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政治、経済、そしてScience Fiction

ケネス・ロゴフ:世界は一つの税に、一つの税は世界の為に? 

毎月1日は、映画の日で料金は1000円となります。なので3本の映画を観てきましたが*1、さすがにそういう事をすると結構、映画と映画の間で時間が空いてしまうので、翻訳で時間つぶしをしました*2IMFが最近、金融機関への課税を提案したそうですが、訳したのはケネス・ロゴフによるそのIMFの提案の弁護の文章です。クルーグマンも同じような金融機関への課税を提案していましたが*3、それがついにIMFからも提案され、そしてロゴフから弁護されると。こりゃ実現の可能性も高そうでしょうか?


世界は一つの税に、一つの税は世界の為に?ケネス・ロゴフ 2010年4月29日
ケンブリッジ − 次の世界規模の金融危機が起こったとき、国際通貨基金IMF)がそれを防ごうとしなかったとは言わないように。最近、IMFは、規模におおまかに応じた金融機関への税金を、銀行の利益とボーナスへの税金とともに提案したのだ。
基金の提案は、予想されるように金融業界からの侮蔑とあざけりで迎えられた。さらに興味深くそして重要なのは、G20の大統領や金融担当大臣達からの賛否混じった評価だ。今回の金融危機の震源地の政府、とくに合衆国とイギリスは完全に歓迎している。とくに規模におうじた税金についてだ。結局のところ彼らはそれをやりたがっているのだ。カナダ、オーストラリア、中国、ブラジル、そしてインドなど、今回、銀行の危機を経験しなかった国々は歓迎していない。とても堅牢だと証明された金融のシステムをなぜ変更しなければならないのか?、と。
IMFの提案の細部を批判するのは非常に簡単だ。しかし、問題にたいするIMFの大局的な判断はおおいに正しい。金融システムは暗黙裡の納税者による保障により肉がたるんでしまっているのだ。その保障により、銀行、とくに大手は利益追求のリスクを完全に反映したものではない利子率で資金を借りる事ができるからだ。そのリスクは納税者に回されるわけなのだから、金融機関にその借り入れにおうじた税を課すのは、公平性を確保する簡単な策である。
「なんのリスクだ?」と、金融機関は答えを要求してきている。金融機関救済の平均費用はGNPの「たった」数パーセントに過ぎない。そして危機は、50年に一度といったものだったのだから、と。
IMFは、そういった主張は的外れだと正しく指摘した。危機の間、納税者は国民所得のおよそ四分の一について責任を持つはめになっていた。そして次の危機はそれほど「優しい」ものとはならないかもしれず、そして大衆が背負う損失はとんでもないものになるかもしれない。救済の「成功」があってすら、国々は不況と低成長の長期化により、産出の大規模な損出に見舞われたのだ。
しかし、危機の根本にあった銀行の過大なバランスシートは規制により対処されなければならないが、IMFが「ツー・ビッグ・ツー・フェイル(大きすぎて潰せない)」の問題を何とかすることにだけ固執しないのは正しい事だ。驚くほどの数の論者が、大銀行の分割を一旦しさえすれば、政府が銀行救済を行なう可能性はずっと小さくなり、この「モラル・ハザード」の問題全体の棘がなくなってしまうと考えているようだ。
何世紀にも渡って、大きく異なる金融システムを、多くの似たような危機が襲ってきたことからするとこのロジックは疑わしい。中堅規模の銀行の多くを同時に襲うようなシステム全体への危機は、いくつかの大銀行を襲う危機同様に、政府にシステム救済を強いるだろう。
また、紙の上では良く見えるが、しかし大きな危機においてはまったく役にたたない事が証明されるだろう複雑なアイデアが、あまりにも多く飛び交っている。どんな堅実な解決策も、理解と実行のためには適度に簡単でなければならない。IMFの提案はこういったテストをパスしているように思われる。
対照的に、一部の金融専門家は銀行が「停止条件付(contingent)」負債にもっと多く頼るようにさせることを望ましいとしている。これはシステム全体での崩壊が起こった場合には(無価値になるかもしれない)株式に転換できるというものだ。しかし、法的、政治的に、そして銀行システムについても大きな差異があるこの世界において、こういった「事前に準備された倒産」という形式がどうやれば実行可能なのかは、明白ではない。金融の歴史には危機において失敗した、事前にテストされざるセーフティーネットの試みが散乱している。システムの成長を抑制したほうがよいのだ。
しかしながら、ワン・サイズ・フィット・オールの世界統一の税(one-size-fits-all global tax system)がどうにか国際的に同じ環境をつくりだす(level the playing field internationally)というIMFの考えは、ずっと根拠に乏しい。そうはならないだろう。現在、堅実な金融規制システムをすでに持っている国々は、金融規制がよりミニマムに近い国々、たとえば合衆国やイギリスなどと比べて、実質的にその金融企業により「課税」しているのだ。合衆国やイギリスは、他国が銀行に税を課さないなら、銀行に課税してその競争優位を落とすようなことはしようとは思わないだろう。しかし、チェック・アンド・バランスがもっとも強くかつ緊急に必要なのは彼らの金融システムなのだ。
IMFの提案に反対している「抵抗勢力」諸国の弁護をしすぎたりはしないようにしておこう。これらの国々は、もし合衆国やイギリスがたとえいくらかでも改革を行なったなら、多くの資金がどこかへ逃げていってしまい、それによりこれまでのところは順調に働いているように思われる規制のシステムを圧倒してしまう可能性もあるのだ、という事を認識する必要がある*4
そして、IMFによる第2の税の提案、つまり銀行の利益とボーナスに対するものについてはどうだろうか?そういった税は政治的にはアピールするものだが、しかし結局は大した意味をもたないものだ。おそらく、銀行への補助金があまりにも明白な危機の年のさなか、などを除けば。金融市場の規制を直接的に向上し、国の税制が銀行の所得を他の産業のそれと同じように扱うようにした方がよいだろう*5
治療の為のIMFの最初の処方箋には問題があるだろう。しかし、モラル・ハザードにより膨れ上がった金融セクターについてのその診断は明らかに正しい。今年の後半にG20諸国のリーダー達が会合する時に、この問題を真剣に取り上げることを願おうではないか。次の危機がやってくるまで、あと10年か20年も問題を先送りするのではなく。

*1:[http://ja.wikipedia.org/w/index.php?&oldid=31795433:title=「月に囚われた男」]、[http://ja.wikipedia.org/w/index.php?&oldid=31748892:title=「プレシャス」]、そして[http://kawasoko.com/:title=「川の底からこんにちわ」]の3本です。どれも良かったですね。「川の底から...」は結構笑えるところのある映画でしたが、まずは主演の満島ひかりの為に観にいきました。かわいかったというか、彼女の感極まった時の叫ぶような声が好きなんですよ。たぶん傑作[http://www.amazon.co.jp/gp/product/B002AE5A7M/ref=pd_lpo_k2_dp_sr_1?pf_rd_p=466449256&pf_rd_s=lpo-top-stripe&pf_rd_t=201&pf_rd_i=4093862419&pf_rd_m=AN1VRQENFRJN5&pf_rd_r=1B0Q3V397164R06J6BQM:title=「愛のむきだし」]での聖書引用シーンで、なにか変な刷り込みをされてしまったのかもしれない。ただ、今日観た映画の中で、もっとも綺麗だったのは、「プレシャス」のポーラ・パットンでした。美しく、甘く、そして堂々としている。もしハリウッドが[http://www.amazon.co.jp/dp/B002KLKXTK/ref=pd_cp_d_1:title=パトレイバー]の映画を作る事があったら、[http://ja.wikipedia.org/w/index.php?&oldid=31652167#.E7.89.B9.E8.BB.8A.E4.BA.8C.E8.AA.B2_.E7.AC.AC.E4.B8.80.E5.B0.8F.E9.9A.8A:title=南雲隊長]の役は彼女にやってもらいたいと思います。

*2:外出時は大抵、ノートパソコン持ちです

*3:まあ細部については違うでしょうが。

*4:つまりすべての国々が規制を強化するなら、資金が大きく移動することはないが、もし合衆国とイギリスだけが規制を強化したならば、それによりそれ以外の国のシステムが上手く行かなくなる可能性があるということ。

*5:よく覚えていないが、たしかアメリカでは投資銀行への税率が他の産業へのそれより低い、という事があり問題になっていたはず。