P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

経済学者達も同意できる!(そう仮定すればな!)

(@emigrlさんからの指摘を受けて、注を修正)
 
NPRの経済専門ブログPlanet Moneyが架空の大統領候補の為の経済政策として、左から右まで揃った5人の経済学者達全員が同意する5つの経済政策と1つの刑法の変更の合計6つをまとめて、放送しました。以下がその6つです。
 
1.不動産の税控除を廃止。
2.従業員に雇用者が提供する健康保険費用の控除を廃止。
3.法人税の廃止。
4.すべての所得税と給与税の廃止。変わりに累進性を守るようにデザインした消費税を導入。
5.2酸化炭素の排出に課税。
6.マリファナの合法化。
 
さて、この6つが左から右までの経済学者達が同意する、架空の大統領候補の為の6つの提案とのことなんですが、Planet Moneyはこの6つの提案、経済学者達は同意しても、架空のも実際のもどんな大統領候補もこの6つを採用はしないだろうと言っています。まあそれは当然で、右の人たちは税の廃止には賛成でしょうが、消費税や炭素税には大反対でしょう。左の人は炭素税やマリファナ合法化には(まあ)賛成する(かも)しれませんが、税の廃止はどうなのか。そして、控除の廃止は右も左も反対するんじゃないですかねぇ?
ただ、一つ疑問が。ほんとに経済学者達も同意しているんでしょうか?確かに経済学者なら同意するかなと思えるものが並んではいますが、左から右まで誰もが同意するとは思えない。うーん、リバタリアンの経済学者なら同意しそうではありますが、ただそれも累進的な消費税を受け入れるかな?という疑問が。ましてリベラルな経済学者がこれらに完全に同意するとは思えないところです。正直、この提案はかなりリバタリアンよりの感じです。放送後、Planet Moneyのブログでこの6つがポストされた時、最初、4の消費税の部分が書かれていなかったりしたので更にです。
するとやはり、誰もが完全に同意しているわけではありませんでした。この6つの提案作成に加わったリベラル経済学者のひとり、デーン・ベーカーがそんなに完全に同意しているわけじゃないよというメールをPlanet Moneyに送ってきました。以下はそのメールからの抜粋です。
 
2の健康保険控除の廃止について:
「まず第一に、雇用者が提供する健康保険の控除は理屈の上では意味をなさないという考えには完全に同意する。しかしこの控除には歴史的な根拠があって、その変更は容易ではないんだ」
「まともな経済学者なら誰でも賃金と付加給付の間にはトレードオフがあるものと考えるが、このトレードオフが1対1ですぐさま起こるとは限らない。だから労働者の交渉力が弱い現状で健康保険の控除を廃止すれば、労働者への支払いのネットでの減少となってしまうのではないかと心配している」
「またパネルの一部メンバーが表明した、過剰な健康保険への補助から健康保険の過剰消費へという懸念を私は共有していない」*1
「つまり、雇用者から労働者へ健康保険の提供をやめさせるのにいい考えだと思っているが、それをどう行うのかについてはとても慎重であるべきだ。現実の世界では、控除の廃止は下手をすると利益よりも害をもたらしかねない」
 
3の法人税廃止について:
「また、法人税の廃止についても現実世界というやつが邪魔をしてくる」
(目的は富裕層への課税なので、法人税の廃止には理屈の上では賛成だが)「しかし現実的には、法人税の廃止を補えるだけの所得税の引き上げの可能性はありそうに思われない。たとえば、もし所得25万ドル以上の税率は45%、100万ドル以上は60%にできるなら、廃止した法人税をだいたい補うことはできるが、こんなレベルの税率を大統領選の公約に含めるものは誰もいないだろう」
 
4の所得税・給与税の廃止と消費税かについて:
消費税や給与税を廃止して消費税に移行するのなら、人々の資産のレベルについて知らなければならない。富裕層の資産を調べるのは相当難しいものになる。
 
そのほか色々。という事で、理屈の上では経済学者達も同意できるはずなんですが、この現実世界というやつが色々と邪魔をしてくるのでした。

*1:アメリカでは、健康保険が高すぎて入れない人がいるのは、健康保険が補助などによって安すぎて、保険が多すぎるからだ医療の過剰消費が起こっているという意見があるのです(@emigrlさんの指摘を受けて修正)。