P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

毎月号そうなんだけど、今月も3月号を全部読む前にAsimov's SF の4/5月号が来てしまった。思い返してみても、これまでAsimov'sもF&SFも掲載作品全部を読んだ事って一度もないなぁ。もう少しちゃんと読みたいけど...
ま、とにかく少しは読んだのでその記録として。

Asimov's SF, March, 2008, から。冬のアメリカ北東部沿岸で大学教員が漁船をチャーターして荒れだしそうな海に出て行く。目的は沖合いの岩礁でなんらかの生殖行為を行なっているらしいShoggothと呼ばれる生物。こいつはどうも巨大なくらげ?のような生物らしいのだが、もしかすると不死なのではないかとその教員は考えていて、終身在職権(tenure)獲得の為に寒い海辺の漁村へやってきたのだ。ちなみに終身在職権とはアメリカでの教員の権利。普通の教員は数年ごとの契約で基本的には契約が終われば学校を出て行かなくてはならないが、この終身在職権を取れれば職の心配をする必要がなくなる。大学教員だとこれの獲得のために Publish or Perish と言われる過酷な業績競争に身をさらさないといけない。もし本当にShoggothが基本不死の生物で、その秘密の一端でも解き明かせればそりゃ終身在職権くらいいくらでも取れる。
で、雇った漁船の漁師とともに調査に向かうのだが、その過程でその教員が黒人であること、教員・漁師ともに"Great War"で戦った事が語られる。"Great War"? ということは二つの大戦の間の戦間期か?雰囲気的に確かにそんな感じ。Shoggothの存在は当然として受け入れられているから、パラレルワールドと言う事になるかもしれないが、なんとなく昔読んだ岩波創元の翻訳恐怖小説みたいな感じだな...と思っていたら、まさにその通り。
結構面白い、とくに中盤までは期待して読めたんだけど、終りがなぁ。悪いわけじゃないと思うけど、Shoggothの実態を考えればもっとはじけてほしかった。これはどういう小説、というかSFが俺の好みかということだが、俺は世界が変わっていく様が見たいんだよ。その変化の中でようやく一瞬垣間見える世界の構造を知りたいし、その変化に参加できる機会がほしい。しかしこの教員は世界を変えることのできる力を持つことができたのに、それを選ばない。まあ一応納得のいく理由はあるのだが。で、その納得のいく理由ゆえに力を選ばなかったことを著者がこの話の肝として選んだんだろう。それはわかるが、俺の好みから行くとそれは、もったいねぇ、なのであった。