『前田敦子の映画手帖』
元AKB48のセンターで、いまは女優である前田敦子によるアエラでの映画の感想の連載をまとめた書籍です。
- 作者: 前田敦子
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2015/04/20
- メディア: 単行本
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まっ、正直に言いまして、俺がAKBヲタになってしまったが故に購入して読み、さらにはこのブログ記事を書く気になった本であり、ぶっちゃけただの映画ヲタならわざわざ読まなきゃならないような内容の本ではありません。とはいえ、では全然ダメという事でもないわけです。少なくともそう感じるからこそ書いているわけですが。
この本を手に取ってみてちょっとビックリしたのが、出てくるタイトルの幅広さです。彼女が映画を積極的に観るようになったのが2012年の夏に「風と共に去りぬ」を観てからという事なのですが、それ以来多い時には1日に5作観ていたとか。その本数だと当然DVD/BDなわけで、実際DVD/BDのジャケ買いを良くするそうなのですが、映画館も今は無き新橋文化みたいな退職したおじいさんと仕事サボってる営業のおっちゃんぽい人しかいないような味わいのある(つまりボロな)映画館にまで足を運んでいたという情報が2013年に流れていて、結構大したものです*1。この本に出てくる作品タイトルだけで180くらいあり、そのほぼ全てを褒めてますが、世の映画の大半は褒められないものですから観たけど出していない作品が多数あるはずです。そしてその出てくる作品タイトルも、「アメイジング・スパイダーマン2」*2から「Once ダブリンの街角で」まで、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」から「喝采」まで、「隠し剣 鬼の爪」から「トガニ 幼き瞳の告発」まで、ハリウッド大作ばかりとか、過去の名作にこだわるとか、邦画だけとか、フランス映画の単館モノだけとか、そういう素人っぽかったりシネフィルっぽかったりする偏りがなく、ハリウッドのスーパーヒーローアクション大作からヨーロッパ映画、新作アクション物から過去の名作、邦画時代劇から韓国のシリアスな告発映画まで、ほんと観てる映画が多様で健全です。彼女が出演した「苦役列車」や「もらとりあむタマ子」
- 出版社/メーカー: キングレコード
- 発売日: 2014/06/25
- メディア: Blu-ray
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とか書いてますが、取り扱われる映画は映画評・感想本においては料理の具材であり、出てくる料理そのものではありません。そしてこの本の料理そのものは既に書いた通り、非常に薄口なわけです。ぶっちゃけ、映画評本として褒めやすい点がそんなにないわけです。でも、ダメではない。では、それをどう書いたら良いのだろうと思ってましたら、上手い事書いてる書評がありました。
「ミーハーかも知れませんが、例えばアカデミー賞の作品賞にノミネートされた作品をすべて見ていく、というのも私はありだと思っています。だって、絶対に外れがないから(笑)」と言い切る前田敦子は、女優になりたいという進路を選びながら、実にアイドル的な感覚で映画を論評し続ける。本稿は別にどこかからプロモーションを頼まれているわけでもないのだが、彼女のテキストを丁寧に読み進めていくと、その薄味が妙な中毒性を帯びてくるから面白い。時折、すっと入り込んでくる文章がある。テレビの世界では相変わらず、端的に人を攻撃する毒舌ブームだが、前田敦子の映画評って、その逆。つまり、「えっ、褒めるのにこの一言だけでいいの?」という「逆毒舌」で映画を讃えていく。詳しく語らない。その淡々さは斬新だ。
この後、「この本を、文章が稚拙と片付けたら負けだと思う」と題された段落に続いていくのですが、いやあ、流石に金貰ってるライターさんはなんとか考え出しますねぇ。実際、この本は映画ファン・ヲタが求めるような情報や、彼/彼女らを唸らせるような視点や文章はないので、普通に褒めようとするとすっからんな褒め言葉を並べるだけになりそうなんです。そんな気負ってる本じゃないわけなので。だけど、何度も書きますがじゃあダメかというとそういうわけでもないのが困ったところで。俺もAKBのヲタになったのが「あっちゃん」こと前田敦子のAKB卒業後の事なので、彼女に対してそれほど思い入れがあるわけではなかったのですが、ただそれでも彼女に対して興味をある程度は持つようになったのは、たとえば彼女主演作の「もらとりあむタマ子」での演技であったり、そして彼女の声がとても気持ちいいからであったりします*3。まあそれでも彼女のファンではないのですが。じゃあ、なぜわざわざこの本を評する為に頑張ってみようとしているのかというと、この本はあっちゃんの声の綺麗さに合った本であると感じたからなわけなのですよ!って、これだとほんとヲタヲタしい言い訳だなぁとは、はい、自分でも感じておりますです、はい。