P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

Menzie Chinn:大不況後のマクロ経済学講義

Menzie Chinnはウィスコンシン大学マディソンの教授さんです。学部学生への中級マクロの講義の内容をどうするかについてのエントリーなんですが、やっぱりマクロの講義はミクロとは違って、経済の変化に応じてどんどん変わるのだなと興味深かったので訳しました。


大不況後のマクロ経済学講義  Menzie Chinn 2009年12月17日
あるいは、中級マクロのシラバスをこの変化後の世界にどう適応させたらいいのか。
このセメスターは、私がこの2年で始めて中級マクロを教えたものだった(リンク)。その前に私がこのコースを教えたのは2007年の春セメで、キーとなるトピックはインフレーション、スタグフレーションの可能性、そして住宅価格低下を押さえ込める可能性だった。
このセメスターをはじめる時、強調点を変えなければならないだろう事、そして変化についての説明を行っていく準備ができていなければならない事はわかっていた。心配事は大きなものが二つあって、一つはテイラー・ルールをどうするか、二つめは銀行セクターをどう取り扱うか、だった。それほど厄介でないのは消費関数についてだった。
 図1 Source: Deutsche Bank, Global Economic Perspectives, December 9, 2009 [not online]

図1は最初の困難について明らかにしている。過去10年にわたって、マクロの教科書のトレンドはIS-LMの枠組みを部分的にか完全に消し去って、代わりに貨幣数量がGDPの決定にかかわらせ、そして産出とインフレーションギャップが変数である金融の反応関数、つまりテイラールールを使っていくというものだった*1。これは有益なイノベーションであったが、しかし(講義の中で私が強調したように)日本には適用が難しかったし、そして2008年末現在で、アメリカの政策当事者にとってもゼロ金利の限界は現実となったのだ。
この問題は数字を打ち込んで、連銀利子率がいくらであるべきかを計算すればさらにはっきりする(下は、CBOの産出ギャップと、個人消費支出(PCE)インフレの異なるインフレ・ターゲットに基づくセントルイス連銀による推計)。
 図2 Source: St. Louis Fed Monetary Trends.
よく知られているように、産出ギャップについての現実的な推計を利用すると、導かれる連銀利子率は負になる。ここで皆、両手を挙げて数量的緩和について話しだすわけだが...
よって、IS-LMはいまだに財政金融政策の効果を分析する有用な枠組みであるようだ。IS-LMフレームワークは−−そしてより一般的に総需要−総供給(あるいは「新古典派総合」)は−−財政政策悲観派(私がここのポストで議論したように)も、そして(当然ながら)金融政策の流動性の罠批判(Joe Gagnonの主張を思い出して欲しい)も取り扱えるのだ。勿論、貸し出し緩和*2のアイデアを取り扱うのは、まだこの単純な枠組みでは難しいが。
それが第二の困難につながる。すなわち、金融セクターの異なる側面をどうやって取り込むのかという事だ。わたしはかなり単純なフレームワークを使う事を選んだ。つまり、バーナンキ−ブラインダー・CC-LMモデルだ(このポストで論じている。))。その説明はここにある。これは本質的には、CC-LMモデルの線形化バージョンである。比較静学はかなり簡単なものになる。
CC-LMモデルは複雑化の程度を高めはするが、CCとLM曲線の両方をシフトさせる事で数量的緩和に関しての連銀の行動の根拠を与えてくれる。(それに対して、これは準備への支払いが二つの曲線の外側へのシフトを制限してしまう事を明らかにしている*3)。勿論、銀行セクターを取り込めたとしても、金融政策の効果の経路すべてを説明できるわけではない(他の経路についてはこのポストをみて欲しい。)
最後に、合衆国の経済成長に関する見通しの議論、そして消費行動は、スタンダードのケインジアン消費関数によっては現実的に評価できない事に触れておくのもおもしろいだろう。代わりに、消費がいかに現在の可処分所得と家計の純資産に依存しているかについての議論が重要だ。
 図3 実質消費の対数、2005年の10億ドル単位、SAAR(青、左軸)、実質純家計資産の対数、2005年ドルの10億ドル単位、PCEデフレーターにより調整 (赤、右軸)Source: BEA, 2009Q3 2nd release, and Federal Reserve Board Flow of Funds, December 10 release.
つぎのセメスターには、大不況の長期的な影響をいかに組み込むかをについて考えてみるつもりだ。重要なマクロ要因の一つは、資本蓄積への金融セクターの混乱と、労働参加率への失業と資産価値の低下の含意に関することだ。大不況に関しての私のセミナーでは、この主題についての最近のOECD経済見通し第4章(PDF)について論じている。
勿論、学部学生のコースに新しい題材を持ち込むのには、なんらかの題材を落とさなければならない。私の場合には、新しい古典派のモデル(ルーカスの供給曲線、リアル・ビジネス・サイクルのモデル)へ割く時間を減らした。

*1:原文"the trend in macro textbooks has been to dispense either partly or fully with the IS-LM construct, where the quantity of money enters into the determination of GDP, and substitute in a monetary function, where the arguments are the output and inflation gaps, i.e., the Taylor rule."

*2:原文"credit easing"。

*3:原文"it does highlight the fact that payment on reserves has limited the outward shift in the two curves"。