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P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

フィルバスターとは議事妨害と訳したり!

オバマ政権の2期目もすでに一年以上が経ちました。アメリカ大統領の2期目というと、必ず出てくるのが「レームダック」という言葉であり、大統領の指導力のなさが言われます。たとえばファイナンシャルタイムズのこの記事のように。特にオバマの場合、1期目の最大の政治的業績である医療保険改革の法案、Affordable Care Actの為に2期の1年目にスタートしたオンライン上での医療保険購入サイトがオープン当時まともに動かない*1という問題があったりして、2期目は最初から躓いてしまいましたし。
しかし最近、潮目を変えてくれそうな事が「核」絡みで二つありました。

一つはイランとの核開発についての合意であり、もう一つがその合意の数日前のアメリカ時間11月21日のアメリカ連邦上院での「核オプション」の行使です。この「核オプション」とは、近年のアメリカ政治をマヒ状態に陥らせていたフィルバスター*2を無効化する為の議会規則の変更の事です。このフィルバスターとは、法案や大統領による指名人事について、投票の前の段階で投票へ移ることを妨害する目的で議場において演説を続けることです。自主的に発言を止めない場合、強制的に止めさせないと投票に移れません。下院には昔から演説を途中で止めさせる為の規則がありましたが、上院にもかつてはあったののに19世紀はじめに行われた上院の規則変更の中でいったん削除されてしまいました。その結果、意図せざるうちに生み出されたのがこのフィルバスターでした。というわけで、最初は誰にも気づかれないボッチな子だったのですが、やがて少数派政党による多数派政党への抵抗を可能にするその才能が知られるようになり、利用されだしました。1939年の有名な「スミス都へ行く」では主人公のスミスがこのフィルバスターを利用して腐敗した政治家たちに抵抗しています。

Mr. Smith Goes to Washington-Filibuster - YouTube
「腐敗した政治家たちに抵抗」というのはカッコいいですが、現実には腐敗した政治家たちも政治改革への抵抗にフィルバスターを利用したりもしますから、フィルバスター自体は良いものではありません。その為、このフィルバスターを止めさせる為の規則が結局また作られ、そしてこれまで何度がその規則が改定されてきました。今回の「核オプション」もその改定ではあります。具体的には、大統領による指名人事の承認投票を妨害していたフィルバスターを打ち切らせる動議の可決に必要な票数を、最高裁判事の指名人事を除いて、これまでの60票から51票に変更したというものです。政府要職や連邦裁判所の判事などは大統領が指名し議会が承認をしますが、上院の議員数は100人ですから、今回の改定はこれまで3分の2近くの票が必要だったのを単純過半数の投票にしたことになります。現在、民主党は上院で55議席*3を持っている多数派政党ですが、60には足りていませんので、以前は共和党が大統領指名人事について実質的に拒否権をもっているわけでした。今後は、過半数をすでに持つ多数派政党からすると最高裁判事以外の大統領指名人事についてフィルバスターが無くなったのと同じ事になります。

今回は民主党が大統領かつ上院多数党であったので、民主党がフィルバスター無効化の核オプションを使いましたが、フィルバスター無効化自体はずっと以前から議論されてきた事でした。実のところ、与党かつ多数派であった党はいつも無効化を図りたい誘惑を感じていたはずです。実際、フィルバスター無効化に「核オプション」という名前を2003年に与えたのは共和党の議員でした。しかし、有為転変は世の習いであって、政治もその習いから逃げられません。今日の多数党も明日には少数党になるかも知れず*4、現在の少数派政党にとっては勿論、現在の多数派政党にとっても少数派に転落した時の保険としてフィルバスターは維持しておきたいものでした。なのでこれまでは少数派政党がフィルバスターを多用して多数派政党にフラストレーションがたまりフィルバスター廃止の機運が高まっても、結局なんとか両党間での妥協が成立してフィルバスターは維持されてきました。

にもかかわらず、今回ついに「核オプション」が使われたのは、これまでなんとかだましだまし行われてきたフィルバスターとその妥協がついに限界に来たことがあります。
f:id:okemos:20131127145635j:plain (ソース)
この図はフィルバスターを止めさせる為に出された動議の数(青)、動議についての投票が行われた回数(赤)、そして投票の結果フィルバスターが止められた回数(緑)です。フィルバスターそのもののデータがないのでその代りのものなのですが、それでもこの図から1960年代まではフィルバスターの利用はあまりなかったが70年代以降、増加傾向になった事がわかります。この70年代からの増加傾向の理由としては、70年代以降の、民主・共和両党の党内イデオロギーの純化が言われています。
f:id:okemos:20111222181007j:plain (Wonkbook)
この三つの図は、60年代、80年代、そして2000年代のアメリカ議会での民主党(青)と共和党(赤)の議員たちのイデオロギー分布を示したものです。民主党が左で共和党が右なのは昔から変わりませんが、60年代には2党の間でイデオロギーのオーバーラップがあったのに、2000年代ではほとんどなくなってしまっています。この為、昔ならあり得た事前の妥協による解決がなくなった上に、またフィルバスターを止めさせる為の60票の確保がドンドン難しくなっていったことでフィルバスターの有効性が高まっていって、多用されるようになったと思われます。
 
またそれ以外の傾向として、増加傾向の中でも民主党政権が始まると数が跳ね上がる事などが見て取れます*5。今回のフィルバスター無効化の対象である大統領指名人事について、フィルバスターによって投票を妨害された数を大統領ごとにまとめた次の図を見るとこの点がよりはっきりします。
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こういった党内イデオロギーの純化と両党間の対立激化によってフィルバスターが多用されるようになってきたのですが、それも今回、ついにその重みに多数政党側が耐えられなくって、フィルバスターが無効化されることになったわけです(最高裁判事以外の大統領指名人事についてですが)。
 
で、これからどうなるかですが、今回のフィルバスター無効化は最高裁判事以外の大統領指名人事についてなので、法案については変化はないはずです。指名人事に限ったとはいえ「核オプション」が使われた以上、これが法案についても使われるようになり、やがてフィルバスターが完全に無効化される事になるだろうと予想されていますし、実際、共和党は報復として自分たちが多数派になったらフィルバスターを完全になくすとかいっています。というわけでフィルバスターの完全廃止が予想されていますが、共和党が下院で多数を占める今の時点では、フィルバスターがあろうがなかろうが法案については結局なにも変わりようがありません。

しかし、空席になっている政府要職と連邦裁判所の判事についてはこれから順次、埋められていくはずで、こちらは大きなインパクトがありえます。連邦準備銀行の議長や住宅・金融行政の担当官庁のトップの任命がこれからありますが、これらについてオバマが共和党からの妨害を心配したり、妨害を乗り込めるための保守派寄りの選択をする必要がなくなります。また、連邦判事は現在、民主党指名の判事が391名、共和党指名判事が390名と拮抗していますが、空席が93で、さらに18人の判事が近い将来に引退する事になっています。民主党指名判事、共和党指名判事は当然ながらイデオロギー的な違いがありますので、政府要職とは違って任期の期限のないこれらの判事の空席を民主党側が埋めてしまえば将来的にはアメリカの判決のイデオロギー傾向を大きく変えることになりそうです*6。とくに、連邦政府を訴える場合に訴訟が起こされる事が多いワシントン D.C.の連邦巡回区控訴裁判所へのオバマの指名は影響が大きいと見られています。

*1:現状はかなり改善してきていて、保険購入者が増えてきているそうです。http://goo.gl/lqDN1S

*2:スペルは"Filibuster"で、日本では[http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702304152804579212662334856396.html:title=フィリバスター]と訳されてるみたいですが、発音聞く限りどうもフィ「ル」バスターと聞こえるので、「ル」で行きます。

*3:民主党と協調している無所属議員を含む。

*4:実際、90年代半ばから上院で多数党だった共和党は、2006年の中間選挙で敗北して少数派政党になってしまいました。

*5:折れ線の最後が3本とも下降しているのは、最後のデータが現在、まだ会期終了となっていない2013-2014年年度のものだからです。

*6:「将来的には」というのは、レーガンに指名された保守的な判事が現在シニアポジションにいる事がおおいので、後から入ってきた新人判事の数が多くてもそれだけでも短期的には傾向が大きくは変わらなかったりするかもしれないからです。