っていたぐらいだったのですが、だんだん印象が単にカッコいいから別のものへ...タイトル作品の「死の鳥」あたりから、あれ、なんかすっごい??へと昇格。そこから最後の「ソフト・モンキー」まで傑作でした。
ハーラン・エリスンがこんなに面白いとは思ってなかった。それどころか、素晴らしいとすら思いました。

どれも良かったのですが、ミステリーのエドガー賞受賞作も入っている事から分かる通り、SFプロパーな作品だけではないこの短編集の中でSF作品としては特に「北緯38度54分、整形77度0分13秒 ランゲルハンス島沖を漂流中」が良かったです。ジャンクでポップな衒学趣味の法螺話、そしてそれを人生の哀しみに結びつけていて。この短編集の作品は、おそらくエリスンの傾向なのでしょう、哀しみについてのものが多いのですが、この作品では法螺話が最後に救いへつながります。俺の求める良いSFの一つのあり方を体現しているような作品でした。

ところで最後に一つ、また改めて「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」についてなのですが、この既読であった作品、以前読んだ時と今回では、印象が完全に逆転してしまいました。勿論、以前同様、迫力がある面白い作品だったのですが、以前はこれは勝った物語なのだと思っていたのに、今回は最後の一文でこれは負けた物語なのだと感じたわけです。訳が変わったのだろうか?この短編集には新訳とも改訳とも書かれていないが。あるいは俺の方の感じ方が変わったのか?この作品だけでなく、エリスンに対する評価が大幅に変化したことからすると、こちらがエリスンを理解できるようになったということなのかもしれません。とにかくなんであれ、傑作短編集でした。