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P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

アンドリュー・ゲルマン:紛争解決研究における紛争

アンドリュー・ゲルマンのブログで、紛争学での戦争死者数の推定に関しての論文に関する問題が取り上げられていました。トピックがちょっと目新しかったので、訳してみました。
(追記:Soulcageさんのコメントにより訳を一部変更しました。Soulcageさん、ありがとうございます!)

紛争解決研究における紛争  アンドルリュー・ゲルマン  2009年12月20日
Mike Spagatが次のように書いてきた:

British Medical Journal に掲載された紛争での死者数のついての論文の深刻な間違いに関するこの新しい論文[Michael Spagat、Andrew Mack、Tara Cooper、そしてJoakim Kreutzによる]に、君は興味を持つんじゃないかと思う。なんであれ、これは非常に教訓的だと思うんだ。紛争学にとって重要であると思うが、それ以上にね。(訳者注:次の一文はわからないので、原文そのままです) (if I do say so myself)。これのもう一つ別の点は、BMJ*1がその論文に間違いがあることを認めようとしないことだ。これは間違いがあった時の、残念ながら典型的な学術誌の行動のようだ。

Spagatその他の論文は次のように始まる:

よく引用される最近の論文、Obermeyer、Murry、とGakidou(2008a)は13ヶ国での負傷からによる戦時の死者数(wartime fatalities from injuries)の推計を検証している。彼らの分析は、紛争についての研究者達によって広く使われている戦闘による死者数推定方法への大きく疑問を投げかけており、戦争による死者数は近年の何十年かで増加してきたのか減少してきたのかについての論争にかかわるものだ。また、戦闘の死者数推計への異なるアプローチ間での議論を新しいレベルへ移すものである。その評価の作成において、著者達は世界保健機構(WHO)のsiblingサーベイ・データからの戦争死者数報告を、同じ国々についてのオスロの国際平和研究所(the International Peace Research Institute, Oslo (PRIO))からの戦場死者数推計と比べている。しかしながら、結論を導くその分析は説得力のあるものではない。よって、著者達はPRIOの推計は3分の1にまで過小評価されたものだと主張するが、彼らの比較はこういった比較をおこなえるようなものではない。戦争での死者数は近年低下してきているというPRIOの発見を支持する「証拠はない」という彼らの主張もまた成立しない。彼らは1994年以降と1955年以前の戦争趨勢データを無視し、たった13ヶ国からの偏向した扱いやすいサンプルからの外挿にその時系列を基づかせている。そして推定された統計的に有意でない定数を利用している。

ここで彼らはこの問題についてのさらなるバックグラウンドを提示している。彼らは、戦争死者数のサーベイ・ベースの推定の利用についてのまだ未解決の疑問を説得力をもって提示している。特に、サーベイ・ベースの推定は、戦争死者数に関する疑問に関してまったくなんの証拠も提供していない事を非常に明らかにしている−−Obermeyerその他の趨勢についての主張は、単に統計上のエラーに基づいたものなのだと。どのケースについても、どの数字が信用できるのか、まだ判決は出ていないと私は思う。
下はObermeyerその他が用いたデータのサマリーだ。

このグラフはすばらしい。ただ私が思うに、彼らは軸を1000の単位にするべきではないが!数字はそのまま利用した方がずっとよいだろう(千、万、...1000万)。また、私はグアテマラについての低い数字に驚かされた。その内戦では20万人が死んだといつも聞いてきたのだから。
とても奇妙な事に、このグラフを作った後、Obermeyerその他はもともとのスケールでの回帰を行う。Spagatその他が指摘するように、変換されていないデータについての線形回帰を行うというのは、あまりよい考えではない。下は彼らのグラフだが、これはそのデータのほとんど全ての死者数はベトナムのケースである事を強く示している。そして、ベトナムを取り除いてしまうと、ほとんど全てエチオピアただ一国だけからになるのだ。

この信じがたいほど醜いプロットは、目的に関しての少々の紛争を示している、と思う:一方で、Spagatその他は学術論文を書いているのであり*2、その結論はできるだけクリアなものにしたいと思っている。また一方では、彼らのゴールはObermeyerその他の分析をやっつける(shoot down)ことなのだから、かれらのデータはできるだけぐちゃぐちゃで結論など出ないものに見せたいという誘引もある。この2番目のゴールがこのケースでは勝ったようだ。
下はまた別の醜いグラフで、これにはx軸上の非常に多くのチックマーク目盛り*3があるので、どれがどの年なのか判別するのは不可能だ。

939ページに、Spagatその他は「 『国家単位の紛争』−−これは、戦争当事者のうちの一つは政府であるものの事である−−の『戦闘死者数』 」について書いている。「戦闘死者の計測には戦闘に関連した負傷からの兵士と、銃撃に巻き込まれた市民の死者が含まれる...」 グアテマラのような、政府が戦争当事者の一方だが、ほとんどの死者が兵士でないような戦争における「戦闘死者」をどうやって数えるのか、私にははっきりしない。また、上のグラフでは、グアテマラについての二つの異なる推定が、非常に近く、どちらもよく言われる20万という数字よりもずっと小さいことに注意してもらいたい。
P.S. Spagat博士より、サンプル・サーベイを使ったイラク侵攻後の死者数の推定を行い、Lancetに掲載されたBurnhamその他の悪名高い論文をやっつけた(shot down)、という知らせを受けた。

*1:British Medical Journal のイニシャルです。

*2:原文"Spagat et.al are publishing a scholarly article"この"publishing"の「投稿、掲載」が訳しにくいので「書いてる」にとしています。

*3:軸上の短い縦線。日本語でなんと言うのだろう?Soulcageさんのコメントにより削除。