P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

マンキュー:財政政策のパズル

昨日、予告してましたマンキューブログのポストです。急ぐな、己の無知を理解せよ、謙虚になれ、と説かれています。非常にごもっともなので、教授にはなにとぞその教えをケインズ理論がらみ以外でも適用していただきたいと思います。
財政政策のパズル  グレッグ・マンキュー2008年12月1日

アラン・ブラインダー、ラリー・サマーズ、そしてスタンレー・フィッシャーの教え子として、私はケインジアンマクロ経済学のレンズを通して財政政策の短期の効果を眺めるように鍛えられてきた。新しいオバマ政権の経済学者達の多くもその知的フレームワークを共有している事は間違いない。なんといっても、彼らは私の教師(ラリー・サマーズ)、私の学友(クリスティーナ・ローマー)、そして私自身の学生(ジェーソン・ファーマン)によって選ばれた訳だから。
しかしながら、ケインジアンモデルに懐疑的なマクロ経済学者も多くいる。そして現代のケインジアンの中ですら、細部については見解の不一致がある。短期の景気変動理論は、経済学の中でもっとも意見が一致していない分野だと言っていいだろう。この分野を研究するどんな経済学者も、謙虚でいなければやっていけないのだ(Any economist approaching the subject should bring an ample dose of humility.)。(さもなくは傲慢・慢心に陥る−−経済のコメンテーターには一般的過ぎるほどみられる特徴だが)。
ケインジアンモデルには景気停滞期における財政政策をどう考えるかについて、明晰で実用的な洞察がいくつかある。いかし、それらの洞察は正しいのだろうか?
この質問に答えるアプローチの一つは、先験的に何かの理論を押し付けず、データに対して時系列のエコノメトリクス分析を行う事だ。金融政策については、これを行った文献が多くある。財政政策については文献が少ないものの、増えていっている。しかしながら、これらからの結果は教科書どおりのケインジアンモデルの予測を必ずしも確認するものではない。
たとえば、Andrew MountfordとHarald Uhlig(シカゴ大学の著名なエコノメトリシャン)による「財政政策のショックの効果はいかなるものか?」と題された実証研究の結論はこうなっている:

我々の主な結論は、
・財政赤字によってファイナンスされた予想されざる減税が、景気を刺激するには最適な財政政策である。
・[政府の財政]赤字による支出ショックは景気を弱く刺激する。
・政府の支出ショックは、利子率を上げずに住宅と非住宅の投資をクラウドアウトする。

これらの発見は、通常のケインズ理論と整合的ではない。理論によると、政府の支出乗数は税の乗数よりも大きいはずで、クラウディングアウトは利子率の上昇によって起るはずなのだ。
より以前の、Olivier BlanchardとRoberto Perottiによる関連した論文「産出に対する政府支出と税の変化の動学的効果の実証的特長」は同様の異常な結果を報告している。

増税と政府支出増が民間投資支出に強い負の効果を持つことを発見した。この効果は、歪みをもたらす税を内包した新古典派モデルと整合的だが、ケインジアンモデルとの整合性をはかることはずっと難しい。その[効果の]方向を無視するとしても、ケインズ理論は税と支出増が民間投資に逆の効果を持つ事を予測するのだ。そんな事は起っていないように思われる。

ちなみに、BlanchardはIMFの今のチーフ・エコノミストだ。
これらの発見が私をどれだけ説得したのかよく分からない。そしてこれらがたとえ正しいとしても、ではこれらを説明する為にどういうモデルを使うべきなのか、そして現在我々が直面している異常な経済状況にそのモデルが果たしてどれだけ役に立つものなのか、私にはなんとも分からない。しかしながら少なくともこれらのパズルは、政策分析のためにケインジアンフレームワークを使う際に一端、立ち止まってみる理由を与えているだろう。マクロ経済学にはまだまだわかっていない事が多くあるのだ。