P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

CIAのクーデター工作と、インサイダートレーディング

中南米では第2次世界大戦後、社会主義革命や反米政権成立が相次ぎました。それに対してCIAが様々な成功・失敗した工作をしていた事は有名です。で、その工作の中にはクーデターもありました。社会主義政権や反米政権をクーデターにより親米政権に変えようというわけですね。政治的意図が主な動機のはずですが、中南米の国などにはアメリカ系企業からの投資も長年行われてきたわけで直接的な経済利益も関わっていたでしょう。すくなくともその投資を行ってきたのに国有化の危機にさらされる事となった企業にとっては大きな経済的利益が関わってます。1951年にグアテマラでアメリカ系企業の国有化を目指していた新大統領が就任しました。その大統領に対してCIAがクーデター工作を行ったのですがその裏では、という話がSlateに載っていました。
グアテマラで国有化された農場をかつて所有していたユナイテッド・フルーツ社(UFC、いまのChiquita)の社長トーマス・コボットは、その事を兄弟のジョン・ムーア・コボットと相談しました。というのは、ジョンはアメリカ国務省の中南米担当の高官だったからです。で、ジョンは国務省長官のジョン・フォスター・ダレスと相談しました。すると、このジョンも、自分の兄弟のアレン・ダレスと相談してみる事にしました。なぜならアレンはCIAの長官だったから。しかもアレンはUFCの取締役の一員でもあったのです。おお、これで見事に円がつながりました!というわけでコボット達とダレン達の活躍により、民主的な選挙で選ばれた大統領は1954年、クーデターによって追い出され、かくしてUFCの利益は守られたのでした!
この裏を調べたのがArindrajit Dube、Ethan Kaplan、そしてSuresh Naiduの三人の経済学者で、彼らはアメリカの情報自由法によって公開された政府の情報と株式データから、このクーデターを仕組んだ連中の誰かは、同時にインサイダートレーディングも行って利益を得ていたと主張しています。クーデター発生前にUFCの株を買っておけば、クーデター後の値上がりで利益がでますから。また同様のインサイダートレーディングの疑惑はこの他のCIAによるクーデターに関しても指摘されています。

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Such trading on inside information is illegal, and when it involves highly classified details about a future CIA coup, it verges on treason. Yet the researchers found that prices of companies affected by the CIA's regime-toppling efforts—UFC in Guatemala, Anglo-Iranian (oil) in Iran, Anaconda (mining) in Chile, and American Sugar in Cuba—went up in the weeks and months preceding the coups. (The authors restrict their analysis to coups for which they had access to declassified planning documents and for which U.S. companies had had property nationalized by the targeted regimes.)
Furthermore, these gains were concentrated in the days following crucial government authorizations or plans for the coup (suggesting the trades weren't simply the result of good guesswork about a coup in the making). For example, in the week that President Eisenhower gave full approval to Operation PBFortune to overthrow Árbenz, UFC's price went up by 3.8 percent; the stock market overall was flat that week.
そのような株式取引は違法である。さらにもしCIAが行おうとしているクーデターに関する機密情報が関わっているとなれば、反逆罪にも問われかねない。しかし、研究者達はCIAによる政権転覆によって影響を受ける企業の株価が(グアテマラではUFC、イランではAnglo-Iranian(石油)、チリではAnaconda(採掘)、キューバではAmerican Sugar)、クーデターの数週間から数ヶ月以前から上昇していた事を発見した(著者達は、分析対象をその計画に関する情報が機密解除されていて、計画対象の政権によってアメリカ企業の資産が国有化されたものだけに限定している)。
さらに、この上昇は重要な政府内での決定が下されたり、クーデター計画が策定されてからの数日に集中している(つまり、クーデターに関する優れた推測の結果などではないということだ)。たとえば、Arbenz(訳注:グアテマラの大統領)を追い出すオペレーション・PBFortuneをアイゼンハワー大統領が承認した週に、UFCの株価は3.8%上がっている。その週には株式市場全体は停滞していたのにだ。

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というわけで、世の中どんな事でも金儲けの種にする人達が色々いるわけです。ま、アメリカ政府がバックについてるインサイダートレーディングなんて、そりゃおいしいですよね。こういう話になると、じゃあ今はどうなのか、イラクではどうなのかとなるかと思いますが、まだイラク関係の情報は機密解除の対象ではないからか、Slateの記事は深い事に触れていません。チェイニー副大統領が関わる、そしてイラクでの米軍関連の契約で利益を得たハリバートンの株価は、アメリカ上院が戦争許可を出した日には7.6%上昇したそうですが、ただこれは公開情報ですからね。
最後にこの3人の論文のアブストラクトを下に訳しておきます。

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We estimate the impact of coups and top-secret coup authorizations on asset prices of partially nationalized US companies that stood to benefit from US backed coups. A small number of highly exposed and well connected firms reacted to coup authorizations classified as top-secret. The average abnormal return to a coup authorization is 1.7% over 4days, rising to 3.4% over thirteen days. Pre-coup authorizations account for a larger share of stock price increases than the actual coup events themselves. There is no effect in the case of the widely publicized, poorly executed Bay of Pigs invasion, consistent with abnormal returns to coup authorizations reflecting credible private information. We also introduce two new intuitive and easy to implement nonparametric tests that do not reply on asymptotic sample size approximations.
アメリカが支援するクーデターから利益を受ける部分国有化されたアメリカ企業の株価への、クーデターおよびクーデターへの機密の承認の影響を推定した。大きな利益のかかった(?)、政治的なコネクションの強い一部企業の株価は、機密であるはずのクーデター承認に反応していた。クーデター承認に対する通常のものではない反応の平均は4日間で1.7%、13日間で3.4%であった。クーデター発生前のその承認によって説明される株価上昇の方が、実際のクーデターそのものによる説明分よりも大きい。大きく宣伝されたが無残に失敗したピッグス湾の場合には何の効果もみられなかったが、これはクーデター承認への通常ではない反応が信用の置ける非公開情報に基づいたものであることと整合的である。我々はまた漸近的な近似に頼らない、直感的で実行も容易なノン・パラメトリックテストも行った。