"Rule Golden" (黄金律) デーモン・ナイト
デーモン・ナイトの1954年の傑作!だと思うのですが、残念ながらあまり有名ではない作品です。でも傑作なんですよ。
初読がいつだったか正確には思い出せませんが、とにかく90年代に古本屋で買った
- 作者: ジョー・ホールドマン,岡部宏之
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1979/08
- メディア: 文庫
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留学やらなんやらで何回も引っ越しをして本を整理してしまううちにこの本も手放してしまってたのですが、思い出す事がよくある作品でしたので今回改めて原文の方を読んでみました。
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なんかバカっぽい表紙ですが、中身はいたってシリアス。アメリカ中西部において暴力を振るったものがまるで自身に暴力を振るわれたかのような痛みに襲われるという現象、つまり「他者から望む行為を他者にせよ」という黄金律(Golden rule)の逆である「他者になした痛みが己に戻る」という黄金律をひっくり返した(Rule Golden)謎の症状が人間だけでなく動物にまで発生。その為に、犯罪者に発砲した警官は銃弾の痛みに襲われ、屠殺場では食肉の為の屠殺が出来なくなり、さら監獄の看守たちも人間を閉じ込める事による精神的苦痛から退職者が出る始末。ゆっくりと拡大を続けるこの「目には目を」によって引き起こされた暴力からの逃避により社会が崩れていく状況を背景に、地方の小新聞社の社主である主人公が米軍の秘密の研究らしきものに気づいて調査を始めたところ、米政府からその研究施設への招待を受けてというところから物語が始まり、そしてまったく新しい世界への扉が開かれたところで物語が終わります。
読んでいて小松左京の
- 作者: 小松左京
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2015/01/28
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作中で人類そしてある程度以上の知性をもった地球の生物全体が強制的な変化に直面してゆくのですが、正直、邦題が「黄金律」となっているこの作品は上でスターリンや毛沢東の名を出したことからも分かるように倫理的な作品には思えません。Golden ruleではなく、Rule Goldenなのはそのあたりの事をデーモン・ナイト自信が認識していたからというのもあるのでしょうか。「正しい事」を成す為の犠牲が正当化される、あるいは軽視される作品ですから。パワー・ファンタジーなどと揶揄される事もあるSFにおいてもこういう発想は基本的には否定される傾向にあると思いますし、アラン・ムーアの
WATCHMEN ウォッチメン(ケース付) (ShoPro Books)
- 作者: アラン・ムーア,デイブ・ギボンズ,石川裕人,秋友克也,沖恭一郎,海法紀光
- 出版社/メーカー: 小学館集英社プロダクション
- 発売日: 2009/02/28
- メディア: 単行本
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このRule Goldenにおける世界の変化もまさに「上からの」者たちである、まあ未読の方でも推測はもうついていると思いますので書きますが、宇宙人によってなされるわけですが、しかし作品の印象として嫌な感じがしません。それは主人公が最初はともかく基本的には巻き込まれ型であり、真相を知ってからも変化に関わっていかざる得ない立場にある事、そして「上から目線」の宇宙人も実はこの変化の為に大変なコストを支払っていることがあるからです。なので印象としては、冷静に考えれば膨大な命を奪っている酷い話なのに、主人公たち自身も膨大なコストの一部を支払っている事によって一見倫理的なように感じられます。経済学でいうところの清算主義っぽいというか。その仕組みによって上からの変化の押し付けの厭らしさを感じさせずに、大量虐殺に基づく苦難に満ちた楽園を読者に飲み込ませるこの作品は、踏み入れて良いのかどうか分からない領域に足を踏み入れる事を納得させている作品であり、故に何の悪意も込めずに傑作と言いたい作品なわけです。