P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

ブラッド・デロング:ニューディール、クルーグマン、そしてメディアの変化


最初に出てきて話している一見理知的なように見えるけれど、実のところ一番得意なことは、経済的問題を抱えている人達になぜそれが自業自得なのか、そして社会が彼らを助けてあげられたらとは思うけれどもしそんな事をしたら実は一番困るのは彼ら自身なので社会は悲しいかなそんな事はできないのだよ〜、みたいな事を悲しげな表情で説明しては大いに悦にいること、のように見える人が保守の評論家・コラムニストのジョージ・ウィルです。アメリカの日曜朝の政治討論番組で、ルーズベルト大統領のニューディールは大恐慌を悪化させたのだと語っています。これ関連で訳したいくつかブログエントリーからも分かるように、これはアメリカの保守の人達の定番テーマの一つです。誰だって日曜朝から嫌な思いはしたくありません。だからジョージ・ウィルもお気に入りの事を語って楽しく一日を始めたかったでしょう。ただ問題は、彼の隣に、ポール・クルーグマンがいたって事でした...そしてジョージ・ウィルの日曜日は不幸な始まりを告げたのでした。つーか、隣に誰がいるかぐらい考えてしゃべれよ、ジョージ。
さて、これを受けまして、UCバークレーの経済学者ブラッド・デロングがまた大恐慌とニューディールについて、そしてアメリカのメディアにおける左右パワーバランスの変化について書いてたので訳しときます。
大恐慌からの教訓エントリー    ブラッド・デロング 2008年11月17日
クルーグマンがあまりものを知らないジョージ・F・ウィルを切り刻んだことでもあるし、ちょうどいいだろう:
大恐慌期の粗実質民間国内投資(投資はルーズベルト就任の直前に底をうち、ニューディール期間中はルーズベルトが財政均衡を図る1937年まで上昇している。)
私には右の連中のニューディールが大恐慌を長引かせたという主張を理解できたことが一度もない。連中は、ニューディールがアメリカのビジネスマンに「あのコミュ二ストのルーズベルト」を恐れ嫌わせて「信頼の危機」を作り出し、民間投資を妨げたのだと言う。だがその信頼の危機は、資本市場の崩壊と、デフレーション、そして1929−1933年の銀行倒産によって起こったのだ。民間投資はルーズベルトのニューディール政策が実施されるとともに非常に健全に回復している。
1937−1938年のルーズベルト景気回復の中断の事は良く理解されていると、私は思っている:より「正統的な」経済政策を取って財政均衡を実現しようというルーズベルトの決断と、預金準備を引き上げて通貨供給を減らすという連邦準備銀行の決定がその景気後退を十分に説明してくれる。そしてこれら二つの要素の効果が出尽くした後(once those two factors had run its course)、ルーズベルトの政策の継続は、戦争関連の輸出とヨーロッパからの資本流入で起こった金融拡大による投資回復にとって妨げではなかった。
最高裁によって違憲とされていなければ、NIRA(全国産業復興法)は中期的な景気回復の障害となっていただろうと主張する事はできるし、また私も時折行ってきた。しかし、最高裁ではBrandeisがMcReynolds(訳注:当時の最高裁判事達)と同調して、NIRAを9対0で違憲としたのだ(訳注:だから実際には妨げにならなかったということ)。
Sumner H. Slichter (1938), "The Downturn of 1937," Review of Economics and Statistics 20:3 (August), pp. 97-110.
追記:経済成長志向リベラル(Pro-Growth Liberal 訳注:リンク先のブログ主のことでしょう、多分)も参入している http://econospeak.blogspot.com/2008/11/net-investment-under-fdr-krugman-v-will.html
ほかに、http://www.huffingtonpost.com/2008/11/17/paul-krugman-schools-geor_n_144298.html , http://yglesias.thinkprogress.org/archives/2008/11/will_v_krugman_on_the_depression.php , http://www.thewashingtonnote.com/archives/2008/11/a_sweet_77_seco/ , http://mainstusa.blogspot.com/2008/11/krugman-explains-depression-to-george.html , http://firedoglake.com/2008/11/17/early-morning-swim-special-krugman-pwns-will-edition/ , http://www.washingtonmonthly.com/archives/individual/2008_11/015686.php , http://sanseverything.wordpress.com/2008/11/16/bambi-versus-godzilla-the-economic-edition/ .
それからデブラ・クーパーズがeメールしてきた:

そう遠くないかつての古き悪しき時...ジョージ・ウィルがプロフェッショナルなふりをしながらナンセンスな事を言うと、Cokie Robertsがまともな事を言っているふりをしながら(なんと言っても、彼女の両親は民主党のアイドルでしたからね)それを応援していたものでした。そしてまた一つの嘘がエリート階層での右翼経済言論の覇権を維持していたわけです。しかし今は、ジョージ・ウィルのたわ言を、ノーベル賞経済学者があっという間に、まともなプログレッシブの見解でもってやっつけてくれるのです。
ポールは2000年以来、コラムを続けていましたが、ふさわしい影響力を彼は得ていませんでした。インターネットはそれを大いに助けてくれています。
中道左派の民主党員の当選を大いに助けた上に、メディアの状況をよい方に変えていっているネットルート(訳注:ネット上のリベラル)は大いなる感謝に値します。