P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

中国経済景気予測:ノリエル・ルービニの悲観論とBrad Setserの反論

naked capitalismより
国際マクロのルービニが中国の景気についての悲観論を、自身がやっている経済分析サイトRGEモニターに書いたところ、ルービニと共同で研究もしていたBrad Setserが反論を書いたそうです。Naked Capitalismに両者の抜粋が載ってました。
ルービニの主張のポイントは中国経済は輸出依存であり、アメリカの景気後退などのせいでその輸出が落ちているというものです。

中国は構造的に輸出に依存した経済である事に注意してもらいたい:純輸出(もしくは貿易黒字)はGDPの12%近く(2000年代初期の2%から上昇している)、輸出はGDPのおよそ40%にもなる。中国の実物投資はGDPの45%で、この膨れ上がった投資のうちの半分、つまり住宅やインフラへの投資分を除いた部分は、さらに輸出財を作るための新資本財の生産に向けられている。つまり、輸出と投資の合計がGDPのおよそ80%にもなるわけで、中国の総需要の大きな部分が輸出主導の経済成長を続ける事が出来るかどうかにかかっている。
だが困った事に、中国輸出の主要な顧客であるアメリカの消費者が、この20年ではじめて息切れしてきている。

これに対してSetserは中国の成長が輸出だけで決まるものかどうかを問題にしています。ただ、いろいろ言っていますが、結局何が言いたいのかあまりクリアではありません。要は、ルービニが言うほど簡単な事ではないのだと言いたいのでしょうが。

輸出が中国の近年の成長にどれだけ寄与してきたかについてのあまり意味のない(すくなくとも私にはそう見える)議論が長い間、続いてきた。そして次のような事が明らかとなっている。
a) 中国の成長の大半は輸出からではない。そんな事は不可能だ。純輸出だけでは、10%もの成長を実現できない。
b) 中国の成長への純輸出の寄与の絶対的な寄与は大きかった。2005年、2006年、そして2007年、純輸出は中国の成長を2から3%ポイント押し上げた。第2四半期のアメリカの成長率は純輸出によって3%ポイント近く押し上げられているのだから、純輸出からのアメリカの成長への寄与が小さいというものは誰もいない。
...世界銀行は純輸出が中国の成長に1.5%ポイント寄与すると見ている。実質での輸出の増加は実質の輸入増加を上回っている。ただしどちらも鈍化してきているが。純輸出からの1.5%ポイントというのは悪い数字ではない。それはアメリカの過去7四半期での平均を上回っているし、実際、それは2008年のアメリカの成長への純輸出の平均寄与とさして違わないのだ。
順調にいっている中国の輸出業者は順調ではない繊維やおもちゃの業者ほど声が大きくない。さらに彼らはより資本集約的で、より少ない労働者しか雇用しない。
中国の輸出業者達の一部はたしかに問題に直面しているが、それでも純輸出は第3四半期の中国の成長に正の寄与をほぼ確実にするだろう。第3四半期の(なんなら一年前と比べての)実質の輸出増加はまだ実質の輸入増加を上回っていた。だからこそ、中国は財の輸入を大きく増やしているのにも関わらず、今年の最初の3四半期の名目貿易黒字が殆ど変化しなかったのだ。
アメリカの消費の急激な落ち込み、ユーロに対する中国元の増価、ヨーロッパの景気減速、そして中国からの最新のデータは実質中国輸出がすぐにも減少するのではないかと予想させる。もし純輸出がそれでも成長に寄与するならば、それは輸出の増加からではなく輸入の減少からだろう。それはつまり中国経済の減速ということだ。
好景気の時期の純輸出からの3%近い寄与を除くと、中国の成長率は11%強ではなく9%(それでも素晴らしいものだが)だった事になる。(多くの場合そうであるように)好景気の時期にその寄与がマイナス3%だったなら、成長率は6%近かっただろう。もし純輸出がマイナスになれば、中国の成長が大きく鈍化することは明らかだ。
しかし、中国の将来の成長予測のための重要な点は、強い輸出需要がなくても国内消費とそしてなにより投資がこのまま強く成長し続けられるかどうかだ。ここ数年、国内投資と輸出の両方が急激に成長したことを思い出して欲しい。もし両方が低下する事になれば、中国の成長は非常に大きく落ち込む事になる。
そして不運な事に、最新の指標は両者が連動している事を示唆している。つまり国内需要は輸出と共に落ち込みそうなのだ。
これは誰にとっても不運な事である。
建設分野での(予想される)落ち込みはとりわけ心配の種だ。中国の新しい資本集約的輸出セクターは大きな雇用を生み出していない。対して、建築分野は多くの人を雇用している。農村からの多くの流民を含めてだ。
中国の政策当局は中国経済が減速してきている事を認識している。彼らは様々な手段で景気を刺激しようとしている。貸し出し規制は停止された(そして、停止される事になってはじめてその存在が公式に認められた笑)。新しいインフラ・プロジェクトが告知されている。中国の社会的なセーフティネットを改善するための有用な改革が(遅々とはしているものの)行われている。ただ、それらが純輸出とそして(起こりそうな)投資の減速からの寄与の低下を補えるほど十分に力強いかどうはいまだにはっきりとしない。
中国が輸出の促進のための手段を取っている事も言っておくべきだろう。とくに輸出へのリベートが増加されている。それは世界経済にとってとても助けとなるものではないが。
もし中国が上昇へ転ずる兆しを見せないならば、世界の主要地域全てが同時に景気停滞に見舞われる事になる。これはまずいことだ。
要点は次のようになる:中国はその労働力増加に見合うだけの数の職を生み出すためには急速な成長が必要で、6-8%の成長では十分ではないとよく言われているが、実はこれは部分的にしか正しくないのだ。成長の内容に多くの事がかかっている。近年の中国の成長は労働ではなく資本集約的であった。そのため非常に急激な成長がそのまま非常に急激な雇用の成長に結びつかなかったのだ。もし中国がその成長の源泉をシフトさせたなら、たとえ全体の成長率が低下してもより多くの雇用を生み出せるだろう。問題は、中国はその成長の源泉を変化させはしないだろうということだ。そのため成長の低下はより少ない雇用に直結する。しかし我々は、5から6%の成長を実現している国が強い雇用増加を実現できない事は稀である事を忘れるべきではないだろう。