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P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

アメリカの構造的失業の再生と死

失業

しばらく前に現在のアメリカの失業率の上昇は構造的失業率が上昇したからなのかについての議論があり、クルーグマンやデロングなどが構造的なものではなく循環的失業の上昇だと(ゆえに有効需要を高めるべきだ)と主張していましたが、この件についてある種の進展があったそうで、クルーグマンがそのことを説明しているブログへのリンクを張ってました。で、それが面白いなと思いましたのでそのリンク先のブログエントリーを訳してみることにしました。まあ簡単に言うと統計情報の改定があったということなんですが、社会科学のデータは(金融市場からのものなどを除くと)基本的にいろんな人たちが情報を集めてまとめたものなので、どうしても一般への提供までに時間がかかる上に、追加のデータが手に入るとその改定が行われます。政府からのデータも同様で、しかも結構大きくデータが改定されてしまうこともあります。そういうのは仕方ないんでよねぇ。

ところで訳した文章はもともとショートペーパーとして書かれたものを短くしたものだそうで、そのため一部、変な文章があります。ご了承ください。あと、元の文章では%と%ポイントの区別を明確にしていませんでした。この訳でもそれに従っていますので、厳密にはおかしなところがあります。
それら以外でもしなにか誤訳などがありましたら、コメント欄によろしくお願いします。
 
 
2009年-2010年の求人率の劇的な改定は構造的失業について何を教えてくれるのか? Mike Konczal 2011年5月11日

私はついさっき、Dramatic Job Revisions Bust Structural Unemployment Mythsというタイトルの短い論文を書いたところだ。以下はその短縮版である。

「事実が変われば、私も自分の考えを変えます。それがどうかしましたか?」 − ジョン・メイナード・ケインズ

― 2010年に起こった高水準の求人とベバレッジ曲線をめぐる構造的失業についての議論は再考の必要がある。そのBirth/Deathモデルのカリブレーション*1が不況前のデータに基づいたものであったために、労働統計局(the Bureau of Labor Statistics、以下BLS)は2010年中の求人数を大幅に過大推計していた。2009年から2010年についての数字は2011年3月に修正された。
― 平均して、2009年については一ヶ月当たり新規求人数が17万2000少なくなり、2010年については23万5000少なくなって、以前の報告と比べて2010年の求人率は平均0.18%下がった。簡単な計算では、BLSのこの修正はその時期の自然失業率上昇の推定値を1.3%から1.0%に引き下げる。
― 構造的失業についての懸念が議論に登場した2010年の4月以降、ベバレッジ曲線はほぼ完全に左にシフトして、失業率はおよそ1%[ポイント]さがり、そして求人はわずか0.1%上昇した。上昇し続ける埋まらない求人などというものはデーターには現れていない。
 
労働統計局は2010年の夏に求人数が急増したと報告していた。通常ならこれはお祝いの理由となりうるものだが、実際には多くの経済学者と政策決定者を不安にさせるものとなった。もし求人数の上昇が高い失業と共存するのなら、それは企業の労働者を探す能力が低下してしまったことを意味する。もしこれが、ベバレッジ曲線とよばれる経済学のモデルが外側へシフトしたことを示しているのなら、構造的失業が上昇して労働者と企業のマッチングを行う経済の能力が低下したことを意味する。もしこういった問題が起こっているのなら、大体において需要側への拡張的財政・金融政策は経済を助ける役にはほとんど立たない。
BLSが報告していた求人数のこの増加が雇用危機に関する議論の方向を変えたとするのは控えめな表現だろう。ミネアポリス連邦準備銀行の総裁であるナラヤナ・コチャラコタこの数字を使って構造的問題がなければ失業率は6.9%だっただろうと、そして「この問題の解決に連銀が大きく貢献できるようには思われない」と述べた。ビル・クリントン元大統領はNPRとデビット・レターマン・ショーにおいて「初めて、新規求人が新規雇用の倍の早さで起こっている...。スキルのミスマッチのせいだろう...。[こういった問題がなければ失業率は]9.6から6.9に[下がっていただろう]」とコチャラコタの分析をくりかえした。デビッド・ブルックスもコチャラコタの分析を構造的失業についての2010年のコラムにおいて利用してこう述べた。「この不況の通常でない点の一つは、失業率が上昇したのに、求人率もまた上昇していることだ」
経済学者のなかで大規模な議論が勃発した。一方は求人の上昇はアメリカの労働力における深刻な問題をあらわしていると主張し、もう一方は求人の上昇は循環的景気低下の自然な結果であって、我々はベバレッジ曲線の変化(circular motion)を観察しているのだと主張した。カンファレンスが開かれ、パネルが行われた。ピーター・ダイアモンドはこの問題を論じるのに彼のノベール賞受賞講演の一部を割いた。両方のサイドが2010年の求人率はBLSがそうなったと報告したレベルにまで上昇したことを前提としていた。
2011年3月、労働統計局は2006年から2010年までの求人についてのその数字を改定して、2008年の終わりの数ヶ月から2009年と2010年すべての求人数を大幅に減少させた。下の図1がその改定である。

図1
拡大版
(フルバージョン2009年改定2010年改定
 
平均して、以前の報告と比べて、2009年は求人数が一ヶ月当たり17万2000少なくなり、2010年は23万5000少なくなった。これは2010年の求人率を平均0.18%引き下げた。修正前の平均求人数は2010年中、300万人を超えていたのだが、新しいデータでは求人数が300万を超えたのは一度だけだった。以前の求人数からの非常に大幅な下方改定であった。
 
なぜこのシフトが起こったのか?
なぜこの改定はこんなにも大規模で、そして完全に下方へのものであったのだろうか?BLSの関係者が説明するところによると、JOLTS*2はサンプリングフレームのデータからサンプルを集めるのだが、事業所(establishments)がそのサンプルに入るまでに1年のラグがあるのだという。そのため、初年度の企業からはそれらがサンプリングフレームに含まれていないためにサンプルをとることができない。そして雇用などの多くの職関係の変化が起こるのがその初年度であるため、BLSにとってその数字を推計する事が重要となるのである。
これを補うためにBLSのJOLTSチームは2009年に、雇用関連の数字の集計を補助するための(ビジネスの事業所の誕生と死の)birth/deathモデルを作った。このモデルはビジネスのその初年度における雇用と離脱を予測するものだ。これは2009年にBLSの数字に挿入されたが、2000年から2007年までの数値をモデルのために利用していた。そしてそれ以降の数値の予測に使われたのだが、2000年から2007年の数値に基づいたカリブレーションは2008年以降に起こったもののような深刻な不況を取り込んでいなかったため、birth/deathモデルに高い数字へ向けたバイアスをかけていたのだった。
つまりbirthモデルには不況からのデータが含まれていなかった。このモデルは2010年にはアップデートされなかった。2011年3月に、当時利用可能であった2008年−2009年の不況からの追加データと共にこのbirth/deathモデルがアップデートされた。以前は、2007年までのデータに基づいた将来推計が用いられていたが、今では2009年までのデータに基づいた将来推計が用いられている。
今ではbirthモデルは今回の不況の影響を考慮に入れている。そのことからの変化は明白に劇的なものであって、過去のデータの修正を行うと2009年から2010年のすべての率を引き下げてしまった。それ以前の7年間と比べて、2007年の失業率はより高く、経済活動はより落ち込んでいたため、以前の推計はあまりに楽観的であったのだ。そのために求人率は下方に修正されることになった。
図2がしめすように、これはベバレッジ曲線と呼ばれる経済モデルについて重要な影響を及ぼすことになった。不況とそれに続く時期におけるその曲線を下方にシフトさせたのだ。

図2
赤は修正前。青は修正後。拡大版

この下方修正は構造的失業について何を意味するか?
この下方シフトが構造的失業の増加に関する推計をどれほど変えるかについては推計するために、私はJOLTSの2001年から2009年までのデータを使ってベバレッジ曲線の簡単な回帰を行ってみた(図3を参照)。2009年については、私は修正されたものと修正されていないデータの平均を用いた*3というストーリーは正当化がより難しくなった。そしてさらなる行動への主張は強まったわけである。

*1:実際のデータを利用したシミュレーションってことでいいと思います。

*2:Job Openings and Labor TurnoverSurvey。

*3:なぜ?)) 図3 [f:id:okemos:20110512184216j:image] 青:2001年から2009年、緑:2010年修正済、赤:2010年修正前 [http://rortybomb.files.wordpress.com/2011/05/shiftdown.jpg:title=拡大版] それから、2010年の数値について失業率の曲線がどれほど外側へ動いたかを予測してみた。例を示してみよう。2010年10月、失業率は9.7%だった。修正前の求人率は2.5で、これは失業率6.29%に対応していた。修正された求人率は2.2で、これは失業率7.25%に対応していた。修正された求人率に基づくと、失業率曲線のシフトは小さくなる。 [http://www.frbsf.org/publications/economics/papers/2011/wp11-05bk.pdf:title=サンフランシスコ連銀は]「この初期のうちの自然率の信頼できる推定はベバリッジ曲線の水平方向へのシフトの半分ほど変化したようである」と述べている。この簡単な計算に基づくと、修正されていない求人を使った場合、自然失業率の推定は1.3%の上昇になる。これは他の推定と同水準である。サンフランシスコ連銀も同様の値を推計しており、この上昇は主に一時的なものであると推定している。9%の失業率の下、これは多くの循環的失業があることを意味している。 修正された求人データを使うと、自然失業率の上昇の推定値は1%に下がる。これは、修正された数字をつかうと自然失業率の推定値は0.30%下がるということを意味する。 2010年夏以降、何が起こったか? 政策決定者たちは構造的失業が景気回復を押さえ込んでしまうのではないかと心配するようになっている。そうなると、失業率は高止まりし続けている中、求人が上昇し続けることになってしまう。 求人データの修正されたものでも修正されていないものでも、求人は2010年4月にピークを迎えている。それ以降、曲線になにが起こっただろうか?図4は過去2年においてこの曲線に何が起こったかを示している(修正データを利用している)。 図4 [f:id:okemos:20110512184217j:image] [http://rortybomb.files.wordpress.com/2011/05/curve_shifting.jpg:title=拡大版] 求人率には実質的に上昇がないまま失業率は直線的に低下した。存在している職の数は変わらないまま、失業率がまるまる1%ポイント低下したのだ。失業率の低下は求人率の大きな上昇を伴うのではないかと心配していた人たちは、その心配を低い求人成長率に向けるべきだろう。 政策決定者や専門家たちが利用する数字は改定の対象となっている。そして、どんな景気回復においてもその鍵となる要素である求人は、構造的失業についての議論が始まった2010年において誰の予想よりもずっと低い数値であった事が判明した。 これ以前から、経済には多大な遊休資源(slack)があり、金融・財政拡張策の余地があることをしめす多くの証拠があった。今回の修正により、弱々しい求人側にではなく弱々しい求職者たちによって景気が停滞させられている((構造的失業は職と求職者のミスマッチを意味するので、構造的失業なら求職者側の能力が"weak"で問題があるとなる。