P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

クルーグマン:ギリシャのユーロ離脱

またまたちょっとお久しぶりです。最近の日本ではあまり耳にしなくなったような気もしますが、ヨーロッパの周辺国の金融危機はまだまだ続いているようです。クルーグマンがギリシャのユーロからの離脱について2本続けてエントリーを書いてましたので、その2本を訳してみました。で、クルーグマンの結論は...


ギリシャはユーロを離れるか?2011年5月10日

Mark Weisbrotに賞賛を。彼は口にされざることを口にして、ギリシャのユーロ離脱の要を説いたのだ。

私は彼が述べたことの大半に同意するが、しかしそれをどう行うかについてはなにかを述べる準備がまだない。これはいくつかの理由による。まず第一に、アルゼンチンが正しい参考となる対象だということには同意するのだが、不完全な参考対象でもある。アルゼンチンは変更不能なペッグをおこなっているとはされていた。だがそれでもまだペソ紙幣を流通させていたので、ペッグからの離脱のメカニズムはユーロからの離脱よりもずっと容易だったのだ。そして、そのメカニズムが大きな意味を持つ。短期的なショックとなるか、長期に渡る金融危機になるかの違いを生むのだ。
第二に、不安定な政府が続いてきた比較的貧しい国であるギリシャには、この欧州のプロジェクトにおいて良い市民たることから得るものが多くある ― 結束基金(cohesion funds)からの援助のような具体的なものや、数値化はむずかしいもののたぶん重要な、巨大な民主主義連合の一部であることによる経済的そして政治的な安定化効果など。ユーロからの離脱は長期的には、アルゼンチンがその減価から蒙ったよりもずっと大きなダメージをギリシャにもたらしうる。
とはいっても、ギリシャ[救済]のためのプログラムがうまくいっていないと述べているWeisbrotは正しい。うまいっていないどころですらないのだ。最低限でも、単に債務返済を引き延ばすのではなく、債務負担を実際に減らすような債務再編(debt restructuring)が必要だ。そしてこのシチュエーションが未解決のまま長引くほど、ギリシャがユーロの中で存続できる希望はどんどん小さくなっていくと考えている。たとえギリシャがどう望もうとも。


続・ギリシャのユーロ離脱 2011年5月10日

ギリシャがユーロを離れるかについてのポストへのコメントでアルゼンチンのコメンテーターが、アルゼンチンはペソを減価させるだけでなく、その負債についての債務不履行と銀行預金の引き出しの短期的な制限の両方を行ったことを述べている。まったくその通り。ユーロ離脱が起こったなら、同じような事が起こる事になるだろう。
しかし、最初の点はすでに了解されている事だということを思い出してほしい。ギリシャがその負債の全額を返済できない事はだれもが知っている。問題は、たとえ債務不履行を行ったとしても、その賃金と価格がユーロ圏の中心国家のそれらと整合的でないことだ。そのため、不履行では十分でないならば、減価をすることになる。
第二点。ユーロ分裂に反対する最大の議論こそがまさにそれ、離脱は過去最大の銀行取り付けを引き起こすだろうというものだ。では、どうすれば離脱できるのだろうか?しばらく前に私は、アルゼンチンが2001年に行った経済政策に沿ったような短期的な銀行の閉鎖を必要とする銀行危機が起こった時に行うしかないだろうと述べた。
そういうわけで、どんなヨーロッパの政府も厳粛かつ熟慮の上でのユーロからの離脱宣言をしたりするとは到底おもえない。しかし、ユーロ離脱がもっともましなオプションとなるようなシチュエーションにつながる事態は簡単に思いつく事ができるのだ。