P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

自己成就的ユーロ危機?(ちょっと専門的) 

イタリアの債務危機問題についてのクルーグマンのブログポストを訳してみました。
もし誤字脱字・訳し間違いなどがありましたら、コメント欄にお願いします。 
自己成就的ユーロ危機?(ちょっと専門的) ポール・クルーグマン 2011年8月7日
 
おそらく明日にはユーロ圏において大きなアクションがあるだろう。よって、簡単な分析を少しばかりしておく。
大きな問題は、イタリア、そして多分スペインの危機を欧州中央銀行による債権購入でコントロール下におくことができるかどうか、なのだろうと考えている。これはこれらの国々の流動性、あるいは支払能力の問題として語られることがよくあるが、私はオブストフェルド風の自己成就危機の可能性を考えた方が良いと思う。(オブストフェルドは固定相場制においての平価切下げを考えていたが、そのロジックは単一通貨圏内での債務不履行にも使うことができる)。
ギリシャのケース、そしておそらくはアイルランドやポルトガルについても、私は根本的な支払い能力が露呈してるのだと考えている。それらの債務は単純にあまりにも大きく、たとえ利子率が低くても、完全な返済を実現するのに必要とされる財政調整は単純に大きすぎるのだ。
イタリアのケースだと、債務は大きいがしかしプライマリーの予算は黒字となっている。なので、債務不履行が予測されない場合ならそうなるように、もし利子率が低いままならば、さらなる若干の財政調整によってその債務を返済することは難しくはないだろう。
しかし、債務不履行が予測されれば、そしてまたもしある国が債務不履行の固定費用を甘受するのなら、債権者にも担保価値の削減という費用(haircut)が押し付けられるだろうと考えられているのなら、利子費用は債務不履行が実際に望まれる選択肢になるところまで上昇することになる。
つまり、イタリアについて我々が見ているのは、債務不履行への恐れがまさにその債務不履行を引き起こすという自己成就的危機のまさに起ころうとしているところなのだ。そして、これはまさしく市場介入によって危機を回避することができるケースである。低利子率を確実にするところまで欧州中銀に大量のイタリア債権を買わさしめよ。さすれば債務不履行の可能性は消えてゆく。これによって更なる市場介入は必要なくなる。絶対にやってみる価値はあることだ。
できる間に、もうすこし書いておこう:イタリアと同じレベルの債務を持つが、独自の通貨、そして債務はその独自の通貨において発行されている国は、同様の危機には見舞われないだろう。その場合の誘惑は債務不履行ではなくてインフレである。そして、インフレーションには債務不履行が持つような"first bite of the cherry"の側面、つまりなんらかの対策をとろうとしたら、50%かそこらの担保価値の削減を債権者がこうむるといったことが起こらない*1。この事は、独自の通貨をもつ国は、今イタリアを襲っていると思われる自己成就のパニックのようなものに見舞われることはないということを意味するものと思われる。その他の関係者にとってのこの事の意味は、読者への練習問題としておこう。

追記: そら来た(Calculated Risk経由)。これは(訳者注:上に述べられたような市場介入をおこなうという)確認だと思うが、ユーロスピークはあまりにわかりにくく、私も彼らが何を言っているのか完全には理解できない。しかし、上の議論からおそらく理解できたように、私はこれに賛成である。それとも、私も同様に理解不能だっただろうか?とにかくこれはリスキーではあるが、しかし行動をしない事は確実に致命的なのだ。

*1:ここで言っているのは、債務不履行を予測した債権者による行動によって債務不履行が起こってしまう、という事がないということだろう。