P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

「人的資本政策と所得分配:分析のフレームワークと先行研究の検討」パート3.6

寒いですねぇ。昨日買ったばかりの我が愛車「ラグーン」号あるいは「ホークダウン」号もしくは「オックス」号なんなら「マジックM66」号(つまり、自転車黒いのです)は快調にとばしてくれてますが、そうなると寒風吹くたびに、ああ、おれの手がぁ!!!状態です。なので手袋買おうかと思ってますが、実際に見に行くたびに、いやまて、ほんとにそこまで寒いか?と思ってしまう、だってI'm poor...いや、質素倹約こそがわが家訓とのたまっておこう!
ま、それはともかく「人的資本政策と所得分配:分析のフレームワークと先行研究の検討」のパート3.6です。
訳についての断り:早く訳すために、カナを多用しています。人名などの固有名詞については、有名なもの以外はアルファベットそのままとします。数学関連の表記について、特に添え字ですが、たとえばA{i,j}はiが上の、jが下の添え字です。A{j}はjが下の添え字で、A^{i}は上の添え字を意味します。
3.6 国際貿易と不平等
これまでのところの考察では閉鎖経済の国を考えてきた。多くの経済学者とコメンテーター達は拡大した国際貿易が不平等の拡大にとって重要な要因であったかもしれないと議論してきた。その根拠となるものは、通常の要素比率理論のうちの一つの理論である:もしニュージーランドが自国よりもスキルについて希少な国々と貿易を始めたならば、ニュージーランドはスキル集約財を輸出し、労働集約財を輸入することだろう。これはスキルの相対供給の減少と同じ働きをするので、不平等を拡大する。ニュージーランドのケースでは、貿易の多くが他のOECD諸国とであるから、スキルの豊富さについては大きな違いはない。これは国際貿易が不平等の上昇について主要な役割を果たしてきたわけではないだろうことを示唆する。なんであれ、ほとんどの証拠はアメリカの不平等についてもLDC(発展途上国)との貿易の増加の影響は限定的なものだったことを示している。
我々のフレームワークをつかってこの効果についてさらに考察する為に、スキル集約財と労働集約財の全生産を消費するのではなく、我々の架空の経済がスキル集約財の生産物のうちの比率Φ{h}の分を輸出し、そして労働集約財についてもその国内生産のうちの比率Φ{l}に等しい分が輸入されるとしよう。そうすると、相対需要方程式は次のように変わり、

上で行ったのと同様のステップを踏んで、スキルプレミアムは次のようになる。

国際貿易の増加はΦ{h}とΦ{l}の上昇を意味する。これは社会の中のスキルの供給が減った場合と事実上同じなので、これはスキルプレミアムについて明確な効果を持つ。国際貿易の拡大は不平等の拡大についての重要な要因なのだろうか?そして関連した疑問として、国際貿易の制限は不平等の縮小させる実効的な道具となりえるだろうか?理論的には、両方の疑問への答えはイエスだ。ニュージーランドはその多くの貿易相手国と比べてスキルがあって教育を受けた労働者がより豊富なので、貿易自由度の大きな上昇はスキルプレミアムにかなりの効果を持ちえたはずだ。しかし、アメリカからの証拠は答えがノーであることを示唆している。
多くの経済学者とコメンテーター達による貿易は不平等への重要な要因だったという主張にもかかわらず、多くの証拠がその効果は比較的限られていること、そしてその結果、貿易の制限は所得の不平等を大きく減らすことはなさそうなことを示している。その上、国際貿易によってニュージーランドのような経済がその比較優位[のある財]を輸出できるのだから、国際貿易を制限することのコストはかなりのものになるだろう。
以下ではアメリカ労働市場からの証拠を要約してゆく。まず第一に、方程式(6)が示すように、国際貿易の効果は独自の仲介メカニズム[a unique intervening mechanism]を通して効果を及ぼす:スキルがより希少な国々との貿易の拡大はスキル集約財の相対価格、p{h}/p{l}、を上昇させ、その経路を通してスキルプレミアムに影響を与える。実のところ、このシンプルなフレームワークにおいては、スキルプレミアムの上昇のパーセンテージはスキル集約財の相対価格の上昇のパーセンテージに正比例する。おそらく、貿易説にとってもっともダメージの大きい証拠は、ほとんどの研究が不平等が拡大したこの期間中にスキル集約財の相対価格が上昇しなかったことを示していることだろう。Lawrence and Slaughter (1993)は1980年代にスキル集約財の相対価格が実際のところ減少したことを発見した。Sachs and Shatz (1994)は変化なし、もしくはわずかな低下を発見した。Krueger(1997)によるより最近の論文はそれらの研究で使われた方法とデータを批判して、スキル集約財の相対価格の上昇を見出している。しかし、その価格の上昇は相対的にわずかなもので、アメリカ経済で発生したスキルプレミアムの大きな上昇を説明するのに十分なものではない(スキル集約財の相対価格の変化は、スキルプレミアムの変化と同規模のものである必要があることを思い出されたい)。
第二に、貿易をその変化の主要要因とすると、スキルのある労働者の賃金が上昇するのは、他の産業から労働者を引き抜いてスキル集約財の生産を増やすためのはずだ。しか実際のところは、Murphy and Welch (1993), Berman, Bound and Griliches (1994)、そしてAutor, Katz and Krueger (1998)が述べているように、スキルレベルの低い財を生産するものまで含んだすべての産業がより教育のある労働者への需要を増やしたのだ。このパターンはスキルあり労働者への需要の増加の主要要因は貿易であったという説とは整合的でない*1
第三に、貿易説が直接的に意味するところは、上で示されているように、アメリカにおけるスキルへの需要と不平等の拡大と、スキルが豊富なアメリカ経済との貿易を開始したスキルがそれほど豊富ではない国々におけるその逆の発生だ。しかし、実証の証拠はアメリカのとの貿易を開始した発展途上国の多くが国際貿易の開始後に不平等の拡大を経験した事を示している(Robbins、1995)。多くのケースでの不平等の拡大は同時期におこった政治的経済的改革の為かもしれないが、証拠の重みは貿易仮説に決して好意的ではない。
最後に、多くの経済学者が、発展途上国とのアメリカの貿易はアメリカの財市場での価格に、よって賃金に、大きな影響を与えるのに十分なほどの重要性をもっていないことを指摘している。クルーグマン(1995)はシンプルな南北貿易モデルをつかってこの点を明らかにしている。Katz and Murphy (1992) と Berman, Bound and Griliches (1994)はアメリカの輸入の中に含まれている[embedded:これの訳語がどういうものだったか、思い出せない]スキルなしの労働は、この時期に起こったスキルの供給の変化と比べると相対的に小さいものでしかないことを示して同じ点を強調した*2。アメリカについてのこの証拠に基づいて、私は国際貿易は不平等の拡大の主要な原因ではないこと、ゆえに国際貿易の制限は不平等を縮小させる効果的な方法ではないことを今のところの結論としておく。

*1:原注3:国際貿易と関連したアウトソーシングの増加がこの点の理解を難しいものにしている(Feenstra and Hanson, 1999、を見よ)。

*2:原注4:これはおそらく貿易説に対するもっとも弱い批判だろう。多くの研究が労働市場にレントが存在している場合、国際貿易はアメリカ労働市場での価格により大きな影響を持ちえることを指摘してきた。下のレポートのパート4においてこの事について考察する。