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政治、経済、そしてScience Fiction

Rajiv Sethi:名目賃金伸縮性についてのいくつかのコメント

先のエントリーで引用されていたRajiv Sethiのエントリーです。


名目賃金伸縮性についてのいくつかのコメント Rajiv Sethi 2009年12月16日
タイラー・コーエンは最低賃金をカットするべきだと考えているようで、その説明としてブライアン・キャプランにリンクしている。そしてキャプランはそんな事はあまりにも初歩的なことだと考えている

賃金カットが労働需要を増やす。もし労働需要が弾力的なら、全体としての労働の所得は賃金カットの結果として<<上昇>>する。
労働需要が非弾力的だとしてすら、賃金カットは<<雇用者>>の所得を引き上げて労働の所得を引き下げる。よって、<<そんな状況ですら>>、あり得ない事だが雇用者がその金をマットレスの下にでも隠しておくとでもいうのでない限り、賃金カットは総需要を引き上げる。

これについて一つ一つ考えていこう。まず第一に、賃金カットが労働需要を増やすという主張について考えよう。<<どんなメカニズムを通じてこれが起こるのだろうか?>>ある企業(たとえばマクドナルド)が今、その労働者達の賃金を下げる事ができると考えてみよう。その企業は間違いなくそうするだろう。しかし、その労働者数を増やそうとするだろうか?バーガーとフライの販売数が増えるのでない限り、そんな事はしない。もし増やしたりすれば、その増えた労働者達がつくりだす余分のハッピー・ミールは、(アンハッピーなことに)売れ残ってしまうだろう。そしてこれは新しい労働者の雇用と訓練費用の無駄であるだけでなく、牛肉、ポテト、そして料理オイルのかなりの無駄を生んでしまう。よって企業は需要の上昇が見られるまでは、既存の労働力でなんとかやっていこうとする。そして最低賃金をカットしない事は、自動的にそんな需要の上昇を提供してくれる*1。結果、最低賃金のカットの直近の効果は労働全体の所得の低下である。
雇用者の所得は、当然ながら、上昇する。このうちの一部は消費に使われるだろうが、しかし同じだけの所得を低賃金労働者が受け取った場合に使われるよりも少なくだ。その純効果はより低い総需要である。しかし待った、雇用者所得の増加の残りの部分はどうなっているのか?それはマットレスの下などに隠されたりはしない。この点について私はキャプランと同意する。それは資産を増やす為に使われるだろう。もしそれが債権なら、長期金利は低下するし、それは民間投資を増やすかもしれない。しかしまた、そうならないかもしれない。もし企業が生産設備への追加分が使われると信じる事ができなければ。そして今現在、企業はそう信じていない:民間投資が低いのは、長期負債の利子が高すぎる為ではないのだ。
最後に、もし雇用者が増加した所得の使われない部分を株式購入に使ったとしたらどうだろうか?ここ何ヶ月かみているのとは違わないような、株式価格の上昇がみられることだろう。これは投機によるバブルではないことには注意してもらいたい:企業の労働コストが低くなったので、株価上昇が得られたのだ。しかしこの資産価格上昇は資本財への民間投資を刺激するだろうか?追加される設備が使われるというの期待がない限り、またまたそうはならないだろう。
マーク・ソーマはこれについてさらに触れているし、ポール・クルーグマンも同様だ。ベッカーとトービンによる反対の見解について私は以前のポストで論じてみた。私が理解できないのは、なぜとても知的な人たちが労働市場のワルラシアン部分均衡分析を行う事に固執するのかだ。まるで我々がオレンジの市場と係わっている様に。お願いだから止めて欲しい。

アップデート(12/16) これを再ポストしてくれたマークと、フォローアップしてくれたポール・クルーグマンに感謝する。タイラーはマークのページのコメントで次のように反応している。

独占企業のグラフを描き、限界費用曲線を下げてみてくれ。それで何が起こるかみて欲しい。Sethiの最初のメインのパラグラフはこのメカニズムを単に考えておらず、代わりに限界での変化は意味を持たないと仮定している。

これに対して私は次のように返答した。

タイラー、賃金の低下は限界費用曲線をシフト・ダウンさせるだけでなく、需要曲線も、よって限界収入曲線もシフト・ダウンさせるよ。これは最低賃金労働者が消費する財を作っている全ての企業について起こる。それらの企業が最低賃金を支払っているのかどうかによらず。さて、我々はその最終的な結果がどうなるのかについては同意できないだろうが(私は負債デフレが起こると思う。フィッシャーの1933年の論文の中で描かれたように、そしてあなたのブログにおいて最近、見事に説明されたように)。あなたは同意しないかもしれない。しかし我々はこの事について、独占企業とその費用曲線による部分均衡のモデルでは決着させられないでしょう。

この議論がまだ続くことは確実だろう。私が望むのは、この非常に重要な問題について議論するために、入門ミクロ経済学の部分均衡モデル以上のものが使われる事だ。

*1:原文"And no cut in the minimum wage will automatically provide such an increase in demand"。訳は間違っていないと思うが...意味はカットされた場合と比べて、カットがない場合の方が需要が大きいということだろうが。