P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

サマーズ、そして左派の反応

オバマ政権の財務長官候補として噂されるローレンス・サマーズがファイナンシャル・タイムズにコラムを書きまして、その一部がリベラル・ブロガーのマシュー・イグレジアスのサイトに引用されてました。その引用部分を訳してみます。

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サマーズコラムの引用
またこの危機はテクノロジーバブルや、1990年代の日本の経験、そしてアメリカの大恐慌からの教訓を改めて思い出させてくれる−金融主導の成長は危険なのだ、と。容易な貸付からの富と所得の増加は一部の幸運な人達に集中し、またその利益も一時的なものでしかなかった。振り返ってみると、2006年のアメリカ企業の利益の6割が金融企業のものであったということは、そしてそれに関連して人口の上位1%の所得シェアが2倍になったということは、何かがおかしいということのしるしであったのだ。
よって、我々は金融でのリスク・テーキングを奨励する税制上の誘引を改め、レバレッジを規制し、利益は私的なものだが損失は社会的なものになるという醜悪な組み合わせにつながった政策を改正しなければならない。このことが、より地に足がつき、より多くの人が恩恵を得る繁栄の可能性へとつながる。より根本的なことは、短期的および長期的にも、将来の繁栄はより多くの人が恩恵を得るような政策を実現しなければならないということだ。需要を助けるのに最も効果的な政策は、低所得のためや最近所得が減少して困窮している家計を助けるものだ。最近の事例は、自己責任ではなしに人々は貧窮したり健康保険を失ったりするのだと教えてくれている。故に、雇用主によらない、基本的な健康保険と年金の確立が必要なのだ。

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なんか日本でよく見る「市場至上主義・金融資本主義」批判みたいで、ちょっと拍子抜けするんですが(もっとも俺はこのコラムのほかの部分を読んでないですけど)、イグレジアスがわざわざこれを引用したのはサマーズのコラムが素晴らしいからではなくて、クリントン政権最後の財務長官でもあり、アメリカリベラルからは右へ擦り寄ったとして相当嫌われているクリントン中道主義の財政における二人の中心人物の一人(もう一人はサマーズの前の財務長官、ロバート・ルービン)、そして次の財務長官になるかもしれない人物がこんな事を言っているということが、アメリカにおける中道の変化、左傾化を表しているということを言うためです。確かに90年代中だったら、サマーズもこんな事は書いてないだろうなと思いますね。市場には色々問題はあるが経済が成長すれば皆が恩恵を受けるのだから成長を実現しよう、ってところでしょう。なのでイグレジアスはサマーズを時代は変わった、という例として出しただけなんですが、このエントリーのコメント欄が...いつもの右派からの嫌がらせコメントはともかくとして、うーん、左派からのサマーズへの酷いコメントがいくつもついてます。ちょっとショックだったので、コメントもいくつか訳します。

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マーシャル:サマーズは最も重要な政治的戦いは左派に対するものだと考えている連中の一人だ。
この声明はいいけれど、しかし彼の古い友達(訳注:右よりの中道、おそらく金持ち)が財務省にやって来て優遇策を求めた時、彼がこのままでいるという確信が持てないな。今の金融救済と同様、言いなりになる事を「システムがまた動き出すためにはこれが必要なのだ」といって正当化するだろう。で、サマーズがこの国の経済的安定への最大の脅威とみなすのは議会内の何人かの保護主義者達ということになる、と。

グレッグ:ラリー・サマーズが(財務長官に)任命されるべきじゃない理由は、奴の能力に関してじゃない。奴がくそだからだ。
ラムズフェルド、チェーニー、アシュクロフト、フェイス、アディントン、ヨーの後、なんでまた政府にくそ野郎が必要なんだ。

地政学とビール:グレッグの言う通り。サマーズは、アフリカには政治的力がないからって、アフリカへの西洋の有毒物質廃棄を薦めるタイプのくそ野郎だ。

ラピアー:以前の豚男は財務省には要りません、永遠に。(豚男ってのは投資銀行か商業銀行の重役のこと)
出来る限りたくさんの「金融」専門家やプロフェッショナルが破滅したり、投獄されるか、両方すればいいのに。

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最後のはサマーズ特定というわけではないみたい。でも、とにかく左派からのサマーズ嫌悪のコメントがいっぱいで驚きました。庇護してる意見もあるのだけど。ただこういう左派の嫌う右よりの中道化とは、90年代のクリントン政権の政策、つまりクリントン大統領の方針なわけなのに、クリントン大統領自身は人気がある。オバマ以前は、彼が民主党のロックスターと言われてましたし。まあ、積極的な左派からは諸手を上げて賞賛とは行かないが、それでもクリントン大統領への直接的な批判は抑えたものになるようです。だからその分、その下の実務家のところにねじれた批判が向くのかなとは思えます。時代劇で悪いのは藩の老中であって、お殿様じゃない、見たいな感じで。