P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

Oh My プレスコット!

DeLong経由でPaNDaGONから*1。このブログで、そのブログ主がUCバークレイにて遺伝子学を専攻する院生のLeonid Teytelmanから受け取った、その院生とリアル・ビジネス・サイクルの泰斗エドーワード・C・プレスコットとのメールのやり取りを載せたメールというのが紹介されていた。その院生さんはオバマ支持のサイトを立ち上げたので、色々な人からオバマ支持のコメントをもらおうとコンタクトを取ったらしい。そのうちの一人がプレスコットなわけだけど、そのプレスコットからの返事が、リアル・ビジネス・サイクルなんて作った奴はきっと保守派のこんな奴!って俺が想像していたものそのままだったので、ここにて紹介。以下の%%%で挟まれてるのが、そのメールのやり取り。

%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%
転送
件名:オバマの経済政策についての意見をお聞かせください

                                                              • -

From: Leonid Teytelman
日時: 2008年10月11日土曜日 午後12時

拝啓 プレスコット教授

二人の友達と私は、http://www.obamaforeconomy.comというウェッブサイトを始めました。先生のオバマ支持のお言葉を頂けたら幸いです。

このサイトを始めた理由は、マケイン支持者との多くの会話でした。多くの人達が、金持ちへの増税は経済をだめにするのではないかと心配してオバマへの投票を躊躇しています。自分自身の所得や譲渡所得(キャピタル・ゲイン)への増税を心配している人達もいます。このサイトの目的は裕福な支持者や専門家がオバマがアメリカ経済にとって正しい選択であると考える理由を明らかにすることで、彼の経済政策が階級闘争所得再分配のためのものではない事を示すことです。

敬具
Leonid Teytelman

                                                              • -

From: エドワード・プレスコット
日時:2008年10月11日土曜日 午後12時22分

なぜ西ヨーロッパはアメリカと比べて3分の1も貧しいのか?答えは彼らがオバマの提案している政策を実施しているからだ。これは確かな科学的発見なのだ。

財政学の全てのちゃんとした研究者は資本所得への課税が間違った政策であることを認めている。それは現在の消費と将来の消費との異時点間のトレード・オフを歪めるのだ。

腐敗した金持ちの弁護士とウォール街の銀行家達がオバマを支持している。オバマはそういう既得権益者達に奉仕しているのだ。これが大企業のCEO達が彼を支持し、人々がそうしない理由である。

エドワード・C・プレスコット

                                                              • -

From: Leonid Teytelman
日時:2008年10月11日土曜日、午後12時35分

拝啓教授

返信いただきまして、ありがとうございます。とてもはっきりとしたお言葉でした。

かつてはソビエト連邦に住んでいましたので、私には社会主義や共産主義に非常に強い嫌悪感があります。しかし、私にはオバマの提案が社会主義経済的なものにはとても見えません。基本的な社会基盤への投資がアメリカでは十分でないように思えますし、その事がブルームバーグや「エコノミスト」(訳注:この「エコノミスト」はイギリスの経済誌のThe Economistと思われるが、詳しくは不明)がオバマの社会基盤への提案を賞賛する理由だと考えます。医療部門の間接費用はアメリカ経済にとっての重大な問題ですし、オバマの医療関係の提案はそれを削減する正しい方向に向かっているように思えます。

ポピュリスト的な意見や保護主義はアメリカ政治の困った一面であります。オバマは多くの経済問題についてナンセンスな事を言ったり、その支持者層におもねったことを言っていると考えます(保護主義、バイオ燃料、その他)。その事はマケイン・オバマ双方が直面している、政治のどうしようもない現実でしょう。マケインは、かつては減税に反対していたのに、自分の党の為が故に減税政策(それに馬鹿げたガソリン税休日)から離れる事が出来ません。

私にとって後1つ重要な点は、イラク戦争へのマケインの早期の支持です。私にはこの戦争を支持していた政治家(バイデンを含む)への敬意はもう残っていません。

Best、(訳注:eメールや手紙の閉めの文句なんだけど、どう訳したらいいのか...)

Leonid

                                                              • -

From: エドワード・プレスコット
日時:2008年10月11日土曜日 午後1時53分

社会基盤への投資は地元や州のレベルで行われるのが一番良い。陸軍工兵隊とニューオリンズの堤防決壊がオバマの政策の結果を示している(訳注:陸軍工兵隊は軍関係だけでなく、堤防のような大規模な公共事業も手がけている)。

我々の医療は連邦政府が介入してくるまでは素晴らしかったのだ。マケインはそのシステムを改善するための真剣な提案をしている。オバマのものは悪いものをさらに悪くするだけだ。

エドワード・C・プレスコット

追伸 君のような人達がいるから、ロシア人はまともな政治が出来ないのだろうな。

                                                              • -

From: Leonid Teytelman
日時:2008年10月11日土曜日 午後2時31分

拝啓教授

様々な問題について意見の同意を見ることがないのは明らかなようですね。マケインかオバマ、どちらがこの国にとって良いのかについて、ちゃんと情報をもった教育のある人達が同意できないのにはしかるべき理由があると思います。私が合衆国を好きなのは、そのような意見の不一致が公共の場で受け入れられる点です。この選挙は、誰がより優れたアイデアを持っているのかについての投票ということになるでしょう。

選挙はまだ先のことですし、それまで何が起こるか分かりませんが、私としてはオバマがマケインを世論調査でかなりの差をつけてリードしている事を述べておきたいと思います。特に経済のことになりますと、大衆の大多数はオバマの方がこの国にとってよい仕事をすると考えています。この事と、あなたのおっしゃられた「大企業のCEO達が彼(オバマ)を支持し、人々がそうしない」という意見とは整合的とは思えません。

最後に、私のような人間のせいでロシア人にちゃんとした政治が出来ないというあなたのご意見には当惑させられた事を述べておかなければなりません。確かに、ロシア政府とその政治システムは混乱したものですが、それは共産主義とそこからの悲惨な転換のせいです。ロシアの問題には100万もの理由があるでしょうが、そのうちの1つが私なのでしょうか?私は社会的にはリベラルで、財政面では保守的な有権者です。私はどちらの党にも属していません(両方とも私を失望させましたから)。私は多く読み、考えることで自分の意見を作ろうとします。私の意見はあなたのものとは違うでしょうが、しかしそれが民主主義と議論の要点ではないでしょうか?それこそが、最終的に正しい判断を下すための方法ではないでしょうか?何処か間違っておりますでしょうか?

                                                              • -

From:エドワード・プレスコット
日時:2008年10月11日 午後4時11分

正直さというものを見せてみたまえ。事実は事実であり、君はそれを無視している。科学者の結論は仮定から導かれるものだ(訳注:原文"Scientist collusions follow from their assumptions."この文章はよくわかりません。俺の英語のレベルを超えているか、もしくは単純に間違っているのではないかと。とにかく意味がわからないのでここの訳は仮のものです。)宗教的な信念の問題ではないのだ。君達ロシア人はドイツ人とまた結託してポーランドを分割しようというのかね?君達はグルジアを侵攻したしな。

                    • -

From: Leonid Teytelman
日時:2008年10月11日 午後4時22分

拝啓教授:

私は科学者です。事実と科学的方法に基ずいて進んでいくものです。しかし科学において良くあるように、同じ事実から異なった競合するモデルが導かれえるものです。これが私たちのやり取りにおいて起こっていることだと思います - 同じ事実を観察しつつも、解釈がちがうわけです。

ところで、私は合衆国市民であり、かつてのソビエト連邦からの難民としてこの素晴らしい国へ1990年にやってきたものです。私にグルジア侵攻の責が多くあるとは思えません。

Leonid Teytelman

                                                              • -

From エドワード・プレスコット
日時:2008年10月12日午前6時45分

経済学においては殆ど全ての場合、一つしか理論が無いか、なんの理論も無いか、なのだ。君や君の考えるような事がロシアを破壊し、いま合衆国を破壊しつつある(訳注:原文"You and your think a likes destroyed Russia"また俺の英語力を超えているなぁ。"your think a likes"ってなんかのフレーズなんでしょうか?グーグルで調べても4件しかでないし、そのうちの1件はこのメールの転載。もし分かる人がいたら、おしえてください。)時間的非整合性の問題を解決するために社会は宗教を必要とする(訳注:(主に政府が)約束を守ることを宗教によって担保させようということ。そこから信じるものは何かということにもっていっている)。君の政府崇拝はいい宗教ではない。それは人々の厚生の阻害要因だ。私の宗教の教義は選択の自由であり、相互に利益をもたらす契約を結ぶことの自由なのだ。
%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

素晴らしいやり取りです。とくにロシアがらみ([ドイツとまた組んでポーランドを分割」「グルジアを侵攻した」)の無茶な非難や、科学科学と言った上での「経済学においては殆ど全ての場合、一つしか理論が無いか、なんの理論も無いか」という決めうち、そして正直に認めろと相手には言っておきながら自分はオバマがなぜ大衆から経済においてすらマケインよりも信用されているのかには答えず、ニューオリンズの堤防決壊やアメリカの医療の問題はリベラルのせいだとするところとか、さすがノーベル経済学賞(いやスウェーデン銀行賞でしたっけ?)をとった経済学者なだけのことはあります。まあ日本にもノーベル経済学賞(スウェーデン銀行賞ですね)はとってないけど、同じような事を言う人はいたりしますが。ところでこのTeytelmanがやってるobamaforeconomy.comには多くの人のオバマ支持のメッセージが載せられているのですが、その中でTeytelman自身がこのプレスコットからのメールに関して、プレスコット同様にノーベル経済学賞(いや、スウェーデン、ってもうしつこい)をとったJames Heckmanのコメントを推奨してますので、そっちも載せときます。


[オバマの経済政策が]階級闘争によるものだとは思えない。私はそれは実証経済学によるものだと思う。問題は、サプライサイト経済学の実証的な中身なのだ。それはなんとも貧弱なものだ。「リアル・ビジネス・サイクル」理論は、実証の証拠ととにかく整合しないのだ。だがそんな事は、それが学生達に福音として教えられる妨げとはならないわけだが(そして実証的な証拠がないのだから、それはほんとに宗教的な福音でしかない)。 私はRay Fair(イェール)やMark Watson(プリンストン)にサプライサイドモデルの証拠について訊ねてみたいよ。これらサプライサイドを教える者達の不可思議なところは、彼らは自分達が大切だ大切だとのたまう誘引の要素をあっさり無視したケインズ経済学のとても雑なものを実際には用いていることだ。現在の混乱から離れた、本当に大切な問題は長期の事だ。知識への、社会基盤への、基礎科学と教育への全てのレベルでの投資の価値を否定することは、我々の長期的な健康を脅かしてきたし、これからも脅かすだろう。私は、オバマは次の100年におけるアメリカ経済強化のために必要なものにしっかりと目を向けていると考えている。現在の危機に関する基本データは今だ集計中だが、きちんとした規制の欠如が現在の問題を大きくしたことは明らかだ。これは階級闘争ではないのだ。これは未来に目を向けた社会のためのものなのだ。

*1:なぜかは知らんが、そのブログのこのエントリーのアドレスは「クルーグマンは以前、俺の妻に色目を使ったが、そんな事は関係ない」だ。