P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

不平等の拡大と縮小: 先進国中産階級層の一人負け

新年あけましておめでとうございます。ここ数年、ろくに更新してませんが、本年はなんとか記事を書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

さて、ピケティ本の成功以来、所得・富の不平等についての議論が活発化しています。所得の不平等については以前から、国民の大多数の所得が上昇しない中でトップ層の所得だけが急上昇して不平等が拡大しているという指摘と、その認識は先進国だけを見ているからで、途上国のキャッチアップにより世界全体での所得不平等は縮小していっているという反論がありました。どっちもその通りだなと思うのですが、クルーグマンが新年一発目のブログ記事でその両方を一つにまとめた図を紹介していました。

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これは世銀のChristoph LaknerとBranko Milanovicの論文の図にクルーグマンが手を加えたもので、1988年から2008年の間の世界全体での所得分布階層ごとの所得上昇率を表しています(縦軸が所得上昇率、横軸が所得分布階層)。図の中に中国の中産階級と、アメリカ(US)の下層中流がXで示されています。日本の中産階級も同じくらいのところですかね。
この図から分かるのは、

  • 世界の所得階層のトップは1988年から2008年までの20年間、非常にうまくやってきた(The rich get richer)
  • 世界全体の中間層もまた上手くやってきた。実際、中国の中産階級層は世界トップよりも所得上昇率が高かった(世界全体での所得不平等の減少)
  • しかしその中で割りを食ったのが先進国の中産階級。下層中流のあたりなどは図に示されている世界の所得階層の中で、所得の伸びがもっとも低かった(先進国中産階級の一人負け)

先進国の中産階級の所得の伸びは低かったとはいえ、それでもプラスですから絶対的な貧困化が起こっているわけではないはずですし、あとよく言われるように技術進歩による恩恵を計測するのは難しいので実質所得の上昇は実際にはより高いのかもしれませんが*1、先進国の中産階級層の平均的な所得が僅かに上昇していたとしても雇用の不安定化や医療費の上昇(特にアメリカ)などで追いつめられた感が出てくるのは当然と言えば当然なのでしょう。

*1:その場合にはトップ層や世界中間層の実質所得上昇も更に高かった事になるので、先進国中産階級の一人負けは変わりませんけど。