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P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

クルーグマン:中国、壁にぶつかる

クルーグマン 中国

またクルーグマンの翻訳です。今回はクルーグマンが中国経済の問題について書いてたので、訳してみました。クルーグマンは中国については以前から色々と批判的な事をかいてますが、中国の景気悪化について書いたのは初めてじゃないですかね?
クルーグマンは90年代に東アジア金融危機が起こる前に、東アジア経済の経済成長鈍化の可能性についてのエッセイを書いた事がありましたが、今回はどうなりますかね。
誤訳・タイポ等ありましたら、コメント欄によろしくお願いします。
 
 
中国、壁にぶつかる 2013年7月18日
経済データなんてものは、その全てが奇妙なつまらなさを持ったSFの一ジャンルとみるのが良いようなものなのだが、しかし中国のデータは大抵のものよりもさらにフィクションじみている。秘密主義の政府、統制された報道、そしてこの国のとんでもないサイズを加えると、中国で実際に何が起きているのか判断するのはその他の主要国についてよりもはるかに難しい。
しかし、今では間違えようのない兆候が出てきている。中国は大きな問題の中にいるようだ。ちょっとした停滞のようなことを言っているわけではない。ずっと本質的な何かについてだ。この国のビジネスのやり方、30年に渡る信じがたい成長を実現した経済システムが、その限界に達してしまったのだ。中国モデルがその万里の長城にぶつかりそうになってしまっているとも言えるだろう。唯一の疑問は、その衝突がどれほど酷いものになるのかついてだけだ。
データについてから始めよう。信用できないものではあるのだが。ほとんど全ての他国と比べて、中国について急速な成長以外ですぐに目につくのは、消費と投資の偏ったバランスだ。すべての上手くいっている経済は、その現在の所得の一部を消費ではなくて投資に費やす。将来の消費を行う能力を伸ばすためにだ。しかし中国は、さらに将来の投資を行う能力を伸ばす為だけに投資を行っているかのように見える。アメリカは。高い方によっている事は認めるところだが、消費にそのGDP70%を費やしている。中国では、その数字はそれの半分ほどしかないのに、GDPのおよそ半分が投資されているのだ。
こんなことがどうして可能だったりするのか?何が消費をこれほどまでに抑えているのか?そしてどうやって中国は(これまで)そのリターンが大きく落とさずにそれほどまでに投資し続ける事ができたのか?その答えは激しい論議の的である。しかし私がみるところもっともありそうな理由は、経済学者W・アーサー・ルイスによる古い洞察によるものだ。彼は経済発展の初期の段階にある国々は大抵、小さな近代的セクターと、大規模な「余剰労働力」、つまり経済全体の生産にはほとんど貢献しないような不完全雇用の農民を持つ大きな伝統的セクターをからなっていると論じた。
この余剰労働力の存在は、二つの効果を持つ。まず第一に、しばらくの間、そういった国々は新しい工場や建設、その他への大きな投資をリターンを下げることなく行う事ができる。なぜなら田舎から新しい労働力を呼び込み続ける事が出来るからだ。第二に、この余剰の予備軍からの競争によって経済が豊かになった後ですら賃金が低く抑えられることになる。実際、中国の消費を抑え込んでいる主要な要因は、中国の家計が自国の経済成長によって生み出されている所得の大半を目にすることがなかった事であるように思われる。そういう所得の一部は政治的なコネのあるエリート層に流れるが、しかし多くは単に、国営企業がその大半を占める財界の中に溜まりこんでいたようだ。
これらは全て、我々の基準で見れば非常に変わっている事だ。しかし数十年に渡って上手くいっていた。だがついに、中国も「ルイス・ポイント」にぶつかってしまった。簡単にいうと、余剰の農民が無くなったのだ。
これは良い事であるはずだ。賃金は上昇している。ついに、一般の中国人がその成長の果実を享受し始めているのだ。しかしこれはまた中国経済がいきなり、過激な「リバランシング」の必要に直面することになったことも意味する。流行りの言葉を使うとね。投資は今ではそのリターンが急速に低下するようになってきているし、政府が何をしようが激烈に落ちていくだろう。消費支出がその穴を埋めるように大きく伸びなければならない。問題は、酷い景気悪化を避けられるほど早くそれが起こるかどうかだ。
そしてその答えは、ノーであるようにだんだんと思われてきている。リバランシングの必要性は何年も明らかだった。しかし中国は必要な変化を後回しにし続け、その代りに通貨を減価して、そして低金利の貸し付けに浸すことでその経済を押し上げ続けていた(だれかが持ち出してくるだろうから答えておこう。ノーだ。これはアメリカでの連銀の政策とはまるで違うものだ)。こういった手段は審判の日を遅らせはした。しかし、それが訪れた時にはより酷いものになるのを確実にもしたのだ。そして今、それが訪れた。
この事は、外国の我々にとってどれほどの意味があるだろうか?世界経済の見通しにとって大切な為替レートでみて*1、中国経済はまだ日本より少しばかり大きいくらいで、合衆国やEUのサイズの半分ほどだ。なので、大きくはあるが巨大ではない。そして通常の場合なら、世界はおそらく中国の問題を苦もなくやり過ごせただろう。
残念ながら、今は通常の時ではない。中国がそのルイス・ポイントにぶつかっている時に、西洋諸国はその「ミンスキー・モーメント」、借りすぎた民間の負債者達みんなが同時に支出を抑えようとして不景気を引き起こす状態を経験している。中国の新しい苦悩なんて、外国の我々が全く必要としないものなのだ。
多くの読者が知的な鞭打ち症を感じていることだろう。ついこの間まで、我々は中国の事を心配していたのだから。今では中国の為に心配している。我々の状況が良くなったわけでもないのに。

*1:通常、経済規模の国際比較を行う場合、単純に市場の為替レートを使うのではなく、国民の消費レベルをより正しく反映するとみられる購買力平価などを使うが、ここでは中国からの経済的インパクトを知りたいので市場での為替レートを使っている。