P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

クルーグマン・ノーベル賞受賞後のビデオの翻訳

以前に貼った、クルーグマンの受賞後のインタビュー動画の翻訳です。クルーグマン登場部分の1分40秒くらいから38分くらいまでしか訳してません。これから1日2日ほど忙しくなるのですが、クルーグマンがオバマ「候補」の事を語っている事もあって、なんとか選挙前に仕上げようとしましたので...ぶっちゃけ、訳の怪しいところもあります(いつもの(?)に加えて)。すいません。
http://video.google.com/videoplay?docid=-2534646004859845999&ei=w1oDSY71JJTMwgOh6ZC0Dw&hl=ja
訳は「続きを読む」の後です。
「ク:」はクルーグマン、「ロ:」は司会のチャーリー・ローズです。
チャーリー・ローズ・ショーノーベル
ロ:ゲストはポール・クルーグマンです。彼はプリンストン大学の教授であり、ニューヨク・タイムスのコラムニストで、そして今年のノーベル経済学賞の受賞者です。国際貿易とグローバライゼーションの影響についての研究でその名誉ある賞を受賞されました。本当に素晴らしい時にまたお迎えする事ができました。
ク:こんにちわ。
ロ:おめでとうござます。
ク:ありがとう。
ロ:驚きでしたか?
ク:ええ。本当に。シャワーを浴びようとしていた時に連絡がきたんです。
ロ:前にもお聞きしましたが、もう一度聞かせてください。
ク:男の人がですね、ハローと...
ロ:クルーグマン教授ですかと笑
ク:まるっきりのニセモノ・スウェーデン・アクセントという感じで、だから冗談だと思いましたよ。実際、ウェッブサイトに名前が載るまで、ほんとには信じられなかった。
ロ:誰かが冗談でやってるとおもってたんですね(?)笑
ク:まあ、いろんな人がやりそうでしたから(?) まあとにかく、旅行中でしたので彼らは携帯にかけてきたんです。妻も別の場所に旅行中だったので、彼女に「もしかしたらジョークかもしれないけど...」と伝えたら、彼女は「オー・マイ・ガッ!ポール、そんな暇はないわよ!」と。
ロ:そんなものには付き合ってられないと笑
ク:ほんとに晴天の霹靂でしたね。いきなりでした。
ロ:でも、いろいろな人がいつかはあなたが受賞するだろうとおもってたわけでしょ?受賞理由の研究はつい最近のものではなく、何年も前のものですから。
ク:ええ、私はずっと候補には上がってたそうですよ。大学が、もし私が受賞したらすぐに連絡が行くように準備していた年もあったそうです。でも今年はそういう事はなかった。
ロ:つまり大学は期待はしてなかったのですね笑
ク:ええ。
ロ:大学も教授は受賞できないらしいと。
ク:プリンストンも慌てたらしいですよ。スウェーデン人の友人がノーベル委員会に私の携帯番号を伝えてくれたのですが。でなかったら、連絡がこなかったですよ。
新貿易理論
ロ:ノーベル委員会があなたに賞を与えることにした研究はどんなものなんですか?
ク:国際貿易の理論は200年ほどの歴史があります。で、180年から200年ほどの間、基本的な考えは、国ごとに違いが貿易の理由だというものでした。熱帯にある国はバナナを輸出し、国土の広い国は小麦を輸出する、といった。でもだんだん異論が出てきたわけです。というのは、多くの貿易があまり異なっていない国の間で行われていましたから。一体なぜなのか、と。なぜヨーロッパの何処かの国ではなくアメリカがジェットエンジンを作っているのか、なぜ日本が他の産業ではなく自動車産業でアメリカを追い越せたのかの根本的な説明ができませんでした。個々の事例についての物語はありましたが、それらを統合する理論がなかったのですね。で、私や他の研究者が新しい貿易理論を打ち出したわけです。それは、小さな優位性が、たぶん偶然の産物のものが、どうしてだんだん大きくなっていき固定化するのかについて説明するものです。このことについての私達の好きな事例は、アメリカのカーペット生産はかつて全てジョージア州のドールトンに集中していたのですが、それがなぜかというと、1895年にとある少女が結婚式用の贈答品としてベットカバーを作ったからなのです。それがどんどんと次につながっていって...まあそういうものから国際貿易の理論が生み出されたわけです。でも、重要だったのは扱いやすくてきれいな数学のモデルを作ることでした。それがあってはじめて、物事をきちんと理解する事ができるわけですから。その後で、普通の英語で説明ができるようになるわけです。それから国内での生産地点の選択についての事もあります。これはこの理論の副次的な要素ですね。今となると当たり前のことなんですが、その当時まではまだ誰もちゃんと考えていなかった、新しい事でした。
ロ:ノース・カロライナ州のハイポイントが家具産業の中心地だった事を思い出しました。
ク:プロヴィデンスの宝石加工もです。それも1790年代にだれかが(?)を発明したからです。そういう話がいっぱいあるんですよ。ニューヨーク州のトロイでのカーペット脱色産業(?)についての面白い話とか。まあ、残念ながらもうその産業はなくなっちゃいましたが(笑)。
ロ:中国の工業力の躍進とグローバリゼーション(?)で、貿易パターンは大きくかわりましたか?
ク:ええ、実際そのことでも面白いことがおこりました。私がこのことについて研究していた1980年頃、世界貿易は、たとえばヨーロッパが植民地と貿易をするような南北貿易から、工業国同士(?)の北北貿易に変わっていました。なのに、我々がなぜ北北貿易が大きくなったかについての新理論を作り出した途端、また南北貿易が大きくなりだしたんです。そのためある面では、古い理論の重要性は私が新理論について書いていた頃よりも、今の方が増しているんですよ。新しい理論と新しい現実は必ずしも一致しないということですね。
新興国の躍進
ロ:非常に大きな変化がおこっていますよね、新興国の経済力やパワーが増しているので...
ク:ですね、大きな変化です。私が大学院にいた頃は、途上国は経済面で全然重要視されていませんでした。彼らは小さすぎたんです。G7が世界経済と同義でした。しかしいまでは...中国は世界最大の経済大国ではまだないですが、やがてそうなるでしょう。世界のパワーの中心の移動が起ころうとしているんですよ。
ロ:最大の経済大国とおっしゃいましたが、それは何についてですか?GDP?
ク:ええ、GDPや...まあ要するに、彼らは我々よりいっぱいいて、で我々同様に賢いと。ならやがて我々を追い越すわけです。
ロ:しかし、彼らの成長率も1桁に落ちたということですが...
ク:ええ、世界的な危機ですからね。しかしそれは長期的に何が起こるかとはまた別のことです。アメリカも大恐慌を経験しましたが、我々は今だに世界最大の経済大国です。しかし、いま世界的な危機が発生していて...ディカップリングが6ヶ月前は言われてましたが...
ロ:もう誰も言ってませんよね。
ク:もうね。ま、我々はカップルだったわけですよ。
ロ:強烈に、ですね(笑)。
金融危機
ロ:この経済危機はこれからどうなるとお考えですか?世界中が飲み込まれてしまいますか?
ク:いや、実は何週間か前と比べてると、私はすこし楽観的になりました。何週間か前は、危機に対して完全に後手に回っていました(?)。今は、少なくとも目下の金融危機に対してはちゃんとした対策がなされようとしています。全ての主要国の政府が金融システムに資本の注入を行おうとしています。政府が金融企業や金融関連企業を買い取って、資本を注入し...
ロ:で、それがいい事であると...最重要な事だと。
ク:いい事で、最重要なことです。そんな事をしなくてすめばそれがいいわけです。ですが現在の状況では、しなければならないでしょう。根本的なことは、初期の損失、つまり住宅市場のバブル崩壊で住宅ローンを払えなくなった人が出てきて、不動産価値が低下するようになったわけです。その後、銀行や他の金融機関の資本が失われるようになりました。そのせいで、彼らの事業に支障がでるようになり、資産の叩き売りがはじまりました。それでさらに資本が減少したわけです。まるで、地震によってビルが下の階から順番に崩壊していったみたいにです。で、今はそれがなんとか止まるように、誰かが彼らに助け舟を出さなければならなくなったわけです。まあ、いい事です。それで問題の解決とはなりませんが...おそらく不況にもすでに突入してますし。なのでもし我々が金融システムを...
ロ:2009年中もずっと続きますか?
ク:おそらくは、2009年中もずっと続きます。さらに続くかもしれません。この前の不況は、それが終わった時に終わりはしませんでした。公式には前の不況はたしか2001年11月に終わったんですが、労働市場は2003年夏まで改善しませんでした。今回の不況もそれくらいは長引く理由が色々とあります。長い戦いになるでしょう。
ロ:政府にはたとえ何か問題があるとしても(?)選択の余地はないとおっしゃったと聞きました。財務長官も以前来られたんですが、こういうことをおっしゃってました。我々は以前では到底出来なかったことを行ったと。(イギリスの)ゴードン・ブラウンが行ったような事が実行できるようになったと(?)。以前は、(A)議会にそれを受け入れる準備がなかった、(B)...我々は1つ1つ試してみてダメだと分かってからようやく次に進めるのだと(?)。
ク:まあ、なんというか...全ての救済は遅すぎました(?)。言っても、いいのかな?
ロ:ノーベル賞の受賞者は、何を言ってもいいんですよ(笑)。
ク:全ての救済は遅かったんです(?)。財務省がリーマンを助けないという酷い間違いを犯した後はね。ところが潰すには余りにも(他との)結びつきが強かった事が後で分かって(?)...
ロ:間違いというのは、潰れさせたことではなくて、同じ基準で評価しなかったことですよね?このことはあなたの方が私よりご存知でしょうが、彼らはベア・スターンには買い手がいたが、リーマンには買い手がいなかったと。
ク:そうです。でも、実際のところはどうにか出来ていたはずだったのです。我々皆が、そうなると思っていましたしね。でも彼らは、そんな事は出来ないのだと決断しました。市場はそれでも大丈夫だと。
ロ:モラル・ハザードの問題もあるし、と。
ク:ええ、そうです。でも結局は...
ロ:でもそれが間違いだとわかったと。というのもそれが世界中にシグナルを送る事になった...
ク:何も安全ではないと。市場を構成する重要な企業に関しては、株主が損失をこうむることがあっても、取引先(?)については大丈夫だと、その債権は保護されるとおもわれいたのが、リーマンの倒産に対して手が打たれなかったので、その思い込みは間違いだったと分かって。それで3日間、市場は凍結してしまった。なのでそれは大きな間違いだったわけですが、しかしそれのおかげでより包括的な対策への政治的な環境もできたわけでもです。
ロ:それがポールソンの言っていたことでした。
ク:ええ。
ロ:それが政治的環境を整えて、議会へ行って7000億ドルと世界中の全ての権限を与えてくれと要求できるようになったと。
ク:ええ。で、問題は、我々は危機をケース・バイ・ケースのやり方でも解決できたのかどうかです。今、我々は銀行システムを非効果的に部分的に国有化する事について議論しています。そして、AIGを殆ど完全に国有化しました、何週間か前に。他にも準国有化が実際に行われているし、ファニーやフレディーは国有化されました。ですから、我々はこれをステップ・バイ・ステップでも解決できていたのかも知れません。包括的な手段など必要なかったのかもしれません。まあ、答えはでないことですが。なんであれ、結局彼らは、私を含めたいろんな人が行うべきだと、まあ時々、言ってきたことを行うようなりました。長い間、間違った事をした後にね。
行うべき事
ロ:では、行うべき事とはなんですか?
ク:システムが十分な資本を持つようにすることです。
ロ:なぜそれが必要だとおもっていたんですか?
ク:まあ、理論からです。じっくり考えて。なぜ我々はこの倒産の連鎖に見舞われる事になったんでしょう?バランスシートが問題なんです。いろんな金融機関が潰れたり、潰れそうになったり、資産の叩き売りを行ったりしてさらに資産価値をさげてしまっているそもそもの理由は、住宅ローンでの5000億ドルか、7000億ドルか、それとも1兆ドルかの資本の損失なんです。しかしそれからどんどんと二次的な損失が広がっていった、ドミノ効果ですね。で、何をするかなんですが、システムが崩壊するに任せる事も出来ます。10年くらい、ウォーレン・バフェットみたいな人達がシステムを再建するのを待つ事もできます。それとも、システムを立て直す為にいますぐ資本を注入する事も出来ます。で、まあ大抵の人は資本注入を選んだわけです。過去の経験ですよ。S&Lの時にはどうしました?実質的に資本を投入しました。日本の時は...
ロ:(S&Lの時は)より簡単な選択でしたよね、不動産がついてきたわけですから。
ク:ええ、そしてまたより状況が見通せましたから、より簡単ではあった。それから、スウェーデンがどうしたか?銀行に資本を注入したわけです。日本が銀行危機に際して97年、98年にしたことも、銀行を買い取って(?)資本を注入することです。ポールソンがしている事とまったく同じです。つまり、この解決策には、先例と論理があるわけです。
ロ:民間部門はもうちょっと何かできないのでしょうか?バフェットのような人が、もっと市場への信頼を取り戻すために何かできないのでしょうか?
ク:ええ、まあ、そうならないかなという期待がありましたよね、だいたい、9月の18日くらいまで。そういう事になるかもと考えることができた。でも、結局は時間がなかった。次々に潰れていく中で、時間が無くなっていった。第2の大恐慌が賭っているのに、民間が何かするのを待っていられなくなった。
ロ:ではまあ、教えてくれませんか?金融システムが崩壊しつつあると言われている。経済が崩壊しつつあると。で、我々は大恐慌については少しは知っている。スープを求める行列だとか、銀行が倒産したり閉鎖されたりだとか、その他、とにかく当時は大変だったことを。資本の注入やその他の事とかからして、そういう事態がすぐそこまで近づいているとお考えですか?
ク:すぐそこまで来ているのかどうかはわかりません。だた、私は実はすこし楽観的です。様々な問題を示している金融の指標を見てみてください。 TEDスプレッドやA2/P2スプレッド、とにかくその手のものです。一週間前などと比べて改善してきています。ここ数日改善してきているんです。といっても、全ての指標が以前の水準から見るとまだ非常に酷い状態ですが。つまり、45度も熱のあった患者が今は40度に下がった、とうことですね。だから希望をもっているが、まだ確信はできない。患者が必ず助かるとは...
ロ:しかし(?)
ク:いや、さらに進むでしょう。我々はまだまだ国有化を行えるわけで。またまだね。ビジネスにどんどん介入していく事になると思います。つまり、納税者をバックになんとか経済が動くように介入していく事になるでしょう(?)。必要な事は何でもやらなければならないのですよ。もう借り入れに関して問題が発生してきていますから。企業が債権を発行できないとか、中小企業が...
ロ:それで政府がコマーシャル・ペーパーを購入しなければならないと。
ク:そうです。色々とバカバカしい話を聞きましたよ。農産物が一杯なのに運送会社が融資を断られたので運び出せない(?)とか、イギリスでは葬儀会社が運転資金を借りられなくて遺体が埋葬されていないとか。これまでのところ、その手の話は、個別の例にすぎません。でもそういうのが一杯集まると、厳しい不況になるわけです。(???)。そしてさらにひどいものになる。全ての経済学者が言っています。不況は29年に、もしかしたら28年に始まっていたと。それはひどいものでしたが、ただのひどい不況ですんでいたかもしれなかった。それが、31年、32年の銀行の倒産・取り付けのせいで、それだけではすまなくなった。
ロ:何が欠けているんでしょう?信頼の問題だといわれていますよね。ルーズベルト大統領ですか?ルーズベルトには希望を取り戻させ、不況から脱させるコミュニケーションの能力があったと。
ク:ルーズベルトがやった事は、希望に関してのコミュニケーション以上のことです。実物の現金を持ってきたわけです。もし現在のアメリカ政府がもっと積極的だったなら...まあ、私はポールソンのことをそんなに気に入ってるわけではないですが、それでも9月の半ばに事態が悪化するまで、積極的な手段を取れるような政治的条件が無かったというのはほんとでしょうね。だから出来る事には限りがあったわけですが、しかし問題は今、何が必要かです。そして我々は間違いなくルーズベルトが必要です。リーダーシップが必要ですし、言葉だけじゃなくお金が必要です。誰かがちゃんと指揮をとっている事をみせる必要があります。そしてまた多くの場合で、システムが動きだすようにするために、無駄になる事が無い事を望みつつ納税者のお金が必要でしょう。
ポールソン財務長官とバーナンキ連銀議長、そしてありえない日本...
ロ:ポールソンがこの番組に出演して下さった時に、なぜ、何をしようとしているのか訊ねたのですが...
ク:実を言いますと、リーマンまでは私は彼のやっている事を多かれ少なかれ支持していました。もっと出来ることはあったでしょうが、リーマン...が救済される必要があるのかどうか100%確信があったわけではありませんでした。間違っているかも?と思っていましたから、当時そう書きました。彼は(???)。そして二つの間違いを彼が犯しました。リーマンと不良債権買取の初期の案です(訳注:このあたり、クルーグマンの言ってることがよく分かりませんでした)。それで、まあもうだめだと。私の同僚のアラン・ブラインダーは、ファニーメイとフレディーマックの事から、彼をハンキー・パンキーと呼ぶことを提案しました。
ロ:(笑)
ク:まあ、不良債権買取の初期の案は話になりませんでした。
ロ:OK。まあとにかく、ポールソン財務長官とバーナンキ、彼はポールソンと共同で案をつくってますよね、その両者のやっていた事にあなたは不満があったと。リーマン・ブラザースが不満の主要な理由だったんですか、それともリーマンと彼ら二人が不良債権解消のために余りに巨大な権限を要求した事が理由でしたか?
ク:権限の事ではないんです。リーマンと巨大な権限、そして間違った買取提案が理由だったんです。初期の買取案は、不良債権を金融機関から買い取るとは言ってましたが、なぜそれが経済を助けるのかまるで説明がありませんでした。不良債権をその現在価値で買い取っても、金融機関の資本は改善しません。
ロ:ですよね。しかし、ニューヨーク・タイムズの記事の事をご存知ですか?私には忘れられませんよ。あ、いや、ワシントン・ポストだったかな?とにかく日曜の新聞の記事の最後の一行です、「誰もより良い考えをもっていない」と。少なくともその時は。
ク:ええ。ですが、実はいろんな人がより良い考えを持っていたんですよ。
ロ:ニューヨーク・タイムズに電話しましょう(笑)。
ク:エコン・ブロゴスフィアとかね(笑)。とにかくこういう状況で行うべきなのは、優先株を買い取る事で資本を注入することです。不良債権に金を出すとは...もちろん最終的にはそこに来たわけですが、でもそれまで3週間が無駄になってしまった。そしてこの手の事については、3週間は永遠と同じなんです。
ロ:というと、3週間を無駄にする事でどんな機会が失われたのですか?
ク:(システムへの)信頼が大きく傷つきました。市場に恐怖が蔓延するようになりました(?)。それがシステムの崩壊へつながるほどのものかどうかは分かりません。幸運な事にこの間に潰れた大手はAIGだけでした。実質的に国有化されましたね。しかしもう(市場関係者の)自信を、たとえばリーマン倒産の3日前の時点のものまで戻すのすら非常に困難なものになりました。そのせいで銀行が一杯潰れたかと言えば、それはありません(?)。ありがたいことにそんな事は起こりませんでした。しかしかなり長いこと、何が起こるか分からない状態が続きました。
ロ:(???) もし私の記憶が正しければ、バーナンキプリンストンから来た時はそうでしたよね?
ク:まあ、その、あそこ(FRB?)で何が起こったのかは、分かりません。
ロ:(笑)
ク:しかし報道によると、ベン(・バーナンキ)かどうかはわかりませんが、連銀は元々は優先株購入を行いたかったようです。
ロ:なるほど。それはバーナンキが以前の恐慌の事を理解している専門家だからですか?
ク:連銀には優れたスタッフがいますから、もしかしたら彼らかもしれません。日本の経験から...日本は私たちに良く似た、優れた先進国です。(?)の観点から見て。で、彼らは穏やかな大恐慌のようなものに見舞われている。そんな事は起こらないはずだったんです。まるでニュージャージーの真中で遊牧民に出会ったようなものです。現代社会では起こらないはずのことなんですよ。だから、我々への教訓があるんですよ。こちらでそんな事が起こらないようにしなければならない。でも、起こりえるわけです(?)。恐ろしい事ですよ。ベン・バーナンキはこれに対処するに最適の人物です。彼は日本がどこで失敗したか、何をしてはいけないかを誰よりも知っている人物です。なのに我々は日本同様の事をしかねないという(?)。
ロ:では、日本の経験からの教訓とは何なのですか?あなたは日本に強く興味を持っている人の一人ですよね。
ク:そうですね、まず、早めに強い手をうてということです。財政刺激、金融...
ロ:パウエルの軍事戦略のような(訳注:敵を圧倒する大規模な軍勢を投入しろというパウエル元統合参謀本部議長の考え)
ク:ええ、圧倒的な戦力をね。さらに銀行への資本注入。これは我々が学んだ事の一つです。それから、インフレーションをあまり心配するな。後で心配すればいい。今のところ、それは心配の種ではないと。とはいえ、できればあまり低すぎないインフレーションを持っていたほうがいいですが。というのはより高いインフレーションがあれば、問題が起こった時に(実質金利を)操作する余地がより大きくなりますから。とにかく、連銀は日本を研究していたわけです。モデルも作って、もし日本がX,Y,Zをしていたら、[失われた10年」など無かったろうと。で、連銀はX,Y,Zを試してみたのですが、余りうまくはいっていないわけです。それがちょっと恐ろしいですよね。
バーナンキへの評価
ロ:では、彼のやっている事をどう評価されますか?
ク:私は、バーナンキは彼が出来る事は全て...リーマンまでは、彼は良くやっていたと思います。やるべき事はやっていた。望みどおりの結果となったわけではなかったですが、私も(彼の立場なら)同じ事をしていたでしょう。まあ、それが正解だったのかどうかはともかくとして、同じ事をやろうとしていたでしょう。それから...彼が私的に何を考えていたのかはともかくとして、公的には彼はポールソンの初期の間違った救済策に異議を唱えなかった。そして彼はまるでポールソンの部下の様に見えることになってしまった;「イエス、ボス!」、と。この案じゃダメだ!といってくれる誰かが必要だった時にね。
ロ:私はそうは思いませんでしたが、そうだったのかもしれませんね。「イエス、ボス!」
ク:もちろん、「イエス、ボス!」は真実じゃないですよ。実際、ポールソン案が出た後、数日の間、連銀からはその案を支持しているという徴がまるでなかった。クリス・ドッドは...
ロ:議会の銀行委員会の議長ですね。
ク:ええ、彼は後の資本注入案につながる提案をすぐに持ってきたのに、しかしバーナンキは「そんなものを実行する必要はない」と言いました。それは不幸な事でしたね。素晴らしいエピソード、ではなかったですね。
ロ:つまり彼らも正しい提案を持ってはきたが遅かったため、経済的損失、さらには市場の信頼も損なってしまい、解決をさらに難しくしたと。
ク:ええ、そうです。彼らも正しい事をしましたが、それは他に選択肢が無くなってからです。まあ、決して良いやり方じゃないですね。
銀行同様救済されなければならないものは...
ロ:しかし、こういう事を言っている人もいますよ。ええと、私は正しい専門用語を知りませんが、銀行のレバレッジ・レシオの変化がどうとか...
ク:ああ、はい、Looking Forward(?) それは特に銀行の話という事じゃありませんよ。Depositoryの機関(?)や、Big Marble Buildings(?)や、伝統的な銀行や、(?)資本に関する規制があって(?)、かれらのレバレッジはとっくに限界にきてるんです。ほかにも色々な機関が...
ロ:貸し渋りしぶりですか(?) (???)
ク:ええ、そうです。それはキャピタル・レシオの逆数なんですよ。まあ要するに、銀行同様救済されなければならないものは、銀行同様規制されるべきだと、いう事ですよ。つまり短期で借り入れて、長期で貸す(組織)はです。
ロ:そうなりますかね?
ク:そうなって欲しいです。危機が過ぎた後、また元通りになってしまうのじゃないかと少し心配しています。でも、やらなきゃならないんですよ。今の危機は、ずっと大人しくはありますが、1930年代の再演なんです。我々は祖父達の知恵を学びなおさなければならないんです。銀行システムは、今は商業銀行だけではなくてずっと大きなものになってますが、資本要件や政府による保証、そして規制が必要です。世界を破壊しないようにね。
ロ:戦争であれ、経済であれ、我々は歴史から学んでいますか?
ク:いえ、そして我々は再演を繰り返してます。
ロ:つまりジョージアが正しいと(笑)(?)
ク:ええ、まったくそうです。
オバマ候補
ロ:では、大統領候補についてですが。あなたはブッシュ大統領をもっとも激しく非難してきた人の一人ですね。では、あなたの判断では、オバマ議員は危機に対して適切に対処できるとお考えですか?もちろん彼は民主党関係の専門家からの助言にちゃんと耳を傾けるとは評価されてますが。
ク:そうですね、オバマは間違いなく金融の状況を理解しています。彼は原稿が事前に用意されていない場合でもちゃんとこの事について語れますからね。しかし彼は今回、あまり前面に出ようとはしてこなかった...
ロ:間違いでしたか?それとも頭が良かった?
ク:うーん、まあある意味、賢かった。今回の事態は技術的で難しいものです。財務省の金がバックにあるのでなければ、対策を立てるのが非常に難しい事態なんです。勿論、クリス・ドットやボニー・フランクは提案を出しました。でも、彼らはオバマがやっていたなら直面したようなリスクは取らなくていいわけです。バカな提案をした大統領候補という...勿論、ドットが出したような買取案がオバマ陣営からすぐに出てきていたら、そりゃ良かったですよ。でも、どうしても出して欲しかったわけではなかった。出てこなくても私としては問題はありませでした。物事を知っている人間が候補だという事はわかっていますから。
ロ:あなたがご存知な事から判断して、オバマ大統領はどういう手を取るとおもいますか?何をしようとし、どういう考えをもつと...
ク:彼は、穏健リベラルな民主党員ですから。
ロ:穏健リベラル?
ク:穏健です。かれが社会主義者じゃないことは間違いないです(笑)。まあたとえ...
ロ:彼は、バーニー・フランクよりもリベラルではない?
ク:なんだろうと思います。たぶん、(彼は)本能的にね。
ロ:本能的に?彼は本能的にずっとリベラル?それほどではない?
ク:それほどではないです。こういいましょうか...
ロ:しかしバーニーはこの事(金融問題)については見識がありますよね(?)
ク:ええ、非常にね。この事では皆、彼の意見を求めますよ。彼は(?) 実際、私は彼の言葉を盗みました。「銀行同様救済されなければならないものは、銀行同様規制されるべきだ」 これは実はバーニー・フランクの言葉です。
ロ:うまいですよね。才能があるようだ(笑)。
ク:で、この問題にかんして、彼は私よりも保守的で慎重です。彼の本能はゆっくり進めと言っているのでしょう。サブ・プライム問題の初期の段階で、彼のアドバイザーのオースティン・グールズビーは、ちなみに彼は私の学生でした、彼はオバマ陣営はより多くの人が住宅を所有する可能性を狭めるような事をしたくはないと新聞に書きました。ですから、まあ、とても慎重なわけですよ。それは悪い事ではない。そして実際、規制が必要だというコンセンサスが非常に広範囲に出来てきていますが、オバマは最初の頃からそれを言っていました。他の人達よりずっと早くにです。いい事ですよね。もし彼が勝てば、彼はとても良い政策を行うと思っています。
景気刺激策と聖アウグスティヌス
ロ:景気刺激策ですが、必要だと、それも今必要だと、で、公共事業(?)などが行われなければならないと、バーナンキが言っていました。
ク:ええ、必要です。金融救済策は、せいぜい戦場での救急医療、出血をとめるだけのものなんですよ。
ロ:うまい喩えですね。これまで聞いた中では一番です(笑)
ク:しかしその間、多くのことが...すでに言いましたように、不況はすでにやって来ています(?)。景気はきつい下り坂に入っています。消費は減少し、工業生産も減少しています。消費者も悲観的になってきている。何もかもが落ちていっています。何かが必要なんですよ、景気を押し上げるために。刺激策は...二つの刺激策が実施されるのではないかと思っています。11月5日を過ぎてすぐの超党派での、まあそこそこの景気刺激策が一つです。しかしその後も、我々は別の刺激策を、より大きな刺激策なものを必要とするでしょうね。
ロ:1月22日にですね(訳注:1月21日が新大統領の就任日)
ク:そんな感じです。で、私はこう考えています。減税や税のリベートはその刺激案の中心になってはいけないと。前回、2008年始めの刺激策は、ブッシュのホワイトハウスを通らなければならなかったために、減税が中心になるほか無かった。もしそうでなかったらブッシュが拒否権を発動していただろうからです。その効果を知るのは難しいのですが、恐らくそれほど多くの人はその減税を消費にまわさなかったでしょう。しかし我々はお金を使ってもらわなければならないのです。
ロ:何に使われたんでしょう?クレジットカードの返済ですか?
ク:クレジットカード、それから貯蓄...
ロ:とにかくたとえばテレビの購入などにはまわなかった。
ク:ええ。私たちは通常は、節約を賞賛しますよね。でも...今は聖アウグスティヌス経済とでもいいますか、「神よ、我につつましやかさと自制を与えたまえ、ただし明日から」。
ロ:(笑)
何をすべきか
ク:で、何をするべきか。まず今すでにやっている事を早めることです(?)。失業保険の延長などね。失業保険をもらう人達はお金を使ってくれます。彼らはお金が必要ですから。しかし実のところ今は、財政出動について議論を始める時なんです。
ロ:インフラストラクチャーですか?
ク:インフラストラクチャー、ですね。最初に州政府を助けるんですよ。彼らはインフラストラクチャーに大きな金を使う事が出来ないですから。インフラ投資に対する反対意見はこれまでずっと、時間がかかりすぎる、というものでした。効果が出てきた時には不況は終わっている、と。しかしそれは今回、問題ではありません。今回の不況は、深く長くなりそうだからです。
ロ:深く長いとは、どういう意味ですか?
ク:深いとは、失業率で計ってです。82年以来最悪のものになるのではないでしょうか?
ロ:経済は2%などでは成長できないと(?)。どうなります(?)
ク:マイナス2%。長いというのはですね、前の不況は公式には8ヶ月で終わりました。しかし、労働市場はそれから2年半も改善しなかったんです。2003年の夏まで。それがホワイトハウスのファクトシートでは、いつでも2003年8月からの雇用増がかかれている理由です。たしか、ブッシュは2001年に就任しましたよね?
ロ:(笑)
ク:ま、とにかく重要な点は、改善しだすまで2年半もかかったという事です。で、次のような事が考えられ...経済学のロジックでは、かつての不況は、インフレが発生したので連銀が金利を引き上げ、住宅市場がダウンしてインフレが落ち着き、それでまた連銀が金利を引き下げるという、V字型のものでした。しかし最近はそうではなくなりました。民間部門が「非合理的な熱狂」に見舞われ、バブルが崩壊。そしてその後、景気を押し上げるのが非常に難しく、景気停滞が長引きました。前回の不況では2年半です。それが3年、4年になるケースを考えるのも容易です。もし積極的な財政政策を使わなければ、日本のような「失われた10年」にもなりかねません。それほど長くです。
ロ:もしその通りだとすると、商品市場には何がおこったんですか?
ク:あー、まあ商品市場は落ちて、落ち着いてきましたね。
ロ:そうすると、30くらいまで落ちますか?(訳注:恐らく原油市場をイメージしているのでは?)
ク:難しいです。OPECが原油生産を削減するかどうかにもよりますし。6ヶ月前、9ヶ月前の流行の話は、中国経済が成長しているので世界経済が成長している、でした。
ロ:インド経済が成長しているから、とかですね。
ク:でも結局、中国も我々と仲良く下降する事になりました。なので、需要の増加の話は、何年かの間、倉庫に仕舞われる事となるでしょう。原油価格にはいい話ではないですね。
ロ:ですね。で、そうすると、これは政府の代替エネルギーへの意欲にどういう影響を与えますでしょうか?原油1バレル148ドルは、代替エネルギーには魅力的な価格ですよね。
ク:ええ、問題です。民間部門で...インセンティブがですね...長期的には、解決しなければならない事です。長期的には、資源の制約や温暖化の問題もあって、化石燃料の利用を下げていかなければならない。しかし、ガソリンが安くなった今、インセンティブが減少したので、民間部門での解決が難しくなりました。公的部門での解決は、また難しいことです。(???)。我々は環境関連の大規模なインフラ投資が必要だと言われています。私はその事についてちゃんと調べてないので、はたしてどれほどの事が出来るのか分かりません。とにかく問題ですね。
ロ:同じ事を聞きました。インフラ投資全体の中で、環境関連のインフラ投資をどれほど重視するか(?)。どんな刺激策をとるのであれ、エネルギー関連の支出は非常に重要ですよね。
ク:難しいところです。私は不況は長びくだろうとは言いましたが、それでも効果がでるまで5年も6年もかかる投資というのはちょっと。1年、2年のものでないと。
ロ:地方政府への直接投資(?)以外、どういう刺激策がありますか?何が一番いいでしょう?
ク:必要なのに資金不足の為に行えていないインフラ投資(?)は数多くあると思います。コウザイ知事と会いましたが、ハドソンでの二つ目のトンネル工事の日程を早める事が出来るかどうか話しました。そういうものが色々あるでしょう。
クルーグマンの望む資本主義
ロ:こういう問題は全て、資本主義によって引き起こされているわけですよね(?)
ク:我々は1930年代から80年ごろまで、「資本主義」と呼ばれるものを行ってきましたよね。それは、色々と規制の多いものでした。銀行は非常に規制されていましたし、金持ちへの税金は非常に高かった。しかしそれでも市場経済でした。それから我々は、レーガン時代へ突入した。それは、規制緩和の時代で、政府は解決ではありえず、常に問題の元だった。金融市場のワイルド・ウェスト。我々は、おそらく私が生まれ育った時代の資本主義へ戻っていくと思います。それは資本主義ですが、それほど奔放なものではない。
ロ:監督されるか、規制される。
ク:そんなに悪いものじゃないですよ。我々はレイバー・デイを5月1日に戻したりはしません(訳注:社会主義じゃないということ)。
ロ:もしあなたの言うと通りになるとして、何を得て、何を失いますか?プラス面は規制がないがゆえの危機がおこらないと。何を失う事になります?規制により、創造性が失われるとか。
ク:答えるのが難しい質問ですね。金融の革新が色々とありましたよね。でも、その多くは破壊的だった。
ロ:デリバティブとか。
ク:多くの場合、人々が求める商品を作り出すものではなくて、エンロンのような規制をごまかすためのものだった。失われるものはあるでしょう。しかし、第2次世界大戦後の世代は、非常に規制の多い、税金の高い時代でしたが、同時にアメリカの経済が最も成長した時代でもありました。ですので、失われるものが多いのかどうか、私にはわかりませんね。
ロ:オバマ議員が選挙に勝つとして、就任演説で彼が何を言う事を望みますか?
ク:我々が恐れるべきは(笑)...(ルーズベルトの有名なせりふ)
ロ:それはもう使われてますよ(笑)
ク:ええ、ですが、そういう何かを望みます。ですから、ニューニューディールを望みます。我々は道を誤りました。ここ二十年ほどの全てが悪いものだったわけではないですが、皆のための社会であるという事を忘れてしまいました。最低限の安全や、金融市場からの混乱から守られる事、それらを社会が提供する事を忘れてしまいました。我々を成功に導いたそういう価値を取り戻さなければなりません。
ロ:本日はお越しいただいて、ありがとうございました。
ク:こちらこそ。
ロ:最後にもう一度。おめでとうございます。