P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

クルーグマン、ノベール賞受賞への反応

当たり前ですけど、クルーグマンノーベル賞受賞への色々な反応が出てますね。で、これまた当たり前ですけど、各人の政治的立場に応じて受賞への反応は予想通りに分かれてます。経済学者のブログを見ても、リベラルは賞賛(たとえばBrad DeLongDani Rodrik)、保守はニガニガしく思いつつも賞賛するか(Tyler Cowen)か、おめでとうの一言の後、皮肉が続くなり(http://www.marginalrevolution.com/marginalrevolution/2004/07/paul_krugman_gu.html:title=Bryan Caplan])、批判サイトへのリンクを貼り付けるなり(Greg Mankiw)してます。
ただやっぱりそうなのかなと思わざるを得なかったのは、リベラルな経済学者でもクルーグマンの大学の外での活動(政治、非政治的双方を含む)も受賞の要素の一つだったろうと考えてる人がいる事ですね(John QuigginDaniel Davis)。あんまりそういう風には考えたくなかったけれど、Mankiwが言っているようにクルーグマンの受賞自体は別段驚きではなく、ただ時期や同時受賞者がいなかった事が驚きなわけだから、大学外での活動も受賞の要因となったと考える事もまあ、仕方ないのかも。

ところで上に挙げた保守派リンク先のコメントは、なんといっても同業の経済学者のものですから、なんだかんだで抑えられたものになってますが、そういう縛りの無い保守派の人達のクルーグマン批判のコメントはとても味わいのあるものになっています。Brad DeLongがそういう味わい深いコメントを集めてますので紹介してみます(リンク)。9つのうち8つは受賞後のものですが、最初の1つは2005年のものです。

1.Powerline*1:Special John Hinderaker 2005年8月8日: ポール・クルーグマンであるのはとても辛いことだろう。どれだけ経済がよくても、ブッシュ政権を憎むクルーグマンは青空に黒い雨雲を探さなければならないのだ。この好景気の最中に、一体何についてクルーグマンは批判すればいいのか?Hissing Soundと題された今日のコラムで、クルーグマンは住宅バブルが起こっていて、それが崩壊するだろうと語っている...勿論、住宅と証券には明白な違いがあるのだが。大抵の人は一軒の家しか持っていないし、取引費用のせいで家を証券のように売買するのは現実的ではない。クルーグマンはJames Glassmanがバブル説にのらない事自体がバブルの証拠だと考えているが、しかしGlassmannの記事を読んでみると彼はクルーグマンといくつか同じ要素について考えている事がわかる。その上で彼は、住宅価格の壊滅的低下は起きそうにないと主張している。私には非常に説得的に。クルーグマンは、彼の悲観論を受け入れてもらうためには、もっとましな何かを持ってこなければならないだろう。*2

2.The Volokh Conspiracy*3:derut:すばらしいですね。彼のは擬似ノーベル賞なのだが。そんなもんなんだよ。彼の政治が擬似科学なのと同じ。すごーい。ほんと、賞賛するね。彼をケーブルでみた人は多いよな。だれか彼がちょっと落ちついてないと思った人はいない?まるでねずみみたいにしゃべってたし、陰険な目つきは変だったし。なんかまるで、誰かがコップを落としただけで、叫びだしそうだったよ。*4

3. The Volokh Conspiracy: EricPWJohnson:ミルトン・フリードマンは完璧に、徹底的にクルーグマンの全ての主張を批判している。ノーベル賞の委員会はフリードマンが世界の指導者達を助言して助けた事や彼の理論が使われた時のポジティブな効果について述べている。クルーグマンは2000年暮以来誰かをバカだと呼びつづけた事で受賞した。フリードマンは多分、将来、数学でもほんとのノーベル賞を受賞するね。そんなことはクルーグマンは、未来を予想なんかできない彼の静的な労働と、需要とかその他の変数とかでできた彼の1911 model T 10 のポケベルでは、できっこない。*5

4.Donald Luskin*6:ノーベル賞は故人には贈られなかった−受賞者は生きていなければならなかった。だから、ジョン・メイナード・ケインズや、フィッシャー・ブラックなどの偉人達が経済学賞を受賞できなかったのだ。しかし、全ては変わってしまった。本日のポール・クルーグマンの受賞により、ノーベル賞は10年も前に死んだ経済学者へ贈られる事となった。賞を生きて受け取った人物はただの有名な知識人、オプラ・ウィンフリーと同じところで活動している人物だ*7。そして知識人としても、受賞は不適切である。というのは、知識人として活動する科学者がその分野である科学をかつてこれほど歪め、いいかげんに扱ったことはなかったからだ。クルーグマンのニューヨーク・タイムズでの経済学関連でのコラムは、2006年の物理学受賞者、天文学者 Mather と Smoot*8が占星術についてのコラムを書いて、さらに天文学についての嘘をつくのと同じなのだ。しかし、それがまさに行われている。今となってはただ1つの疑問は、はたしてクルーグマンが受賞の賞金への税金を、彼が非難してきたブッシュにより引き下げられた税率で払うのか、それとも彼が公正だと考えるもっと高い税率で払うのかだけである。

5. Daniel Klein: 彼の大衆向けの業績の大半は恥ずべき代物である。民主党に媚びる為に、経済学の結論が大衆への口当たりの良さを目指す民主党の考えに反する問題は、彼はまるっきり無視するのだ。これは彼がニューヨーク・タイムズに書くようなってからはさらにひどくなった。{注:Daniel Kleinについて: 1964年の市民権法に彼が反対なのは、それがアフリカ系アメリカ人にとって良くないものだからだと彼は主張している。}

6.Greg Mankiw*9: この最新の受賞者についてさらに知るには、[Daniel Kleinによる]彼の論説についての解説を読んでみてくれ...*10

7.Roger Kimball http://pajamasmedia.com/rogerkimball/2008/10/13/what-a-way-to-celebrate-columbus-day-or-stockholm-takes-leave-of-its-senses/: しかし今日、我々はまたもやヘーゲルの歴史の進歩についてのマルクスによる改訂の新たな版を入手したわけだ:歴史は2度繰り返す: 一度目は悲劇として(アラファト)、そして二度目は喜劇として − 今年のノーベル経済学賞受賞者を見よ: ポール・クルーグマンだ。そう、ニューヨーク・タイムズの論説のお笑い(のうちのひとつ、か)であるポール・クルーグマンだ: その経済とアメリカ社会に対するヒステリックな批判は、束縛を離れてニューヨーク・タイムズから発せられる左連中の雑音*11の一部となる以前からどうにもひどいものだった、反資本主義で反米の扇動屋だ。クルーグマンはただの左派経済学者ではない。彼は極左の活動家で、唯一役に立つのがある種の反米デマゴーギー達の首につけられた鈴であることだけなのだ。なんというか、あまりにばかばかしくって泣けてくる。そしてそうしている間に、クルーグマンは140万ドルも金持ちになるというわけだ − もちろん、オバマが選ばれて「たなぼた」の利益とやらに関して首を突っ込んでこなければだが。だからと言って私がオバマの当選を願ったりしないが(まあぎりぎりで)、しかしこれはある種の慰めにはなる。[追記: 考えてみると、ノーベル賞の委員会は、クルーグマンの様な妄想家に賞を授けたいというのなら、ノーベル文学賞を贈るべきだったのだ。なんといっても、彼の書くものは*12近年の受賞作よりも読みにくいわけではないし、同程度にフィクションなのだから。]

8.Rob Taylor: ショックだ。アメリカ共産党公認のアメリカを憎むソロス*13ノーベル賞を受賞した。これって、まるで委員会に政治的目的があったかのような...

9.Jonah Goldberg teamed with an Anonymous Coward*14: クルーグマンはさらにひどくはなりようがない。彼はいつでも事実をでっち上げるし、それが見つかっても間違いを認めようとはしない。彼は物事の両面を冷静に考察しようとか、理性と観察された事実から真実を見つけだそうなどとはまったくしない。彼と意見の合わないものはいつでも悪人扱いだ。彼の金切り声でヒステリックな叫びは、真っ当な差異を矮小化し、理性的な反論ではなく勝つための攻撃を繰り出してくる。その上、彼は自分の専門分野以外の多くの事は実のところ良く知りもしないのだ。ノーベル賞の委員会は候補者のキャリア全体に基づいて判断しているわけではない事は分かっているが、しかしクルーグマンの受賞は彼らに再考させてしかるべきものだ。彼はニューヨーク・タイムズの彼のコラムにおいて、彼の分野の知的水準を低下させつづけている。これはノーベル賞委員会が[経済科学」と呼んだものへ重大かつ長期的な害を及ぼすものだ。クルーグマンの学問的貢献全てをもってしても補えないほどのものを。

まあ、みなさん、すごいですね。しかし、日本も負けてはいませんよ!(リンク)
追記:あれ?なんか上のリンク先は冗談という事になっているらしい。ほお...へええ...

*1:保守派のブログ。http://www.powerlineblog.com/

*2:これはブッシュ政権下でもまだ景気のよかった2005年、[http://www.amazon.com/Bush-Boom-Misunderestimated-President-Economy/dp/1594670870:title="Bush Boom"なんて言葉がまだ保守派の間で通用していた頃のクルーグマンによる住宅バブルへの警告を批判したもの。勿論、このあとクルーグマンが正しかった事が証明されてしまった。まあ、残念ながらあまりうれしくはないが。

*3:http://volokh.com/

*4:クルーグマンは文章はうまいが、しゃべりは下手。そこをついているわけだけど、これって批判じゃなくて、憎しみをぶつけているだけだよな。

*5:"1911 model T 10"というのは、おそらくフォードのモデルTのことで、要するにクルーグマンの使う数学やモデル分析に対する批判をしたいのだろう。「静的」ってのや未来がどうこうってのは、保守派が金持ち減税を主張するときの「動的」何たらかんたらってのと対比させているのだろう。彼らは減税によって経済が効率化して、減税による「静的」な減収は経済発展による「動的」な増収によって補われる、みたいな事をいうので。でもこれって、何年か前にアメリカ議会の共和党が要請して実行された調査で否定されたんだけどね。あと、フリードマンの数学については知らないのだが、たとえ彼の数学での業績がどれだけあったとしても、まずノーベル賞は故人(フリードマンは2006年に亡くなっている)には贈られないし、あとノーベル賞には数学部門はない、ので現行のノーベル賞体制ではフリードマンノーベル数学賞を受賞する事はありえない。

*6:長年に渡り保守派のattack dogとしてクルーグマンを攻撃してきた人物。まあ、失敗の連続であったわけだし、正直辛い仕事だったと思うんだけど。

*7:原文は"The person alive to receive the award is merely a public intellectual, a person operating in the same domain as Oprah Winfrey." "a public intellectual"がうまく訳せない。オプラ・ウィンフリー(アメリカで一番稼ぐテレビ司会者)との整合がうまく取れない...

*8:ここでLuskinは"astromers"と書いているが、これは恐らく、"astronomers"天文学者の間違いだろう。

*9:ブッシュ大統領のもとで一時期、経済関連の顧問を務めた。

*10:Daniel Kleinは5.の人。一応、Mankiwはおめでとうだの、受賞は当然だと言ってるわけですが、こんな人によるクルーグマン解説を読めとは、受賞を祝う気は全然ないようですね。

*11:"the ambient left-wing static" 恐らく"ambient static"はラジオの雑音みたいなものではないかと思うのだが...

*12:原文は"he work is"となっている。明らかに"his work is" の間違いだろう。

*13:投機家のジョージ・ソロスにたとえられている。オープン・ソサエティを提唱するソロスはアメリカの保守派のパブリック・エネミーNo.1であって、彼はアメリカ中の反米主義者(つまり左派)に金を渡して裏から操っていると保守派は妄想している。

*14:Jonah Goldbergは保守の知識人で、Liberal Fascism((http://www.amazon.com/Liberal-Fascism-American-Mussolini-Politics/dp/0385511841/ref=pd_sim_b_3:title=リンク])という本を出している。ちなみにアメリカのアマゾンで検索すると、上記の"Bush Boom"の[この本を買ったお客様はこのような本も買われています」の中にこのLiberal Fascismが出てくる。