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P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

経済学者のためのSF

SF 経済学

なぜだか最近、SF小説お勧めリストがはてなブックマークをにぎわしてます。
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なぜ??とか思っていたら、これがシンクロニシティというやつなのかクルーグマンがノア・スミス氏のブログポストに影響されて、経済学者のためのSF小説をいくつか紹介してました。なのでそれを翻訳、ではなくてそもそものノア・スミス氏の方のポストを訳してみました。
 
経済学者のためのSF ノア・オピニオン 2013年5月11日
Diane Coyleが「経済学者のための古典作品」と題したブログポストを挙げたところ、ツイッターで誰かが私に「経済学者のためのSF」を書けと言ってきた。ということで書いてみた。
実のところ、ほとんどのSFは経済学についてのものだ。たいていの未来についてのビジョンでおもしろいのは、新しくカッコいい何かについての技術的なことじゃなくて、その社会的な影響だ。ということで重要な経済的問題について非常に洞察深くかつ興味深い観点で取りくんでいると私が思うSF小説の一部を取り上げてみた。よく出来た人物、面白いプロット、そしてうまい文章のよく出来た本だと思うものだけを選んでいる。
  
 
1.「最果ての銀河船団」、ヴァーナー・ヴィンジ (1999)

私がこれまで読んだ中で多分一番のSFだというのに加えて、「最果ての銀河船団」はまた公共経済学についての優れた思索でもある。ヴァーナー・ヴィンジが80年代に有名になった時、彼はハードコアなリバータリアンだった。彼のThe Peace Warとその続編である短編"The Ungoverned"はリアルビジネスサイクルモデルが現実になったような作品で、一匹狼の天才エンジニアが民間の警察力と共同してファシスト・テクノクラットな政府を倒すのだが...その政府というのが大学の教員から構成されているという。やれやれ。しかし90年代になると、政府と市場についてのヴィンジの認識は明らかにずっとニュアンスに富んだものになってきて、スリルと冒険のスペースオペラ「遠き神々の炎」では、私的な力による安全保障が外部からの強力な脅威によって無残に崩壊する(実際、私が"Tamerlane Principle"について考えたのはこの本のおかげだ)。安全の保障は、ヴィンジが理解したように、公共財なのだ。
「最果ての銀河船団」では、ヴィンジは別の公共財を付け加えている。研究だ。「最果ての銀河船団」の話は、大体20世紀くらいの技術をもつ蜘蛛族と、チェンホーと呼ばれる人類の宇宙航行の商人ギルドに分かれている。蜘蛛たちの惑星での主人公は、シャケナー・アンダーヒルという名前の聡明な科学者。彼は基本的にフォン・ノイマンファインマンのタイプだ。シャケナーは究極レベルの孤独な天才なのだが、彼の研究の資金を得るために政府が必要ということになる。一方、宇宙では、ヒロイックな商人アントレプレナー、ファム・ヌウェン(ヴィンジの小説で何度も出てくる主人公だ)が、彼の船団を恒星系間政府へと変化させるべきかどうかに悩む。彼が見出したことは、政府は本当に新しい科学的な発見を生み出すのに優れているが、しかし結局は手におえないものになり、経済と社会を窒息させて、そして自身の制度の重みによって崩壊する。本の最後の最後は、Great Stagnation*1とビッグ・サイエンスの死(と将来の再生)のメタファーになっている。少なくとも私にはそう思えるのだ。
 
2. Makersコリイ・ドクトロウ (2009)

コリイ・ドクトロウはそのSFと、インターネットの最も古くかつ最良のブログの一つBoing Boingを作ったことの両方で知られている。Makersでは、ドクトロウはその予言者的なビジョンにおいてほとんど怖いくらいの近未来を作り上げている。この本はその全てが経済学や、大企業の死、フリーランスとテンプ経済の勃興、古いメディアの死とブログの勃興、そしてテクノロジーが人々の雇用に持つ破壊的なインパクトについてのものだ。3Dプリンティングの興隆、スタートアップ狂想曲(そしてスタートアップ過剰)、それから進歩に抗う武器として大企業に使われる知的財産権などについて考察している。とてもうまく書かれているが、しかし警告しておくと非常に悲しい本でもある。
 
3.「所有せざる人々」、アーシュラ・K・ル・グィン (1974)

私的所有のない世界を想像するのは信じがたいほど難しいが、しかしル・グィンはやってのけている。ネタバレ:所有のない世界は非常に退屈でかなり貧しい。しかしル・グィンはまた違った世界も見せてくれる。我々のものにとても良く似たその世界では、反所有の無政府相互扶助運動が抑圧され、飼いならされている。ちょうどここ地球においてマルクス主義が抑圧され飼いならされているように。興味深いのは、無政府相互扶助主義はそれが試された世界で非常にうまく行ってはいないのに、無政府相互扶助の理想と運動は資本主義世界においてある種の恒久的な反対勢力として機能しているということだ。Robert M.Buckleyが地球の西洋においてマルクス主義が同様の役割を担っていると書いているのを読んだとき、私は即座に「所有せざる人々」を思い出した。
 
4. マジック・キングダムで落ちぶれてコリイ・ドクトロウ (2003)

またドクトロウだ。この本では、彼は本当に「希少性が無くなった」後の社会がどんなものになるのかを考察している。ネタバレ:皮肉屋でボヘミアンなカナダ人の集団にそれはよく似ている。しかし基本的には、私は未来の姿はたぶんそういうものになるだろうと思っている。すくなくとも我々が幸運なら。とにかくこの本の注目点は"whuffie"のコンセプトだ。これは相互承認に基づいたオンライン通貨であって、おそらくFacebookの「いいね」ボタンのネタ元になったものだ。
 
5.レインボーズ・エンド、ヴァーナー・ヴィンジ (2006)

ヴィンジ再び。レインボーズ・エンドは老年と陳腐化についての悲しく、思慮に富む小説だ(タイトルにアポストロフィがないのに注意*2)しかしこれは将来の労働市場についてのもっと先見的な小説の一つでもある。スキルがフレッシュであることは長くなく、大半の価値がエンターテイメントによって作られるインターコネクテッドの世界においては、老年のエンジニアは高校に戻らなければならず、新しい企業が世界の反対側にいるそれぞれ見知らぬ10代同士のオンライン上の協同によってスタートする。レインボーズ・エンドはまた拡張現実技術についてのヴィジョンでも有名だ。この小説はたぶんグーグル・グラスに影響を与えている。興味深い事に、ヴィンジは公共財についてのバランスの取れた見方へ向けての彼の進化を続けており、政府が提供する必要のあるもののリストに教育を付け加えている。
 
6 アッチェレランドチャールズ・ストロス (2005)

これまた著名なブロガーでもあるチャールズ・ストロスはアイデアと遊ぶのを愛している。たとえ彼自身が信じていないようなアイデアでもだ。「アッチェレランド」では、彼は主にシンギュラリティのアイデアと遊んでいる。しかし彼はまた多くのイカレタおかしな未来の経済学とも遊んでいる。あるパートでは、主要人物である指揮者にして彷徨えるアントレプレナー、マンフレッド・マックスは進歩したコンピュータアルゴリズムを使い、人々が何を求めるかを彼ら自身がその事に気づく前に予測することで、最適化された中央計画経済を成功裏に実現する。マックスの幾多の破壊的なイノベーションは必然的に法の怒りを買うので、彼は各国政府や企業などとの常時の法廷闘争を闘っていくためのAIの弁護士たちによる保護クラウドを作りだす。この本の別のパートでは、全太陽系が知性のあるHigh-Frequency Tradingアルゴリズム*3。こう書いているが、私はまだこの本を本当にはネタバレしていない。こんなのはまだ中に込められたアイデアの0.1%ほどでしかないからだ。
ノート:ストロスは経済学とさらに関わったMerchant Princesと呼ばれるシリーズを書いているが、そっちはまだ読んでいないんだ。
 
7. 悪魔のハンマーラリー・ニーヴン&ジェリー・パーネル (1977)

「悪魔のハンマー」は彗星の地球への衝突とその後の話だ。その古めかしいレーガン流保守政治(発表は1977年だ)が特徴で、いくつか派手な経済的な間違いも犯している(たとえば、原子力発電所を作ろうとするのが独立独歩の起業家であって、政府に支援された大企業ではないとか)。しかしそれらは急激な文明崩壊直後の経済がどういったものになるかについての優れた描写で埋め合わされている。ヒント:農業、伝染病の抑制、労働の非分業化、そして集団での治安維持が非常に非常に重要となる。
 
8.ねじまき少女、パオロ・ガチバルビ (2009)

残酷なほど暗くて、希望がない。「ねじまき少女」は石油産出の減少、世界的な文明衰退、そしてポジティブ・サム経済の(一時的な)終了についての本だ。急激に人口が過剰になった世界で、人間たちは恒常的なホッブス的ゼロサムゲームへと追い込まれてしまう。しかしこれは、現代技術の揺らめくロウソクの光のすぐ外に潜むマルサス的脅威を思い出させてくれる大切な役目を果たしてくれる。
 
9.月は無慈悲な夜の女王、ロバート・ハインライン (1966)

実のところ、アメリカ独立革命の神話的な語り直しだ。「月は無慈悲な夜の女王」は植民地主義、そして資源の呪いについてのとても興味深い考えをいくつか含んでいる。驚くようなことではないが、支配勢力にたいして資源植民地主義を高くつきすぎるものにする一手段としてテロリズムが使われる。不運なことに、月の独立の後に起こるだろう政治的闘争や専制的な体制を目にすることはできない。しかしハインラインはこの本でいくつかの興味深いリバータリアンアイデア、たとえば民営化された法廷システムなどを取り扱っている。
 
10.スキズマトリクスブルース・スターリング (1985)

はっきり言って、これまで書かれた中で最も視野が広くかつヴィジョンに富んだSF小説のうちの一冊だ。ブルース・スターリングは永遠に噴出し続ける創造性のクエーサーみたいなもので、そしてこれが彼のもっとも優れた本だ。中に出てくる経済学はどれも意味をなさないのだが、より正確にはその全てがあまりにもファンキーで狂った未来の世界の中でのものなので、意味を成すのかどうか知りようもないとなる。
 
11.順列都市グレッグ・イーガン (1994)

もし「いっちゃってて脳髄が頭蓋骨から飛び出してしまう」ようなビジョンにおいてスキズマトリクスを破るSFがあるならば、それは「順列都市」だ。もし私がD-Mod(願望修正技術)のアイデアをすでに得ていなかったとしても、この本が(私がそのコンセプトを思いついた十年以上前に書かれている)それを完全な形で与えてくれただろう。「順列都市」は人間の意識と経験の究極の性質と目的についてのものだ。けれど今現在、我々が話しているこの時に開発されている技術への含意も持っている。
 
12.Reamde、ニール・スティヴンスン (2011)

スティーヴンスンとなるとほとんどの人はスノウ・クラッシュクリプトノミコンを挙げるだろうが、経済学については私はReamdeが一番好きだ。テクニカルにはSFではないが、その香りはある。ヒーローはWorld of WarcraftとBitcoin(そう、この本はBitcoinを予言していたのだ)を混ぜたようなゲームを所有している年老いたテクノロジー系アントレプレナーだ。この本は、ロシアの犯罪者の経済的インセンティブ、中国とハンガリーの優れた若いテクノロジー労働者たちが直面するチャレンジ、そして今日の世界経済のその他多くのクールな要素などにも関わっている。とはいえ、スティーヴンスンのナンバー1に凄い本というわけではない。それならAnathemとなる。
 
13.Game of Ghronesシリーズジョージ・R・R・マーティン (1996- )
実は、私は嘘をついた...「経済学者のためのSF」リストを求めてきた人はファンタジーも含めるようにも頼んでいたのだ。しかしGame of Thronesの本(実のところ氷と炎の歌シリーズと呼ばれるものなのだが、その名を使う者はもう僅かだ)が実のところ、何か興味ぶかい点で経済学と関わるファンタジー小説として唯一思いつくものだった。封建制、奴隷制、アナーキー、血まみれのスポーツ、そして不確かな情報と信用できない輸送による国際貿易の難しさなどなど、中世のさまざまな失敗した経済を目にすることができる。
 
 
さて、これが私のリストだ。出版されている全ての作品を読んでいるわけでは、当然ない。たとえばケン・マクラウドの本には経済学が良く出てくると聞くし、またハインラインの他の作品のいくつかもそうだという。しかしもしあなたが経済学学徒で、異なる技術と社会条件の下での経済学についての深く考えてみたいなら、この本たちがお勧めだ。面白いしね。

*1:別に説明はないのだが、おそらくはタイラー・コーエンの[http://www.amazon.co.jp/dp/4757122802:title=大停滞]を指しているのではないかと。

*2:タイトルはRainbows Endで、Rainbow's Endではない。

*3:サーセン!読んでないので、これがなんと訳されているのかわかりません。一応、図書館へ訳語の確認しに行ったんですが、どこに出てくる言葉なんだか分からなくて...