P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

BoingBoing掲載のテッド・チャン・インタビューの、「族長の初夏」さんが翻訳された後の部分の翻訳です。主に彼の作品におけるAIについての話ですが、最後はAIではない異知性間についての話しになります(ってのは誤解させる書き方ですが、こう言ったほうがSF的にカッコいいかな、と。)
あなたの物語のAI達はバーチャルの体を持っていますね。意識が現れるのに、身体を持つ事はどれくらい重要なんでしょうか?「現実」の物理的な体とバーチャルの体の間には違いがあるんでしょうか?
多くの研究者達が、AIは体を持ち、位置づけられる必要があると考えています。つまり、なんらかの物理的な身体をもち、なんらかの物理的な環境の中に存在しなければならない、ということです。その基本的な考えは、我々は行動から学ぶものだ、という事です。世界についての我々の理解は自分達の体を動かすこと、押し合いへしあいすることからやってくるのだと。そういったこと無しで存在しえる認識のあり方もあるのではないかとは思いますが、しかしそういったものは我々とはあまりにかけ離れたもので、理解不能なんじゃないかと思います。シミュレーションが十分よくできていれば、バーチャルな体とバーチャルな環境も物理的なもの同様に働くはずです。しかし、ザ・シムズといったプログラムは物理的な体をそれほど大してシミュレートしていません。FPS(the first-person shooters、主人公視点でのシューティングゲーム)のような、破壊対象の環境についてはある程度の物理シミュレーションをやっているゲームはありますが、しかしそれらも登場人物のアバターについては精密な物理シミュレーションを行なっていません。時々、そういった登場人物達が何かの上をまたぐ時に、彼らの足がそれの中を突き抜けてしまうのは、それが理由です。AIに身体の感覚を与える為には、もっとずっと厳密な物理シミュレーションをデザインしなければなりません。でも、それは可能なことであるのは間違いないはずです。

あなたの中篇は、二人の幼い子供達を育てている私自身の経験に新しい光りを当ててくれました。これは私の意見では、物語がその目的を果たしたという事をしめす一例です。接触の感覚は子供達の感情的な健全性の為に本質的ですよね。あなたの物語でのAI達の世界における接触の役割について、さらに説明いただけませんか?
AI達は触られる事を喜びます。でもそれは彼らの設計者達による意図的な決定によるものです。所有者達によりアピールするようにされたということなんです。触られるのを好まない自閉症の子供達がいますが、両親達は彼らを抱きしめたいわけですから、親達にとってはそれはつらい事です。そして触られるのを好むペットとそうでないペットの間で選ぶとなったら、殆どの人達は好む方を選ぶ事でしょう。接触は人々にとって重要なものです。だからもし人間とAIの間での感情的なつながりを促進したいのなら、もし人々がAI達と共に時を過したいと思うようになってもらいたいのなら、接触をAI達にとっても重要なものにするべきなんです。

A Primate's Memoirにおいて、ロバート・サポルスキーは彼が研究していたアフリカン・バブーン*1の群れとの非常に深い感情的なつながりについて詳細に述べています。その中篇の準備をしている間に、霊長類についての何かの研究を読まれたりしましたか?
野生の霊長類については読みませんでしたが、手話を教えられたチンパンジーについては読みました。彼らはしばらくの間、有名になったんですが、でも、言語についての研究が終わった後、彼らに何が起こったか普通は知りませんよね。一部は、実験目的で医療関係の研究所へ送られました。僕がもっとも興味を持ったケースは、ルーシーという名づけられたチンパンジーでした。彼女を教えていた人たちは彼女の面倒をみる事ができる施設を見つけられなかったので、彼女をアフリカへ送ることにしたんです。彼女はその人生をずっと人間達の中で過してきていて、ジャングルなんてそれまでまったく見たこともなかったのにね。ジャニス・カーター(Janis Carter)という名の大学院生が彼女の野生への適応を助ける為に彼女について行きました。ジャニス・カーターはほんの数週間だけ滞在することになっていたんですが、それでは足りない事を彼女はすぐに悟りました。野外でどう生きるのか、食べ物をどう探すのかをルーシーに教えるのに彼女は何年も費やしました。野生に適応できなかったために最終的にルーシーは死んでしまいますが、でも僕はジャニス・カーターのコミットメントに本当にうたれてしまいました。キャンプすら好きではなかったのに、彼女はルーシーを助けるためにその人生を完全に変えてしまったんです。人間ではない誰かの為にそこまでする人が、いったいどれだけいるでしょう?

最後に、「息吹」*2を銅版に刻むことは計画されてますか?
(笑) そうできるとは思いますけどね。とてもクールなアートになるか、面白い限定版になるでしょうね。そんな高価な試みをやってみる事ができるほど有名だとは思えませんけど、もし誰かがやってくれたら興奮しますね。

ありがとうございました。
こちらこそ。

*1:[http://www.google.co.jp/images?um=1&hl=ja&rlz=1C1GGLS_jaJP354JP354&tbs=isch:1&sa=1&q=baboon&aq=f&aqi=&aql=&oq=&gs_rfai:title=アフリカのお猿さん]、いわゆるヒヒのことですよね。もしかしたら正確にはヒヒとは違うのかもしれませんが、タランチュラの[http://www.google.co.jp/images?um=1&hl=ja&rlz=1C1GGLS_jaJP354JP354&tbs=isch:1&&sa=X&ei=jd9STOSfEIPCvQPXyJGmAg&ved=0CCAQBSgA&q=king+baboon&spell=1:title=キングバブーン]とは違うはずですし、遊戯王の[http://www.google.co.jp/images?um=1&hl=ja&rlz=1C1GGLS_jaJP354JP354&tbs=isch:1&sa=1&q=baboon+yugioh&aq=f&aqi=&aql=&oq=&gs_rfai=:title=グリーンバブーン]とは完璧に違うはずですね!

*2:SFマガジン2010年1月号掲載、あるいは英語だが[http://www.nightshadebooks.com/downloads:title=ここ]からダウンロード可能。