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P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

クルーグマン:名目賃金と雇用について

クルーグマン ニューディール 大恐慌

賃金を引き上げようとしたニューディールが大恐慌を悪化させたのだとか言っている人達への反論として、1930年代の名目賃金と雇用の関係についてクルーグマンが書いたものです。実証が伴っていない可能性の指摘がこの場合、どれだけ反論として有効なのか分からないですし、正直そんなに面白い内容でもなかったのですが、これに対してマンキュ−(翻訳)やコーエンがコメントし、さらにクルーグマン補足説明をしているので、これはもしかして面白い事になるかもと思い、訳してみる事にしました。そこら辺も、また後で訳していきます。
名目賃金と雇用について  ポール・クルーグマン  2008年12月2日

ケインズの[一般理論の]貨幣賃金と雇用についての章は、現代の経済学者にとって読むのが難しいものである。よって、それをスタンダードな教科書の総需要−総供給フレームワークの中で語りなおすのは助けとなると考えた。
雇用の関数として産出を決定する生産関数から始める:
Y=F(N)
競争的な市場においては、労働者はその実質賃金が限界性産物と等しくなるところまで雇用される。(現実の世界では、物事はもっと複雑だが、そんな事は気にしない。)もし労働者の契約が実質賃金を直接決めていれば、話はここで終わる。しかし、実際には労働者は名目賃金を交渉するため、賃金率に対する集計物価水準の比率に依存した総供給曲線を我々は手にする事になる。
Y=S(P/W)
通常のモデルでは、このAS[総供給]曲線と、経済の需要側を表す、AD[総需要]曲線の交点においてマクロ経済の均衡が決定される。よって、下のようなグラフになるわけだ。

さて、ここで悪のニューディール政策名目賃金を高めたとしてみよう。これはAS曲線を上にシフトさる。これは、より高い物価と低い産出につながってしまう:
Shlaesのような人達が語る物語だ。まあ、こうなる理由をキチンとは理解してはいないだろうが。
ところで、この物語の重要な特徴はなんだろうか?それは需要曲線が右下がりの曲線であることだ。では、それは正しいのだろうか?
まあ、通常時には、AD曲線は右下がりだと考えられる。なぜなら、他の条件が変化しない場合、より高い物価レベルは貨幣への需要を高めてしまう。これが利子率を引き上げて、そして高い利子率は計画支出[desired spending]を減少させる。(IS-LM分析でいうと、高いPが低いM/Pにつながって、これがLMを左にシフトさせる。)
しかし流動性の罠の条件下では、利子率は貨幣の供給や、それへの需要[の追加的な変化]によって影響を受けることはない[the interest rate isn't affected at the margin by either the supply or the demand for money]−−[利子率]ゼロの壁を下回るのはなかなか難しい事なのだ。その為、右下がりのAD曲線を説明するいつもの説明は役に立たなくなる。[やりたければ、]ピグー効果を持ち出す事はできるだろう−−しかしその場合、フィッシャーの負債デフレと戦わなければならない事になる。流動性の罠においては、AD曲線は、右下がりであるかもしれないが、それと少なくとも同じだけ、右上がりであるかもしれないのだ。
そして1930年代の半ばには、アメリカは流動性の罠にどっぷり嵌っていた。財務省証券3ヶ月ものの利子率はたった0.14%だったのだ。
[では、]AD曲線が垂直だったとしてみよう。すると、図はこのようになる。

こうなると、賃金上昇の物価への負の効果はなくなってしまう。
さて、重要な点は、1930年代の流動性の罠が実際どうであったのかがNIRAのような政策の効果をどう評価するかについて重要な意味を持つという事だ。ニューディールの賃金へのサポートが大恐慌をよりひどくしたと主張する人たちは、この事をきちんと考慮していない。彼らは、ちゃんと示されぬまま、暗黙裡にAD曲線は「通常」の傾きを持っていたと仮定しているのだ。大恐慌の深淵の中でも。しかし、そうではなかったのだ。