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P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

ベスター:回想 4

SF ベスター

ちょっと間が空いてしまいましたが、ベスターの回想の4回目です。ついに話は「分解された男」「虎よ、虎よ」に入ってきました。
今回の終わりの部分はかなり尻切れトンボです。正直、どうせ間も空いた事だし、もう少し時間もかかってもさらにキリの良いところまで訳そうかとも思ったんですが、忙しくなってきたので、とにかく一旦ここで出す事にしました。のこりは7ページほどなので、次の5回目でなんとか終わらせようと思います。

いつもの様に、もし何か誤訳なり何なりありましたら、コメント欄によろしくお願いします。
なお今回の訳では、kuroseventeenさんとjinmensouさんからの助けを受けました。ありがとうございました!

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ある日、まるで晴天の霹靂のごとく、ホレース・ゴールドがギャラクシー誌に書いてくれと電話をかけてきた。ゴールドはギャラクシーの編集長として大成功を収めていた。我々の分野の空いていた領域をうまく埋めたのだった;アスタウンディングはハードサイエンス、ファンタシー&サイエンスフィクションはウィットとソフィスティケーション;ギャラクシーは精神医学志向だった。私は喜びはしたものの、本当にすごい作家達と比べると自分はたいしたサイエンスフィクション作家だとは思えないと説明して断ってしまった。「なぜ私なんです?」と私は尋ねた。「スタージョンも、ライバーも、アシモフも、ハインラインにも頼めるじゃないですか」
「全員頼んである」、と彼は言った。「そして君も欲しいんだ。」
「ホレース、あなたも古手の原稿書きなんだから、私が無能タレント主演の番組で手一杯なのは分かってくれるでしょう。私はそいつの為に台本やら、司会のクイズショーやら、そしてそいつがダメにするための寸劇を書かなきゃならないんですよ。そいつのせいでホント大変なんです。奴のエージェントのせいでも大変だし。ほんとに時間がなくて。」
ホレースは諦めたりはしなかった。彼はしょっちゅう電話をかけてきては、最新のサイエンスフィクションについて、新しいコンセプトについて、誰がどんな失敗をして、そして誰が失敗をせずにすんだかについて話すのだった。こういったゴシップの中で彼は、私が自分で思っている以上に良い作家なんだと伝えては、なにかやってみたいと興味を持っているアイデアはないのかと訊ねようとしてきた。
これらの全ては電話で行なわれた。ホレースは自分のアパートメントに囚われていたからだ。第2次世界大戦の間、彼はヨーロッパと太平洋、両方の戦場で心を砕かれるような経験を受けてしまい、完全な広場恐怖症となって軍務を除隊したのだった。誰であれ、彼に会うにはそのアパートメントに行かなければならなかった。彼の精神科医も含めてだ。ホレースは電話の上ではとても面白く、ウィットがあり、皮肉屋で、理解が鋭く、サイエンスフィクションについてのするどい批評を行なっていた。
私はホレースの業界ゴシップをとても楽しんでいたので、彼に対して申しわけないように感じるようになってきた。結局、私もまた自分の仕事場に囚われていたのだ*1。最終的に私は多分、10個以上のアイデアを彼に提出してみた。ホレースはそれら全部をとても分別をもって現実的に論じ、最終的に二つの別のアイデアをまとめて、後に「分解された男」となるものへとまとめることを示唆してきた。そのアイデアのうちの一つのことはおぼろげにしか覚えていない。それは超感覚(extrasensory perception)と何か関係があったはずだが、どういうものだったかは忘れてしまった。もう一つはよく覚えている。私は、警察がタイムマシーンを使っていて、もし犯罪が行なわれたら、警察が犯行時点へ遡って行ける未来でのミステリーについて書いてみたいなと思っていたのだ。これは犯罪を不可能にするはずだ。それではオープンストーリーにおいて、頭のよい犯罪者はどうやれば警察を出し抜けるのだろうか?
さて、「オープンストーリー」について説明しておいた方がいいだろう。古典的なミステリーはクローズドストーリーだ。あるいはフーダニット*2、ストーリーの中に巧妙に撒かれた手がかり以外は全部隠されているパズルだ。それらをまとめてパズルを解くのは、読者に任されている。私はこれに非常に熟達するようになった。しかし、あまりに多くのミステリーショーに関わり、そしてしばしば締め切りに遅れていた(最悪の罪である)ので、時折、より軽い罪として、私は番組Aへの自分自身の原稿を盗んで、番組Bに流用したりしていた。番組Aの3年物の原稿をその盗みの為に使えないかと読んでいたとき、その中で間違ったシーンばかり書いていた事が見えてきた。それはよく出来た物語だったのだが、クローズドパズルとして保とうとして、舞台裏でのアクションによる不思議な結果を見せるために私は本当のドラマを割愛しなければならなかったのだ。つまり私は、何もかもがオープンで、どんな動きやその反応も視聴者に知られており、最後の結果だけがサプライズとしてやってくるようなアクションミステリーの書き方を私のスタイルとして開発していたのだ。これは極端に難しい書き方だった。敵役に知恵と工夫でずっと他の者達の上手を行かせ続けなければならなくなる。その当時、それは珍しい書き方だった。
ホレースは犯罪への障害としてタイムマシーンを使う代わりに、ESPを使ってはどうかといってきた。時間旅行は、と彼は言った、もうとても使い古されたテーマだ、と。そして私としても同意せざる得なかった。ESPは、とホレースは言った、さらに対処するのが難しい障害となる、と。そして私は同意せざる得なかった。
「しかし、心を読む探偵というアイデアは気に入らないな」、と私は言った。「それじゃあんまりにも凄すぎる」
「いや、いや」、とホレースは言った。「完全なESP社会を作り上げるんだよ」
そして、作り上げるのが始まった。我々は殆ど毎日、電話でそれについて議論した。双方が何かを提案し、提案を却下し、提案を修正変更した。ホレースは、少なくとも私には、理想的な編集者だった。いつでも助けとなり、いつでも応援してくれて、熱意を失う事がない。彼は自分の考えを強く主張したが、神もご存知だろう、それは私もだ。多分、もっとずっと強く。関係を維持できたていたのは、我々が相手をそれぞれ尊敬している事を知っているという事実のゆえだった。それと、この仕事へのプロフェッショナルとしての努力。プロフェッショナルにとっては、仕事こそがボスなのだ。
執筆はニューヨークで始まった。夏がきて私の番組が終わると*3、原稿と共にファイヤー島の我が家の夏のコテージへゆき、そこで続けた。いくつかの面白い出来事の事を思いだす。しばらくの間、私はフロントポーチでタイプしていた。ニューヨーカーの演劇批評家であったウォルコット・ギブス(Wolcott Gibbs)が通りをいったところに住んでいて、うちのコテージを通り過ぎるたびに私が働いているのを見ては私を罵倒したものだった。ウォルコットはその夏にハロルド・ロス*4の自伝を書くと約束していながら、まだ手も付けていないのだった。L・F・(イッジー)ストーン(L.F.(Izzy) Stone)*5は一度、立ち寄って、サイエンスフィクションの中に反映された政治的思想についての激しい議論の中に飛び込む事となった。イッジーはとてもはまり込んで、彼が家に帰って補聴器に新しいバッテリーを入れるくる間、少し休憩してくれと頼むほどだった。
明け方と夕方、私は岸辺での釣りを習慣にしていた。ある夜、私が釣り糸を投げ、特に何も考えずにぼんやりとしていた時、名前に特殊文字のシンボルを使うというアイデアが浮かんできた*6。私は釣り糸がぐちゃぐちゃになるほど急いで巻き上げ、コテージに急ぐとタイプライター上で実験をしてみた。それから私は原稿をめくっていって、全ての名前を変更した。ある朝、日食(月食?)を観ようと手を休めたのに、雲ってしまった事を覚えている。明らかに、上にいる誰かが、日食(月食)による休息を認めなかったわけだ。そして、夏の終わりまでには、小説は完成した。私のタイトル案はDemolition(分解)だった。ホレースがそれをThe Demolished Man(分解された男)に変更した。ずっと良い、と思う。
この本はギャラクシーの読者からかなりの好評を受けた。嬉しかったが、驚きでもあった。私は何か新しい事をやろうとは全く思っていなかったのだ。ただ職人としての仕事をやろうとしていただけだった。一部のファンのコメントには当惑させられた。「ベスターさん!女性の事がホントによく分かってますね。」女性の事を分かっているなど、思った事もなかった。「キャラクター達のモデルは誰なんですか?」彼らが驚いた事に、登場人物達の一人のモデルはメトロポリタンミュージアムにあるローマのある皇帝のブロンズ像だと私は答えたのだった。そいつは子供の頃からずっと私に付きまとってきたのだ。その皇帝の性格を顔から読み解いて、このフィクションのキャラクタを書くときが来た時に、私の皇帝をその金型として使ったのだった。
この小説の評判により、私はサイエンスフィクションの世界で名を知られるようになり*7、人々が私に興味を持つようになった。私はサイエンスフィクション・ヒドラクラブの集まりに招待され、そこで私の方が興味を持っていた人達に出会えうことができた:テッド・スタージョン、ジム・ブリッシュ、トニー・バウチャー、アイク・アシモフ、当時はヤムルカを被った敬虔な(professional)ユダヤ人だったアブラム・デビッドスン、そしてその他多くにだ。彼ら全部が狂っていて(そして私も。見つけるには同類がいるのだ)、大抵のサイエンスフィクション作家には分別がないという事を改めて確信させてくれた。ロボットの正しいデザインについての議論を聞いていたときの事を思い出す。議論がとても白熱し、私はちょっとの間、ジュディス・メリルレスター・デル・レイの鼻を殴るんじゃないかと思ってしまったほどだった。あるいは、逆だったか。
私はブリッシュとスタージョンに特に惹き付けられた。両方とも、口調の柔らかで、魅力的な話し上手だった。ジムと私は、彼の昼食時間の間(彼はその頃、製薬会社*8のパブリックリレーションの担当者として働いていた)、セントラルパークで散歩をして、仕事の話をずっとしていた。私は彼の作品を賞賛するものだったが、彼の作品には私が訓練されてきた躍動感(the hard drive)が欠けているように感じられた。それで私はいつでも彼にもっと物語に活力を与えろと言っていた。彼がその事に怒った様子はなかった、すくなくとも彼はそんなものを表に出すには礼儀正しすぎた。彼の大きな悩みは、いかにしてPRライティングの仕事を維持しつつ、副業でクリエーティブな執筆を行なうか、というものだった。私はそれになんのアドバイスも出来なかった。ほとんどの人は解決できない問題なのだ。
スタージョンと私は、時折バーで会っては酒を飲み話していた。テッドの文章は私の好みにぴったりで、だから私は彼が我々の中で一番だと思っていたのだ。しかし彼は私を面白がらせ、そして怒らせもする特質を持っていた。モート・サールや私がインタビューしたセレブレティの何人かのように−−たとえばトニー・クィンもまたテッドだった。危機の中に生き、もし危機がなければ、自分の為にわざわざ作り出すのだ。彼の人生は徹底的に秩序だっておらず、だから彼にはベストの仕事を続けていくのが不可能だった。なんて損失だろうか!
公正の為には、私自身の事を語っておくべきだろう。なのでそうするが、ただそれは最後まで取っておく事としたい。
私のテレビでの経験を基に、現代小説を一つ書いたところ、それがかなり売れた。すくなくとも映画業界に売れるくらいに*9。妻と私は海外で何年か過して、その金をあぶく銭を使ってしまうことにした。我々は何もかもを倉庫に保管し、小さな英国車を契約して、荷物をギリギリ最小にまで絞り込むと出発した。私が持って行った執筆の為の道具は、ポータブルタイプライター、私のアイデア帳(Commonplace Book)、シソーラス(類義語や反義語の辞典)、そしてもう一つのサイエンスフィクション小説の為のアイデアだった。
しばらくのあいだ、私はモンテ・クリスト伯のパターンをなにかの物語に使えないかどうか考えていた。わけは簡単で、私はいつでもアンチヒーローを好きだったし、強迫観念に駆られたタイプに強いドラマを見るからだった。それはただの考えにとどまっていた、我々がファイアー島にコテージを買って、古いナショナルジオグラフィックの山を見つけるまでは。当然ながら私はそれを読み、海で魚雷にやられた船の船員達の生存についてのとても興味深い記事に出会った。最長の記録は、フィリピンのコック見習いによるもので、彼はいかだ(open raft)に乗って4ヶ月ばかり漂流していたのだ。その話しのディテールに私は捉われてしまった。彼は通りすぎる船に何度か目撃されていたのだが、どれも進路を変えて彼を助けようとはしなかった。ナチの潜水艦によるそういった罠があったからだ。ガラクタ好きの血が騒いで、それを取り上げ、変形させて、強い引きをもった物語を形作っていった。
「虎よ、虎よ」The Stars My Destination 我が赴くは星の大海)(仮のタイトルが何だったかは忘れてしまった。)はサリー*10のロマンチックな白いコテージで始まった。だから、これの名前の非常に多くが英国風なのだ。物語を書き始める時、登場人物達の名前を決める為に私は電話帳を読むのに数日費やす−−名前にはこだわるんだよ−−のだが、このケースでは私は英国の電話帳をつかったというわけだ。私は異なった(varying)音節をもつ名前を見つけるか、考え出すかしなければらない。一音節、二音節、三音節、そして四音節。私はテンポには非常に敏感なのだ。そして語のもつ色のイメージと、そしてそのコンテクストにも非常に敏感だ。私にとって、同じようなものというのはありはしない。
この本はなかなか進まず、我々がサリーを離れてロンドンのフラットへ向かう時には、その勢いを失っていた。勢いを生み出す為に、私は最初に戻って一から書き直してみたりもした。私は病的なほどの興奮(hysteria)に駆られて書くのだ。だがまたも全然進まず、それがなぜなのかわからなかった。何もかもがうまく行かないようだった。ポータブルタイプライターが使えなかったのだが、しかし私が借りる事の出来た唯一のタイプライターは英国式のキーボードのものだった。これでつまづいた。英国の原稿用紙はアメリカのものより小さくて、これでまたつまづいた。そして、私は冷めて、冷めて、冷めたままだった*11。 なので、11月に、我々は荷物をまとめると、霧にずっと付きまとわれながらドーバーのカーフェリーへと車を走らせ、海峡を渡り、ローマへと車を走らせた。

*1:うーん、どういう意味だろう?自分の仕事場に囚われているからと、ホレースに共感したということ?

*2:"whodunit"、皆さんご存知でしょうが、誰がやったという意味の言葉で、犯人捜しのミステリーを意味します。

*3:アメリカのドラマは秋に始まり、春に終わるパターンが多い、らしい。

*4:ニューヨーカーを創刊した編集長。

*5:だれだか分からず。ググっても、あのだれについても記載があるようなwikipedia英語版を見ても分からず。ただし、グぐった検索結果や、wikipedia英語版にはI.F.(Izzy) Stoneという人が出てきます。この人はアメリカのジャーナリストという事なので、単純な"I"と"L"なのかもしれません。

*6:たとえばGaleをG@leと書くというように、アルファベットではない特殊記号をアルファベットに使っていくというものです。「分解された男」は読んでいたんですが、この事はすっかり忘れていたので、最初何の事を言われているのか分かりませんでしたから、ツイッター上でjinmensouさんとkuroseventeenさんに助けていただきました。ありがとうございました!

*7:原文"a science fiction somebody"。無名の"nobody"ではなくなったという事なので、「名をしられるように」と訳しました。

*8:ファイザーのこと。ちなみにファイザーとSF作家の関わりとしては、[http://d.hatena.ne.jp/okemos/20090720/1248053359:title=こういうの]もある。

*9:残念ながら映画にはなっていない模様。

*10:イングランド南東部の内陸州 by 研究社リーダーズ

*11:原文"And I was cold, cold, cold"。風邪の意味?とも思わなくもないけど。