P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

ロデリック:H.G.ウェルズ、ロンドン、そしてサミットの失敗

H.G.ウェルズ、といったらSFファンの俺としては当然ながらSF作家なわけなんですが、実のところ彼は第一次世界大戦ぐらいから、SF作家というより社会思想家といったかんじなります。そのウェルズが1933年、世界大恐慌に対処する為に開かれる事になったロンドン会議におけるルーズベルへの人々の期待と反応について書いていたそうで、ダニ・ロデリックが当時のルーズベルトと今のオバマ(4月のロンドンサミット)の類似性から、そのウェルズの記述を引っ張り出してきてました。読んでいると、違いはありつつも似ているところも色々と...

H.G.ウェルズ、ロンドン、そしてサミットの失敗 ダニ・ロデリック 2009年3月19日
4月のG20サミットが近づいてきている。だから、良く似た状況で行われた別のロンドン会議のことを思い出すのもよいことだろう。
1933年、世界経済を飲み込みにつつあった大恐慌から協調して抜け出す方法を探し出す為に、先進諸国の代表達がロンドンに集まった。この失敗する運命の会議のH.G.ウェルズによる描写、とくにルーズベルトと彼の随行員達についてのそれは、現状との類似のために優れた読み物となっている。

アメリカ大統領になる選挙とロンドン会議の開催の少なくとも前後数ヶ月の間、世界中で再びささやかな希望が湧き出てきた。本物の「男」がやってきたのではないかと。物事を率直に、明晰に認識し、すべての人類に分かりやすく語りかけ、そして呪いにかかったかのようにこの世界が囚われ苦しむ事となった悲惨な妄執と無能から、この世界を開放してくれる「男」なのではないかと...
ウィルソン*1の個人的な失敗から教訓を得て、[ルーズベルト]はロンドンへ行くことで彼自身と彼の言葉が事細かに検索され縛られる事を避けた。彼はナンタケット港*2に停泊した彼のヨット、Amberjack II、からロンドンでの刻一刻、変化してゆく危機に対処することを好んだのだ。時々の連絡と、多かれ少なかれ完全な権限を与えられた代理を通して。
会議が近づいてくると、人々が集まればどこでも、この彼らの新しいリーダーとなりそうな人物のことについて話し合っていた。「彼は我々が求め、ようやくやって来た救世主なのか?それとも誰か別のものをさがすべきなのか?」ヨーロッパ中の本屋が彼の新しく出版された本、Looking Forward、を売っていた。彼らがこれから付き合っていかなければならないこの人物の人となりについてはかるために。その本は、心配気味の人達を混乱させるだけだった。明らかに、その男は断固とした、正直で、そしてかわいいところのある人物だった。本の口絵の写真のなかの、澄んだ実直そうな目と大きくて決意に満ちた顔立ちが示しているように。しかしその本の文書は政治家の文章であった。善意に満ち、現代の"much vague modernity"(すいません、わかりません)によって鍛えられてはいるけれど、しかしまだ確実なものではなく、知的な理解にも乏しいのではないだろうか。「彼は良さそうだが」、彼らは尋ねる、「十分に良いのか?」

オバマ大統領は勿論その場に乗り込んでゆく。大統領のヨットの上からではなく。よって、この点は彼の方が良くやっている。次に、ウェルズのルーズベルトのアドバイザー達についての意見を読んでみよう。

しかしながら、希望は厳しい戦いをしなければならなかった。人類の経済生活の上に掛けられた呪いを解くと約束だけでもするものすら他にはいなかった。会議はルーズベルトの会議、であったのだ(It was Roosevelt’s Conference or nothing)。そしてあの失望の本にもかかわらず、希望を持ちうる真っ当な理由もいくつかは残っていた。特に、大統領には「ブレイントラスト」がついている、と言われていたのだ。多くの間違いなく有能で、そして現代的精神を持った男達、たとえばTugwell、Moley そしてDickinsonといった、その後の研究が現代国家に関する理解への、特にアメリカ的な貢献となった、法と政治的手法の再編成において部分的に重要な役割を果たした教授達が彼の側近であった。この「人類の最後の希望」、たしかな報道によると、はこの親友達をクリスチャンネームで呼び、そして彼らは彼を「知事(Guv'nor)」*3とよんでいた。彼は彼らの研究の成果である成熟した意見に耳を傾けることができる、謙虚さと偉大さを兼ねそろえているといわれていた。いまだ希望を持ちながら事態を観察していた人達は、彼がそのアドバイザー達に耳をかせば、事態は結局それほど悪くならなくて済むのではないかと考えていた。なんであれ、彼は銀行家と大企業の人間にしか耳をかさないヨーロッパの政治家達や国のトップよりは確実にましなわけなのだし。
しかし、彼は耳を傾けていたのだろうか?彼は直面する問題の複雑さを理解していたのだろうか?彼は、負債と過大な投資の重荷を減らす為の貨幣的インフレーションの必要性は理解していた、ようだった;彼は公的雇用の必要とされているプログレッシブな拡大には明らかに積極的であった;そしてそれまでのところ、彼はまともであった。...しかし彼はそういった手段が世界規模、もしくは事実上世界規模のものになることの必要性についてまともに理解していたのだろうか?彼はこの点について思いがけない態度の変更をいくつか行った。こういった変化は気まぐれさの証なのだろうか?それとも戦術的作戦にすぎなくて、その下には本質的な安定性と固い決意があるのだろうか?世界中が明白な言葉でどうするべきかをはっきりと説かれる必要のある時に、戦術的になることは賢明なことだろうか?彼のやり方の質にはばらつきがあって、どうにも当惑させられた。彼はそのアドバイザー達に耳を傾ける、ようではある;しかし彼は他の者達には耳を傾けないのだろうか?

ルーズベルトはロンドン会議にほとんど希望もあるいは有用性も見出していなかったことが、やがて明らかになった。彼は、金本位制から離脱しリフレをつくりだすという自分のアメリカ復興の計画に集中できなくなることを事を望まなかったのだ。ルーズベルトが会議に(実際に、そして比喩的にも)参加しなかった為に、会議は失敗にきした。
当時のロンドン会議の問題は、その議題がすでに時代遅れとなっていたゴール、古典的な金本位制のルールの復活、に集中していたことだった。世界経済が大規模な貨幣的リフレーションを必要としている時に。4月のロンドンサミットも、同様の意味のない問題に取り組むのだろうか?
世界経済へ短期的に実質経済での違いを生み出せることが二つがある:(a)財政拡張の協調、そして(b)発展途上国への信用あるいは流動性の大規模な拡大。ヨーロッパの頑固さによって、このうちの一つ目がダメになってしまっている。そして、二つ目が豊かな国のどれかによって強くプッシュされるかどうか、まったくさだかではない(もっともIMFの拡大についての合衆国の提案は、ヨーロッパがこれまで提案したものよりもはるかに気前の良いものになっているが)。
将来のH.G.ウェルズはロンドンサミットについて何を述べるだろうか?

*1:国際連盟の創設に尽力しながら、結局アメリカの加盟を実現できなかったウッドロー・ウィルソン

*2:マサチューセッツ州。

*3:これは正確には"Governor"なので、そんな省略した呼び名を使えるほど親しかったということだろう。