P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

アメリカ保守のネット上での敗北とその再生

今アメリカでは、保守派による、一体何が敗北の理由だったのか、そして敗北を乗り越えるために何をすべきかという問いが行われています。ただ現状を変えようという意欲を持っているのはやっぱり若い保守のようで、年いった人たちは、保守にはなんの問題もない、問題だったのはブッシュだ!といっているようですが。
まあブッシュやイデオロギーとしての保守主義の事はともかく、今の保守・共和党の問題となると誰もが思うのが、ネット上での保守勢力の弱さです。"Netroot"という言葉はブロガーなどのネット上の政治的活動家の事ですが、この言葉には保守・リベラル、左翼・右翼などのイデオロギーを示す言葉が入っていないのにも関わらず、これはネット上のリベラル活動家の事をさします。つまりアメリカではネット上でリベラルがそれほど強いという事です。
当然、保守の人たちはその現状に危機感を抱いてまして、若い保守が中心にネット上での保守勢力増大に向けていろいろな事が語られています。で、その若い保守の一人、パトリック・ラフィーニ(PATRICK RUFFINI)によるネット上でのリベラルと保守の勢力差について説明した文章がありました。いや、事実上ネットでリベラルがどれだけ上手くやってきたかという説明になってますかね。とにかく彼は、アメリカの保守はネットの使い方をリベラルから学ばなければならないと言っています。かつて、リベラルが保守から選挙の戦い方を学んだように、今は保守がリベラルから学ぶべき時なんだと。このラフィーニはTheNextRightという、現状からの保守の改革*1を主張しているサイトをやっている人でもあります。俺はリベラル支持なんですが、このサイトは他の右のサイトのように悪意と被害妄想で文章を綴っていくようなものではなくて、結構冷静な文章が掲載されてますから、結構楽しく読めます。アメリカの次の世代の保守について興味があるが、まだそのサイトを知らなかったという方がいらっしゃったらお勧めしますよ。
敗北の原因 パトリック・ラフィーニ (Patrick Ruffini) 2008年12月1日*2学び、そして見習おう、左派のオンライン戦術を
州の上院議員から大統領へのバラク・オバマの4年間での急上昇は、彼の勝利であっただけではない。それはあるムーブメントの時代が来たことを示してもいる。
そのムーブメントはリベラル(もしくは「プログレッシブ」)民主党員達のものだ。彼らは10年も経たぬ内に自分達を作り変えてしまった。かつてまともに扱われるのはアカデミアと報道機関においてだけだった彼らが、強力な実戦部隊に変わっていた。政治システムの完全制覇という究極の目的をめざし、彼らは政治組織の手段と戦略を組織的にデジタル化してきた――Daily Kosのブロガー、マーコス・モウリザス・ズニーガ(Markos Moulitsas Zuniga)*3は選挙前にこう雄叫びを上げた:「奴らの心を折れ!」
左派のオンラインムーブメントはゴールドウォーター&レーガン時代の保守ムーブメントの例に意識的に倣ったものだ。左派(のムーブメント)を作ろうとした者達にとって、巨大な右派陰謀勢力*4は軽蔑の対象ではなく、賞賛の対象であった。彼らは右派のシンクタンクネットーワークについて研究し、メッセージをどうやって強力な効率性をもって送り込むかの鍵を探し出そうとした。そして彼らは学んだ事を心に刻み、彼ら自身をウェッブに合わせて形作っていった。皮肉にも、今日の右派は彼らから学ばねばならないのだ。
左派が作り上げたのは、無精ひげのブロガー達の一団だけではない。右派を、右派が得意としてきたゲームで打ち破るマシーンなのだ。ヘリテージ財団AEIのような(右派の)アイデア工場への左派の答えが、センター・フォー・アメリカン・プログレス(CAP)であった。といって、それは多くのアイデアを生み出しはしない。あるリポートによると、その予算の40%はマーケッティングに充てられているのだという。その槍の先端矛先がCAPの政策担当者達による一般向けのサイト、ThinkProgress.orgである。その唯一の機能は、保守の候補とその人格の信用を落とす事のみのようだ。グーグルによると、そのサイトには「サラ・ペイリン」という言葉が書かれたページを1万1千もある。ThinkProgressのエントリーは特段オリジナルなものではない。しかしそれは多くの場合、左翼ブロゴスフェアとCountdown with Keith Olbermann*5へ攻撃開始指令が発される場所として働くのだ。
もしThinkProgressがネットルート*6のフレーミングと広報担当部署だとすると、Talking Point Memoのジョシュ・マーシャル(Josh Marshall)はその選任敵対勢力研究者(resident opposition researcher)だろう。8年前に彼がブログを始めた時*7、マーシャルは典型的な貧乏芸術家タイプだった。フリーランスの仕事で食いつなぎながら、その合間にブログを書いていた。しかし、マーシャルはいまや、共和党と保守派に対する新しい攻撃ミームに関する左派のもっとも頼れる供給者となった。彼は小さな帝国を気づいた築いたのだ――TPMメディアは7人のリポーター・ブロガーを雇っている*8。かつて働いていた一人はABCニュースに雇われるようになった。
Daily Kosのモウリザスは色々な面で、リベラル・ブログ・シーンの中心となっている。そして活動こそが彼の興味の対象だ。モウリザスは彼の読者達――彼は月間1000万のページビューを持っている――に彼のお気に入りの候補、大抵は共和党の安全なはずの現職に対抗するリベラルの挑戦者候補への献金を促してきた。Daily Kosはリベラルな考えを開帳する為のプラットフォームではない。民主党の中で、そして党の為の政治的サポートを作るための手段なのだ。「[Daily Kosは]一つの目的のための民主党支持のブログである:選挙に勝利する」、モウリザスは2004年の画期的なポストでそう書いた。「党の為の戦いは、イデオロギーの戦いじゃない。それはエスタブリッシュメントと、反エスタブリシュメントの間での戦いなんだ。」
ネットルートの初期の成功は党内のエスタブリッシュメントからの敵意のなか、主要な(党の)献金者からろくなサポート*9も受けずに達成された。しかし、民主党の資金集めの為の仕組みであるActBlue*10がゲームを変えてしまった。全ての献金者が特定の候補の為に献金できるようになったのだ。それもオンライン上で。このサイトはこれまで、民主党候補の為に8200万ドルを集めてきた。候補のほとんどはリベラルだ*11
数年が経つうちに、リベラルブロガーは幾多の勝利を重ねていった。政治の場への洗礼は2004年のハワード・ディーンの選挙キャンペーンである。それは、インターネットがそれまで無名であったバーモント州の前知事に、より名前は知られているが覇気のない競争相手達を圧倒させた時だった。候補は最後の最後に失敗してしまったが、しかしその経験は多くの教訓を残した。その後の数年、ブロゴスフィアからの強力なアシストが、ブッシュ第一期にはまったくの無力に陥っていた民主党の伝統的な支持団体を勇気付けた。
2005年、マーシャルは社会保障保険制度改革へのリベラル・ブロゴスフィアの反対を主導した。彼は個人口座*12にたいして理解を示していた民主党の政治家の名前と電話番号を掲載し、彼らを「軟弱派閥」(faint-hearted faction)と呼んだ。(抗議の)電話がかかるようになると、軟弱な者達もその立場を一人、また一人と変えていった。共和党の指導層がいい加減な支持しかしなかった事と合わせて、これが大統領の二期目での主要目標の実現を決定的に妨げた。そして大統領の無敵というオーラを打ち破り、やがて来る死のスパイラルの予兆となったのだ。
2006年には、ディーン派のネットルート(そのリーダー(ディーン)は民主党全国委員会を率いるようになっていた)と、党のエスタブリッシュメントとの間での内戦はなかった。誰もがネットルートの、顔面パンチを狙う好戦的な旗の下に行進していた*13。ユーチューブが、ジョージ・アレン(George Allen)のバカな言葉の火種を大火にする事――”macaca moment”は聖堂入りした*14――と、上院での支配*15をひっくり返す事に決定的な役割を果たした。
そのすぐ後にマーシャルの最大の成功がやってきた。全米さまざまな場所での連邦検事の解雇に関する地方紙の報道をまとめたのだ。そこから彼は、司法省における(共和党系人脈の)縁故での採用・昇進についての一本の物語をつむぎだし、それが最終的に(司法長官であった)アルバート・ゴンザレス(Alberto Gonzales)の失職につながった。それはまさにインターネットの為の物語であった:報道記者などはだれもそれを追っていなかったし、地方紙の記事はオンライン上の誰もが利用可能であった。
2007年、この活気とドラマにあふれた歴史の中に、オバマの選挙キャンペーンが参入してきた。彼らは党内の予備選でのヒラリー・クリントンへの挑戦で、インターネットが非常に役に立つと考えていた。確かに、支持の大群とオンライン上の膨大な献金はオバマのカリスマがなければ実現する事はなかっただろう。しかし、その彼のキャンペーンは優れた戦術を考案し、そしてそれを完璧に実行したのだ。(後の勧誘のために)支持者達の支持集会への参加にはeメールアドレスの提供を必須とし、携帯メールで副大統領の選択を公表するからと約束して推計300万以上の携帯の番号を集めた。そして、ユーチューブ上での候補のイメージを作り上げる為に9人のオンライン・ビデオ・チームを雇用した。
オバマの強力なオンライン献金能力がなければ、イリノイ州選出の上院議員(オバマ)は、戸別訪問が重要である党員集会州*16で(クリントン候補を)圧倒するリソースを持つ事は出来なかっただろう。その勝利が彼の指名獲得を大いに助けることになったのだ。また、金と戦術だけでは一般選挙の結果を説明する事はできないが、インターネットはオバマが公的助成金に頼らなくても済むようした。それにより近代の大統領選史におけるテレビ放送と戸別訪問の利用でもっとも一方的な選挙戦を実現させたのだ*17
その間、右派は伝統的な党構造の外側で、金と活動家をその候補達の為に動員しようとは全くしなかった。共和党員はActBlueを真似てはみたりはしたが、しかしその成功はどうにも友好的とはいえない環境によって制約されてしまっていた。中道右派のブロガー達は直接の活動に参加する事を拒むし、20世紀の内に物心ついていた選挙のコンサルタント達もそのリソースをインターネットに投資することを拒むのだ。
また別の問題は、保守派のブロガー達は彼らの意見しか提供しないという事だ。左翼メディアの新しい柱は、情報を提供する。たとえば連邦検事の解雇についてのような。どんな新聞の一面も議論のテーマを提供する事に関して通常、論説を上回っているという事(page A1 of any newspaper usually trumps the op-ed page in setting the agenda)を認識して、彼らは情報の出口を装ってきた――大抵は左派とその候補達に有利な情報だ。
これはTPM、ThinkProgress、そしてHuffington Postが専業の記者達を雇ったフルタイムの業務であるのに、保守のブログが通常はアマチュアかパートタイムの書き手によって運営されているからだ。そして保守のブロガー達がフルタイムとなった時も、彼らは大抵、コメンテーターであって記者ではない。
共和党の問題が技術の利用のしかた、いや、相対的に利用していない事には留まらないのは言うまでもない。ネットルートとオバマ選挙キャンペーンは、主にインターネットが反逆者達に適したメディアであるが故に成功したのだ。しかし共和党が政府のあらゆるレベルで野に下った今、共和党こそが対抗のツールとしてのインターネットを必要とする。それを掴み取る事に失敗するならば、長い、長い冬を迎えることになるだろう。

*1:なんか矛盾する言葉ですが。

*2: 追記:日付が12月なのは、この文章がもとはNational Reviewという雑誌に掲載されたものだからだろうと思います。

*3:“Moulitsas”の発音が「モウリザス」でいいのかどうか、正直自信はありません。お母さんがサルバドル人で、お父さんはギリシャ人なので、名前の読みがどうも分からないです。ちなみにこの人は元々共和党支持だったのだけど、軍隊に入って考えが変わって[http://www.prospect.org/cs/articles?articleId=11410:title=民主党に傾いていった]という人。軍隊は共和党支持が強い事を考えると、ちょっと意外な変化ですよね。別に反軍隊なわけではなく、軍隊の平等主義的なところからそうなっていたったらしいです。

*4:「右派陰謀」という言葉を冗談だと思う人もいるかもしれませんから、書いておきますがアメリカの右派の人達はまじめに陰謀をやります。たとえば元共和党員で90年代に対クリントンの陰謀工作をやっていた人の告白の本である[http://en.wikipedia.org/wiki/Blinded_by_the_Right:title=”Blinded by the Right”]などをどうぞ。この人は保守的だったので共和党に入り、陰謀工作を手伝ったのですが、ゲイでもあったのでついに結局共和党を去ることになったという人です。

*5: Keith Olbermannがメイン・キャスターであるアメリカNBCのニュース番組。ブッシュや共和党を批判して人気番組となった。

*6:左派のブロガー達のこと。

*7:ジョシュ・マーシャルは2000年の大統領選が再集計でもめつづけている時に彼のブログを始めた。

*8:TPMは、いまやそのサイト内に、メインのTPM、政治の様々なネタを取り扱うTPMMuckraker、選挙に特化しているTPMElectionCentral、政治関係のいろいろなショートビデオを作っているTPMTV、そしていろんな知識人のオピニオン欄であるTPMCafeをそろえている。ちなみいま新設する経済ブログのための経済記者を募集中。できれば俺も応募してみたいが、無理だよなぁ。

*9:労組、弁護士、ハリウッド(スピルバーグ等)とか。

*10:青は民主党を意味する。赤が共和党。

*11:民主党の候補だからといってリベラルとは限らない。保守的な州では中道、もしくは穏健保守といった感じの候補が立つこともある。そういう比較的保守的な民主党議員は”Blue Dog”という派閥を作っている。

*12:ブッシュは、というかその後ろの保守の人達は社会保障制度の解体をめざし、その第一歩として社会保障の支払いを各個人の口座に対して行う個人口座案を提案していた。

*13:いや、党のエスタブリッシュメントとネットルートはずっと揉めていたとおもうが。いまでもまだネットルートに理解を示さない民主党エスタブリッシュメントはいるし。

*14:将来の大統領候補の噂まであったバージニア州選出の上院議員ジョージ・アレンは集会で自分を撮影していたインド系アメリカ人を”macaca”と呼んだ。この言葉は黒人への侮蔑を意味するらしい(もともとアメリカではまず使われていなかった言葉で、どういう意味なのかでも揉めた)。このシーンはユーチューブに載せられて大事になり、ジョージ・アレンは2006年に再選を果たす事ができなかった。

*15:共和党が上院の支配を失った。もっともこの時点では、民主党が無党派を加えて51人という状態だったので、けっして民主党支配といえるわけではなかった。もし何かの投票で無党派の一人が離反して共和党につき50−50になれば、副大統領が投票して決着をつけることになっているので。

*16:予備選の行い方は二通りありまして、党員集会方式はそのうちの一つです。ここで言っているのは、民主党予備選で党員集会方式が捉えている州のことです。

*17:選挙資金の高騰を抑える為に、公的助成金制度があるんですが、これを利用すると選挙に使える資金が制約されてしまいます。資金力でマケインを圧倒していたオバマは公的資金を利用しなかったので、それを利用したマケインとの間で資金面での差が拡大しました。