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P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

クルーグマン:金融取引課税

えー、またクルーグマンのコラムの翻訳です。またしばらく時間の余裕ができそうですので、当分、SFと経済関係の翻訳を交互にやっていこうと思います。もっとも経済関係といっても、クルーグマンのコラムとかのそんなに専門的ではない、訳しやつものになりますが。今回のクルーグマンのコラムのトピックはトービン税です。グーグルでニュース検索をすると、ヨーロッパの方でもりあがっているようですね。このコラムではクルーグマンの政治的スタンス(ウォール街への強い批判的な立場、オバマ政権の中道志向への批判)がよく出てると思います。それから90年代中に自身が反グローバリズム批判を行っていた過去も、ちょっと浮かんでますねぇ。


投機課税 ポール・クルーグマン 2009年11月26日
金融投機を抑えるために、課税を行うべきだろうか?べきだ、と世界の2大金融中心地の一つ、ロンドンのシティを監督する英国政府高官は述べている。その他のヨーロッパ政府も同意している--そして彼らは正しいのだ。
残念ながら、合衆国政府高官、とくに財務長官であるティモシー・ガイスナーはこの提案に大反対している。彼らが再考してくれることを祈ろう。金融取引税は、まさに今必要とされるアイデアなのだ。
この論争は去る8月に始まった。英国の金融業を監督する立場にあるアデール・ターナー(Adair Turner)が、「社会的に無益な」活動を抑制する手段として金融取引についての税金を言い出したのだ。英国首相であるゴードン・ブラウンはその提案を取り上げ、今月のG20会議においてそれを表明した。
このアイデアの何がいいのだろうか?ターナー・ブラウン提案はイエール大学ノーベル賞経済学者であるジェームズ・トービンがその晩年の1972年に持ち出したアイデアの現代版である。トービンは、通貨投機、つまり為替レートの変動で儲ける為の国際的な資金の移動は世界経済に阻害的な影響を及ぼすと主張した。その阻害的な影響を減らすために、彼は通貨の交換に小額の税金を提案したのだ。
そういった税金は外国貿易や長期的な投資を考える人々にとっては些細な出費でしかない。しかし、数日や数週の期間中の市場の変動を予想して、手っ取り早くドルを(あるいはユーロを、円を)儲けようとする人々にとっては非常に大きな抑制となる。トービンの言うところによると、それは「油のさされた投機の歯車の中に少しばかり砂を投げ込む」ことなのだ。
当時、トービンのアイデアは日の目を見ることはなかった。後年、彼には無念な事に、それは反グローバライゼーションの左派のお気に入りのアイデアとなった。しかしターナー・ブラウン提案は、つまり「トービン税」を外国為替関連だけでなくすべての金融取引に課税しようという提案は、トービンの精神に非常に沿ったものになっている。それは長期的な投資家には大した出費にはならないが、今の我々の極度に活発な金融市場で行われている取引のかなりの部分を抑制するものになるだろう。
これはもし、その極度に活発な金融取引が生産的なものならば望ましくはないものである。しかし過去2年の惨事の後、ターナー氏によるウォール街とシティの活動の多くは社会的に無益だという主張には、多くの人が賛同している。私としては、金融業界から給料をもらっていない人達のほとんど全部が賛同している、と言っておきたいところだ。そして取引税は多額の税収をもたらし、財政赤字に対する懸念をやわらげてくれもするのだ。何か問題があるだろうか?
金融取引税に反対する人達による主要な反対意見は、トレーダー達は抜け道を見つけ出すだろうからそれはうまくいかない、というものだ。また、課税は現在の危機につながった社会的なダメージを引き起こす活動を抑制することはできない、と主張する人達もいる。しかし、それらは詳細な点検に耐えられるようなものではない。
まず、金融取引への課税は達成できない(抜け道がみつけだされるだろう)という主張について。現代の取引は、非常に集中が進んでいる。たとえば、トービンのもともとの外国為替取引への課税の主張について考えてみよう。通貨のトレーダーが世界中に散らばっているのに、どうやってそれを実行すればいいだのだろうか?答えは、トレーダーは世界中に散らばっているが、その取引の大部分が決済される(settled)、つまり支払いが行われるのは、ロンドンに位置する一機関だ、ということだ。この集中によって、取引のコストが低く抑えられ、それによって大規模な取引が可能になっている。しかしそれはまた、そういった取引が比較的に容易に追跡でき、課税できる事を意味する。
金融取引税は重要な問題を解決できない、という主張についてはどうだろうか?取引税が貸し手による間違った貸し出しをやめさせたり、愚かな投資家達がそういった貸し出しによってひどい投資を行うことを止めさせはしない、というは本当だ。
しかし、ひどい投資が現下の危機のすべてではない。そういったひどい投資を大災厄にしてしまったのは、短期資金へ過剰に頼った金融システムだったのだ。
そしてイエールのゲーリー・ゴードン(Gary Gordon)とアンドリュー・メトリック(Andrew Metrick)が明らかにしたように、2007年までに合衆国の銀行システムは、金融機関がしばらく経ってから、時には一日後に、買い戻すという約束とともに資産を投資家に売るという、「買戻し」("repo")取引に決定的に頼ったものになっていた。サブプライムとその他の資産での損失が金融危機を引き起こしたのは、それがこのシステムを損なったから、「買戻し取り付け」("run on repo")が起こったからなのだ。
そして金融取引税は、超短期金融への依存を抑制する事で、そういった取り付けをより起こりにくくしていたことだろう。批判者達の言う事とは異なり、そういった税金は現在の危機を防ぐ助けとなりえていたはずなのだ。そして未来の再現をも防いでくれえるものだ。
トービン税はすべての問題を解決してくれるだろうか?勿論、違う。しかしそれは現在の膨れ上がった金融セクターを縮小させる過程の一部となりえる。この点について、そしてまた他の点について、オバマ政権はその心をウォール街のくびきから自由にする必要があるのだ。