P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

あらら、という感じで予想外にヒラリーさんがオハイオの民主党予備選で勝っちゃいました。このオハイオでの予備選のあった3月4日にはオハイオ以外に、テキサス、ロード・アイランド、そしてカレーのおいしいヴァーモントでの民主党予備選があったんですが、そのうちテキサスとロード・アイランドでヒラリーさんが、ヴァーモントだけでオバマさんが勝った模様。まあこの「勝った」というのは獲得した投票総数で勝ったということで、実はこの予備選で重要なのはそれぞれの州の選挙区ごとでの投票結果により獲得した選挙区ごとの代議員の数なので、投票数で勝って代議員数で負けるという「試合に勝って勝負に負けた」みたいなことも起こるらしい。この代議員数の勝ち負けはまだ不明なのでまだ選挙の勝ち負けについていっても仕方ないとこがあるんだけど、ただオバマの連戦連勝の勢いが止まってしまったのは間違いない。
その原因として二つの事が言われている。一つは今回の選挙前にヒラリー陣営が行なった、メディアはヒラリーに厳しくオバマに甘い!、という批判。これは町山智浩さんも書いてはりましたね。
もう一つの、とくにオハイオでのヒラリー勝利に貢献したのではないかと思われる要因が、オバマさんの経済関係顧問のグールズビーさん(Goolsbee)。グールズビーさんというのはシカゴ大学の経済学者で、共通の知人を通じてオバマさんの顧問となったそうな。学部・マスターがエールで、Ph.DがMIT、そしてシカゴ大か...実は俺も経済学をちょこっとだけゴニョゴニョ...やれやれ...ま、とにかく俺ごときが彼の事を語るなど畏れ多いのだけど、たぶん日本語は読めないと思うのでちょこっとだけ(比較優位だね。彼は経済学で何か書き、俺は日本語で何か書くと...やれやれ...)まあ、とにかくシカゴ大の教授でもつまらない失敗をしないというわけではないわけで、このたびグールズビーさんは些細な失敗をしはりました。
で、その失敗の説明の為にちょっとまずその背景を説明する。今回の予備選が行なわれた州の一つのオハイオは製造業が多い州なのだけど、この景気後退のなか製造業就業者数の減少が著しい。当然その事が問題になるわけだけど、そのなかで大きく問題視されているのがNAFTA、北米自由貿易協定、なわけだ。これはアメリカ、カナダ、メキシコの3ヶ国による自由貿易協定なのだけど、これのせいでアメリカの製造業の職が減っているのだと非難されている。でも、これって実は10年以上も前の1993年に当時のビル・クリントン政権によって調印され1994年から実施されている協定なんだよね。当時もアメリカの製造業就業者数への悪影響が心配されて当然もめたんだけど、90年代のアメリカの好景気のなかでその心配は影を潜めていたのが、ブッシュ時代の不景気でまた出てきたというわけ。民主党は労働組織が支持母体の一つだから、ヒラリー・オバマ共にこのNAFTAへの不安に対してなんとか答えなきゃいけない。当然、私が大統領になったらこのNAFTAについて何とかしますよ、カナダとメキシコに対してもっと強く交渉します、とかなんとか労働者の不安をやわらげることを言うわけだ。しかしそれが今度はNAFTA参加の他の2国、カナダ、メキシコ、にとっての不安の種になる。もし民主党が政権をとれば、アメリカはNAFTAの再交渉とかなんとか、保護主義的な政策をとるのか?、と。
で、カナダのシカゴ領事館がオバマ陣営の経済政策について本音を探るため、シカゴ大のグールズビーと接触することとあいなったわけだ。するとその接触とその中での発言のことがまずリークされて問題になってしまった(あらら...)。いったんオバマ陣営/グールズビーはこの接触とその中での発言内容を否定しようとしたのだけど、その後その発言のメモがカナダからまたリークされて(カナダァ...)、もうだめ、と。その問題となったグールズビーの発言内容は、オバマの保護主義的な言動は選挙対策です、大統領当選後の真剣な経済政策ではありません、というもの。ビル・クリントン以降、民主党の対外経済政策は自由貿易というか積極的なグローバリズムの活用が基本で、そのことが党の積極的なアクティビスト達から問題視されているくらいなのだから、まあ、ここらへんは知ってる人が聞いたら、ですよねぇ、というだけのことなのだけど、リーク以降、オハイオの民主党支持者の反応は違ったようで、オバマは2枚舌だ、信用できないとなったらしい。そして3月4日の予備選数日前までヒラリーを猛追していたオバマの勢いが衰え、そしてオハイオでの10%ポイント以上の差をつけられての敗北となった。まあ、ヒラリー陣営もNAFTAへの不安に対してリップサービス以上のことをするはずがないのだけど、まあそのことがオバマはばれて、ヒラリーはばれなかった。グールズビーさんが経済学的に間違った事を言ったわけではないのだけど、でも間違っていなくても失敗にはなってしまう。人生って、難しいですねぇ。