P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

ジェームズ・ハミルトン:フェド・ファンド市場の異常

(追記:"fed funds"を「フェッド・ファンド」と訳していましたが、これを「フェド・ファンド」に変更しました。こちらの方が締まりがいいし、あとグーグルによるとこちらの方が多く使われているようですので。)
以前にブラッド・デロングとニューディールの事でやり合ってたジェームズ・ハミルトン、再登場です。しかし今回は現代アメリカで銀行間がお互いに短期のお金を貸し借りするフェド・ファンド市場の異常のことです。利子率がおかしいのだそうです。俺も一応、経済学界の片隅にいる人間なんですが、金利?なにそれ?うまいの?って感じなので、こういう利子率がどうとか、連銀が、金融政策が、とかいう文章を読むと、うわ経済学者、かっこいい!と思ってしまい、勢いで訳してしまいました。まあとにかく、早いこと景気がよくなって欲しいなぁ。
フェド・ファンド市場(Fed Funds market)の異常 ジェームズ・ハミルトン2008年11月16日

かつてはアメリカの金融政策の中心的手段であった利子率の不可解な動きについてもう少し考えてみた。
まずは基本的な情報を。フェド・ファンド・レート(銀行間利子率 訳注:以下FFレートとします。)は金融機関が連銀の口座に預けてある預金を互いに一晩貸し借りする際の利子率だ。これは市場によって決定される利子率で、通常では連銀によって操作される預金量に非常に敏感に反応する。過去20年、アメリカの金融政策は主に、FFレートのターゲット値を決めて、その値に実効FFレート(一日の間の全ての取引で用いられた利子率の、取引量によって重み付けされた平均値)が近づくように銀行システムが保有する準備量を変化させることによって実施されてきた。
しかし、銀行が連銀口座に持つ預金に連銀が1%の利子、つまりターゲット値と同率の利子を払い始めるようになった11月6日、我々は素晴らしい新世界に突入してしまった。これは実効FFレートがそのターゲット値を下回らない事を確実にするためのものだった。しかしながら、超過準備に100ベーシスポイント(訳注:1%の事。1ベーシスポイントは0.01%)の利子を払うその新政策が実施されて以降も、実効レートは35ベーシスポイントを一度も上回っていない。

(9月1日以降の実効FFレート(青)、FFレートターゲット値(赤) 出典:FRED
こんな風に実効レートがターゲット値をはるかに下回っていることは理解しがたい事で、二つの疑問がある。まず最初の明白な疑問は:何もせずにただ連銀の口座に超過準備を寝かせておくだけで連銀が1%の利子をリスクなし払ってくれる時に、たった0.35%を稼ぐ為に他の銀行へ危険な貸付を行っているのは一体誰なのか?、だ。最初にこの事について述べた時、私はこの疑問に(次のような)答えを示唆した:

政府支援法人(GSE)といくつかの国際的な金融機関も連銀に口座を持っている。しかし通常の銀行と違い、彼らはその(口座に預金した)準備から利子を受け取っていない。という事は、正の利子率が得られる限り、彼らには超過分の準備を貸し出す誘引が原理的にはあるだろう。

ここまではよし。問題は、第二の疑問だ。もしあなたが銀行で、GSEから0.35%で資金を借りられるなら、どれだけ借りるだろうか?数字を確認してみよう。もし10億ドル借りたなら、その金を口座に一晩寝かせると連銀から1%を受け取って、あなたは0.35%を支払うことになる。つまり1年の間に650万ドルの利益が出るのだ(訳注:利子率は年率換算値)。もし100億ドル借りたなら、あなたは6500万ドル稼ぐ事になる。完全にリスクなしで、6500万ドルの純利益があなたの銀行へ。さて疑問だ−−ではあなたはどれだけ借りる?
私なら、何千兆ドルでも借りるだろう。他のだれかが先にGSEのところへ行かないように、私のブローカーに自動振替で払ってもいい(I'm happy to leave a standing order with my broker)。オーバーナイトフェド・ファンドの借り入れなら、どんな額でも、いつでも、誰でも、なんなら0.5%ぐらいは私は払ってもいい。ならばだ、なぜ利益を求める銀行によってこのバカバカしいくらいおいしい利益機会が(未だに)食いあらされていないのだろうか?
最初にこの疑問について考えてみた時、私はFDIC(連邦預金保険公社)が銀行から取り立てる保険料(Guarantee fee)のせいかと考えた。しかしRebecca Wilderがこの推理の問題点を指摘してくれた。保険はすでに有効となっているが、銀行は保険料を翌月まで払わなくていいのだ。
その後、私はこれを公開質問として皆に問うてみることにした。反応を返してくれた多くの読者に、そして卓越したブログPreBlogのJames Hymasには特に感謝したい。彼はブロゴスフィアからの数多くの仮説をまとめてくれた。Jamesはそのうち二つの説明を気に入っている。最初のものはこうだ。銀行がフェドファンドを借りるにつれて、その資産規模が増大するが自己資本は変化しない為、その借り入れ比率(leverage ratio)が悪化してしまう。この為、銀行はこの裁定取引(訳注:0.35%で借りて1%の利子をもらうやつのことです)を行う事を躊躇するようになる。まるで借り入れたフェド・ファンド1ドルにつき、70ベーシスポイントほど内部で利子率がついてしまうかのように。この内部での利子が私の前のエントリーでのFDICの保険料と同じ働きをするというわけだ。
こしこれが正しいならば、私としては非常に困ってしまうという事を言っておくべきだろう。もし銀行が道端に落ちている完全にリスクなしの何百万ドルかを拾い上げる力すら本当にもうないなら、彼らはどうやってその伝統的な役割を果たせるのか?彼らが資金を融資することになっている通常の投資は、どれもみな必然的にリスクを伴うのだ。もしこれが本当に起こっている事なのなら、私達はこの実効FFレートと超過準備への利子率との差を病んだ金融システムの新たな指標として注目するべきだろう。他の広く注目を集めているTedスプレッドなどよりも遥かに深刻な問題の指標だ。
Jamesの説明の第2の要素は、GSEは特定の一部銀行に小額しか貸さないのではないかというものだ。だとするとその潜在的借り手達はある種の独占的力を持つから、さらに借りて利子率を競り上げてしまうような事は避けようとするかもしれない。任意の金融機関に資金を貸すのはGSEにもいくらか危険がある。たとえば、一晩の間に借り手が債務不履行になってしまい、何らかの理由でその貸し付けたフェド・ファンドへのFDICの保障が履行されないとか。たしかにわずかな危険はある。だがそれは本当にわずかなものだ*1。よって私としては、GSEから0.5%で借り入れしようとしない銀行があるのを信じられないのと同様、GSEがその借り手からより高い利子を求めようとしないというのも信じられない。
結論としては、銀行間資金市場の問題について以前よりも心配するようになった事を除いて、私はこの異常を最初に議論した時と同じことを繰り返すしかないということだ:

金融政策の手段としてターゲットそれ自体がほぼ無力になってしまい、「連銀がさらに利下げをするか」とか「利子率ゼロの下限」等の議論は意味がなくなった。実効FFレートをさらに引き下げようとする事には何の利益もない。そうではなくて、今我々が実現しなければならない事は、短期財務省証券(T-bill)の利率と取引されているFFレートの上昇だ。現状の低率は非常に落ち込んだ経済、高いリスクプレミアム*2、そしてデフレーションの見通しの兆候なのだから。

*1:訳注:they are risks nonetheless. 正直、この文はわかりません。文章の流れから、危険の小ささを言っているものなのは間違いないと思いますが。

*2:原文は"high risk premia"。最後のpremiaが何なのか分からなかったので、premiumの間違いだろうと思って訳してます。ご存知の方がいらっしゃったら御教えください。