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P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

ベスター:回想 5

SF ベスター

長らくお待たせしましたが、って待っている人がいるのかどうか判りませんが、ベスターのエッセイ、My Affair with Science Fiction (redemolished掲載)の翻訳の5回目にして最終回です。一回目が8月3日にアップですから、これ一つ訳すのに4ヶ月かかってますね。うーん、サボりすぎ。
ちなみに、一回目二回目三回目四回目です。
もしタイポ・誤訳などがありましたら、コメント欄にお願いします。
追記: なぜかこれを4回目だと勘違いしてましたがこれは5回目でしたので、その点を修正しました。


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多くの冒険の後、我々はついにデッレ・ムーゼ広場(Piazza della Muse)のペントハウス・アパートメントに落ち着くことになった。私の妻はイタリア映画で仕事を始めた。私はローマ中でただ一つだけのアメリカ式キーボードを備えたスタンダードタイプライターを捜し出して*1、もう一度、またも最初から書き始めた。今度は、とてもゆっくりとだが勢いがつき始めたので、執筆への没入が起こるのを待つようになった。それがやって来た日の事ははっきりと覚えている。
私は私の妻がその下で働いているイタリアの若い映画監督と仕事の話しをしていて、我々二人ともが、やらせてもらえない実験的な事柄についてぼやいていた。私は彼に、テレビの脚本家としてもう何年も書きたい、書きたいと思っていた共感覚(synesthesia)についてのノートの事を語ったが、共感覚について説明しなければならなかった。これはサイケデリックドラッグの探求の何年も前だった。そして、私がその現象のことを語っていた時、突然、思いついた。「ジーザス・クライスト!これは小説向きだ。クライマックスに使えるじゃないか」。そして、私が何ヶ月も押しとどめられていたのは、私が劇的な結末を思いついていなかったからだった事を理解した。私には冒頭と結末が必要だったのだ。古いハリウッドのギャグみたいなもので、「地震で始めて、クライマックスまで持っていく」んだ。
悩む事は色々とあったのに、仕事は順調に進んだ。ローマは静けさを必要とするような作家向きの場所ではない。イタリア人たちは情熱的にfa rumore(騒音を出す)。向かいのマンションの屋上で日光浴をしている女の子に魅せられたPiper Cub(小型飛行機)のパイロットが彼女の、そして私の上空をブンブン飛び回るのだ。毎朝、7時から9時まで。我々の住む広場では非公式のバイカー達の集会が頻繁に行なわれているし、イタリア人たちは必ずその乗り物からマフラーを外しているのだ。そうすると彼らはTazio Nuvolare*2になったような気がするのだ。我々のペントハウスのもう一方の側では建物が建設中だったのだが、石工達が政治について話すのを聞くまでは、だれも真のrumore(騒音)というものを聞くことはない。
そしてまた、私には調査の問題もあった。公的なアメリカ図書館*3は悲しくなるくらいお粗末だった。イギリス領事館の図書館*4は素敵なもので私はしょっちゅう利用していたが、そこの本はどれも1930年以前のもので、ヴァンアレン帯についてのデータが必要なサイエンスフィクション作家の助けとはならなかった。やけになった私は、情報を求める手紙を書いてトニー・バウチャーとウィリー・レイを悩ませた。彼らは毎回、答えてくれた。彼らに祝福あれ!人文についてはトニーに−−「親愛なるトニー。自分たちで去勢を行なったあのロシアの宗派はなんて名前だったっけ?スロツスキー?*5とかっていうやつらだ。」--ウィリーは科学についてだ−−「親愛なるウィリー。宇宙服を着ていない人間(unprotected man)が真空の宇宙(naked space)でどれくらい生きていられる?10分?5分?どんな風にそいつは死ぬんだ?」
ローマで3度目のスタートを切った後、この本は3ヶ月ほどで書きあがった。長編の第一稿に私は大抵3ヶ月ほどかかるのだ。それから、推敲と書き直しの楽しい期間となる。磨きをかけるのを私はいつでも楽しんだ。さて、中身については何かいえることがあるかな?その始まりとクライマックスについてはもう既に話した。心の中に蓄えた準備の年月や私のネタ帖のことも話した。もしサイエンスフィクション執筆についての私の経験からの方程式を知りたいというのなら、私の全作品について、下がそうだ。
訓練 (Discipline)
実験 (Experiment)
経験 (Experience)
パターンの認識センス (Pattern sense)
コンセプト (Concept) + ドラマのセンス (Drama sense)
準備 (Preparation)
イマジネーション (Imagination)
外挿 (Extrapolation)
のめり込み (Hysteria)
 = 物語 (Story) <--> 主張 (Statement)
もう少し詳しく話さなければならないだろう。大人のサイエンスフィクション作家はブリック・マロイ対ゲッセマネから来た巨大イースト菌男の話を単に語っているだけではない。その物語を通して、ある表明をしているのだ。どんな表明を?著者自身についての。その幅と深みをあらわしているのだ。その表明することは、他のだれもと同じものを見つつ、しかし他の誰も考えない事を考え、そしてそれを言葉にする勇気をもつということだ。その恐ろしいところは、本当にそれが言葉にする価値があるのかどうかは、時間だけが教えてくれるという事だ。
ロンドンにもどった翌年、私はテッド・キャメルと私のロンドンでの出版社を通して若い英国のサイエンス・フィクション作家達に会うことができた。ストランド街*6の少し外れたパブで、彼らは集会をもっていた。彼らは面白い集団で、オックスフォードユニオンのディベートチーム*7を思い出させる早口と猛烈さで話していた。そして、彼らは私が今だに答える事ができない質問をしてきた:なぜ、英国のサイエンスフィクション作家はこんなも社交性が高いのに、なんでしょっちゅう、随分とダルくて、そして先の読める物語を書いてしまうのか?もちろん、有名な例外はあるわけだが、しかし私はその連中の母親は実はアメリカ人だったのじゃないかという密かな疑いを持っている。
ジョン・ウィンダムとアーサー・クラークもこの集まりに来ていた。私はアーサーはかなり変な奴、ジョン・キャンベルにとてもよく似ていると思っていた。ユーモアのセンスが完全にないのだが、私はユーモアのない人達とはどうにも落ち着けない性質だった。一度、彼は我々全員に翌週の集まりに来る事を誓わせた事があった。彼が撮った驚くべき水中写真のスライドをみせてくれるというのだった。彼は確かにプロジェクターとスライドを持ってきて、それを見せてくれた。何枚か見た後、私は叫んだ。「おい、アーサー、これって水中写真じゃないだろ。水族館で撮られてるじゃないか。水槽のガラスの反射が見えるぞ。」そして議論は、水中写真の為にははたして撮影者とそのカメラもまた水中に入らねばならないものなのかどうかについてへと変質していくのであった*8
私がよく訊かれる質問への答えとなるイベントが起こったのはこの頃だった。最初の二冊の後、なぜ私はサイエンスフィクションを捨てたのか?ここはフラッシュバックを使わざる得ない。嫌いなやり方なんだが、他の方法は思いつかないので。私が合衆国を離れる一ヶ月前、私のエージェントがホリデー誌のシニアエディターをしてる高名な紳士に会えと電話をしてきた。その人物は、テレビについての記事の為に人を探していたのだ。彼は私に、すでに二人のプロの雑誌ライターにあたったがダメだったこと、そして私がテレビ業界について小説を書いていたので私を最後の望みとして当たってみることにしたことを述べた。
それは興味をそそる挑戦だった。私はテレビを知っていたが、雑誌での記事の執筆については全く何も知らなかった。よって私はまた再び探求して、実験し、そして自分自身で学んでいった。ホリデーはその記事をとても気に入り、私が外国にいる間にイタリア、フランス、そしてイギリスのテレビについての記事を書く事を求めてきたので私は引き受けた。そしてちょうど妻と私がロンドンに永住しようと決めた時に、ホリデーから合衆国に戻ってきて欲しいという連絡が来た。彼らは「ジ・アンティック・アーツ(The Antic Arts)」という新しい企画を始めようとしており、私にその毎月の寄稿者になってくれというのだった。また新たなる挑戦。私はニューヨークに戻ってきた。
エキサイティングな新しい執筆の生活が始まった。私はもはや自分の仕事場に閉じこもっているのではなかった。外に出て、面白い職業の面白い人達にインタビューするのだった。現実があまりにもカラフルになって、私はサイエンスフィクションによるセラピーを必要としなくなった。そして、プロフェッショナルな雑誌としての技術の現実的な要請以外には、この雑誌は私になんの制約も課さなかったので、セーフティバルブももはや必要としていなかった。
私は多くの記事を書き、そして白状するが、それらはフィクションを書くよりもずっと簡単だった。だから多分、私は怠けていたのだ。しかし、母校の大学へ行ってその記事を書くことの喜びや、デトロイトに新車のテストドライブをしに行ったり、ボーイング747のほんとに最初の飛行に同乗したり、ピサでソフィア・ローレンを、ローマでデ・シーカ*9を、ピーター・ユスティノフ*10を、サー・ローレンス・オリヴィエ*11(ハリウッドでは、サー・ラリーと呼ばれていた)を、マイク・トッド*12エリザベス・テーラーを、ジョージ・バランシン*13をインタビューする喜びを思い描いてみてもらいたい。私はインタビューをして書いて、書いて、そして書いて、ついにホリデーにとって私をシニアエディターとして雇った方が安くなるようになった。そしてそれがまた全く新しい挑戦であった。
サイエンスフィクションとのかかわりを完全になくしていたわけじゃない。ボブ・ミルズの、そして後にアヴラム・デヴィッドスンの編集の下で、ファンタシー&サイエンスフィクションにブックレビューを書いていた。残念ながら、私の基準はあんまりにも高くなってしまったため、サイエンスフィクションに特別扱いを求める読者達を怒らせてしまったようだった。私の考えは、サイエンスフィクションはフィクションの多くの表現形式の一つに過ぎないのであり、すべてに適応される基準に基づいて判断されるべきだ、というものだった。ロバート・ハインラインによって書かれたんだろうが、ノーマン・メイラーによってだろうが、くだらない物語はくだらない物語でしかない。ある怒り狂ったファンは、私が更年期を迎えているのは明らかだと書いてきた。
悲しいかな、物事にはすべて終わりがある。ホリディは活発な25年間の後、潰れてしまった。私の目もダメになってしまった。哀れなるコングリーヴ*14のように。そして、そして、私はまたこの仕事場に戻ってきた。たった一人閉じこもって、私の初恋、最初の恋の相手であるサイエンスフィクションのもとへと。このアフェアーを再び始めるのに遅すぎはしないと祈りながら。アシモフはかつて私に言った。「アルフィー、我々は自分達の番では道を切り開いた。けれどもう峠は越えてしまった事は直視しなきゃいけないよ。」そんな事はないと願うが、しかしもし真実でも、新しい挑戦の為に戦っていくつもりだ。
私はどんな人間か?出来る限り正直に自分の事を描写してみよう。あなたが私の仕事場、本や、原稿、タイプライター、望遠鏡、顕微鏡、タイプ用の紙の束、化学用のガラス容器などが散乱している3部屋のアパートメントに来たとする。我々はアパートメントの2階に住んでいて、妻は私のキッチンを物置に使っているのだが、それでちょっと困っている。以前、私はそこを実験室としてつかっていたんだ。で、それからちょっと興味を引くかも知れない補足の説明をしておくと、私は大酒のみだが、アルコールをそこには保存させたりはしない。仕事場には酒はなしだ。
もし君がやってきたなら、私は高いスツールに腰掛けながら、製図台の上で原稿を編集しているだろう。たぶん、ペラペラのパジャマのボトムに、古いシャツを着てはだしでいるだろう。私のいつもの家での服装だ。グレーになってきている濃いブラウンの髪と、ほぼ全て白くなった短いあごひげと、哀しいスパニエル犬の深いブラウンの目をした大きめの男だ。私は握手して、君に座ってもらって、自分もスツールにまた座りなおしてタバコに火をつけ、君が気楽になれる話題ならどんなものでもいつでも心から喜んで話す。しかし、私が君より高いところに座ろうとするというのはありえる。心理的に優位に立てるからだ。私はそんな事をしているとは思っていないが、でもそう批判されてきた。
私の声は軽いテノールで(私が怒っている時以外は。その時は、ざらついた、耳障りな声になる)、ちょっと風変わりに声が変わる。1つの文章の中で、1オクターブ、上がったり下がったりできる。母音をのばす傾向がある。長いこと外国にいたから、私の話し方のパターンは影響を受けてしまったようだ。いくつかのヨーロッパの発音が離れてくれないからね。なぜなのかはわからない。garage(ガレージ)はGA-rahjで、喉の奥のフランス語の"r"がつくし、ドアがノックされれば、私は自動的に"Avanti!"と叫んでしまう。イタリアで身につけた癖だ。
一方、私の話し方にはエンターテイメントビジネスの慣習的な冒涜がからみついている。イディッシュの言葉や職業上の専門用語とともにね。私はWASPであるホリデー誌のオフィスを汚染してしまった。イェール出のブロンドのジュニアエディターがオフィスにやって来て、「アルフィー、演劇の記事で問題*15が起こってる。あのホモ野郎が書き直しをしないんだ」と言ってくるのはちょっとオカマっぽかった*16。言っておきたいのは、会話の相手を楽にさせる為に、私はいつもその話し方をまねるということだ。これは道化からファイ・ベータ・カッパ*17までどこでもだ。
君と話をして、興味を示して、話を聞いて、君と打ち解けようとするわけだ。君がリラックスしたと感じれば、後は黙って話しを聞く。たまに口を挟んで質問をし、ちょと主張をしてみたり、君の考えを詳しく話してくれるよう頼んでみたりする。ところどころで、「ちょっと待って、話しが速すぎる。考えてみないと」と言ってみたり。そして、私は視線を外して、考え込んだり。はっきりいって、私は話を聞いていない。新しいアイデアはいつでも私を外宇宙へと打ち出してしまうのだ。それから私は興奮して歩き回り、そのアイデアを声を出して探求してみる。
私が外に見せないのは、私の中で荒れ狂う感情の嵐だ。私にも人並みのフラストレーションや苦しみはあるが、しかし私は世間へは明るい顔をみせて、悩みは一人で抱えるように育てられた。大抵の人は自分達の悩みに取り付かれていて、他の人に興味など持つこともない。十二夜*18でのヴァイオラ*19の麗しいセリフを覚えているかな?"And, with a green and yellow melancholy, she sat like Patience on a monument, smiling at greaf"*20
私にはいくつかの変な癖がある。アイデアや上手い言葉への賞賛を表すのに、検察官が被告を指差すような仕草を使う。私は「さわり屋」でもあり、男も女もどちらもハグしてキスをして、そして背中を強く叩いて承認を示す。一度、私はボスであるホリデーの編集長にひどく恥ずかしい思いをさせてしまった事がある。彼はインドへの旅行から帰ったところで、私は彼のオフィスへいつものように入っていくと、彼に歓迎のハグとキスをした。それから私はそこに何人かの客がいる事に気がついたのだった。私のボスは真っ赤になって、「アルフィー・ベスターは世界でもっとも情熱的なストレートなんだよ」と彼らに言った*21
私はフリをするのが好きでもあり*22、よくその場で演技をすることになってしまった。これまで、ホモや、堅物の保守派や、精神科医や、芸術家や、スケベなオッサンや、スケベな若者に間違えられてきたし、そのたびに私はその役割を演じてきた。時々、私は相手の反対の性質を演じさせられることもある。君がのんびりで私がせっかち、君がせっかちで私がのんびり。そして、私の妻が喜んだり、怒ったりすることになるわけだ。帰宅すると彼女が私が嘘つきだったと叱りつけるのだけど、こっちとして彼女が私の事を二度と信用しないからとか誓っている間、頼りなさげに笑っているくらいしか出来ない。
私はいっぱい笑う。君とともに、そして自分自身の事を。そして私の笑い声は大きくてあっぴろげなものだ。私は結構、騒がしい男なんだよ。しかし、わたしが道化を演じている時にも騙されたりはしないように。このがらくた集めの心はいつでも何かないかと探しているのだから。

*1:原文"I located the one (1) standard typewriter..." "the one (1)"を「ただ一つ」と訳してしまいましたが、その意味なら普通は"the only one"だろうし、ちょっとここは自信がありません。何かご存知の方がいらっしゃったら、お教えください。

*2:おそらく、Tazio Nuvolariの事。[http://en.wikipedia.org/wiki/Tazio_Nuvolari:title=英語版wikipedia]によると、20世紀前半のイタリアのバイクと車のレースドライバーで、ポルシェ博士(勿論あのポルシェのポルシェ)から「過去、現在、そして未来でもっとも偉大なドライバー」と言われた人物。

*3:おそらく大使館などに付属のものではないかと思うので、図書室がより適切かも。

*4:原文"The British Consulate library"。こちらもやはり図書室が適切かも。

*5:原文"Slotsky"。

*6:全く関係はないが、シャーロック・ホームズの全短篇が掲載されたのは、このストランド街の名前をとったストランド・マガジンです。

*7:オックスフォードユニオンとは、イギリスのオックスフォード市のディベートチーム。メンバーはオックスフォード大学生が多いが、オックスフォード大学生限定ではない。

*8:結構、ユーモアがある気もするね(笑)

*9:「自転車泥棒」の監督。

*10:俳優。アガサ・クリスティポアロを演じていた。

*11:同じく俳優。

*12:エリザベス・テーラーと結婚したプロデューサー。

*13:バレエの振付師。

*14:17,18世紀のイギリスの喜劇作家。白内障を患った。

*15:原文では"tsimmis"となっている。これはイディッシュ語で[http://www.google.co.jp/images?hl=ja&safe=off&q=tsimmis%20food&um=1&ie=UTF-8&source=og&sa=N&tab=wi&biw=1024&bih=649:title=こういう煮込みの料理]らしいが、揉め事・問題の[http://www.wordnik.com/words/tsimmis:title=意味もある]そうだ。

*16:原文、"It was camp to ..."。

*17:大学のフラタニティ、男子学生によるクラブの一つで、成績優秀な学生によるもの。

*18:シェークスピア作の[http://ja.wikipedia.org/w/index.php?oldid=34076541:title=喜劇]。

*19:十二夜の主人公。女性だが、死んだと思い込んだ双子の兄そっくりの男装をする。

*20:俺ではまともには訳せないでしょうから、原文のまま。

*21:ゲイじゃないと言う事。

*22:原文:I'm a faker。