P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

アセモグル、ロビンソン:アメリカの失敗

アメリカの失敗 アセモグル、ロビンソン 2012年4月23日

アメリカ経済とその制度の失敗について盛んに語られている。その大半はちゃんとした理由つきで。しかしその失敗の具体的なあかしは少ない。不平等の拡大をその明らかな証拠として示すものもいるが、しかしこの拡大がスキル偏向的技術進歩とグローバライゼーションのような非政治的要因によって引き起こされているのか、あるいは政治的要因によってなのかについては議論がある。我々は前のブログポスト*1で非政治的要因はトップ1%の国民所得内でのシェアの動きを説明できそうにないと主張したが、しかし違う前提を持っている人達が納得するものではないだろう。
以下では疑問の余地の少ないアメリカの失敗を幾つか挙げていく。
次の図は出生コーホート(生まれた年)ごとにまとめられた、男性、女性、そしてその両方の高校卒業率を表している。男性については、高校卒業率は1950年代はじめ生まれのコーホートが最も高くなっている。男性の高校卒業率は1960年代後半に85%弱でピークとなり、それ以来少し下がっている。女性に関しては、少しばかり上昇している。21世紀に入ってかなり経つが、アメリカの人口のほぼ15%は高校を卒業していないのだ。その事の経済的帰結は深刻なのにもかかわらず。(しかも、これはGraduate Equivalency Degree、GEDs*2、つまりドロップアウトした者の為の高卒資格の「セカンドチャンス」を近年の数字は含んでいるのにだ。そして、GEDからの経済的リターンは通常の高卒よりも明らかに低い*3
 
 

 
 
次の図はこのパターンが大学卒業率についても同様であることを示している。男性についてのピークはまたも1960年代後半である(つまり1940年代末に生まれたコーホートだ)。それから下がって、1980年代後半に回復するものの、それは長続きしなかった。全体としての大学卒業率は、女性の率の上昇によって回復し、上昇したが。(こういったパターンのさらなる詳細についてはクラウディア・ゴールディン(Claudia Goldin)とローレンス・カッツ(Lawrence Katz)の優れた本、The Race between Education and Technologyと、ダーロン・アセモグルとデビッド・オゥター(David Autor)によるその評価を参照。)
 
 

 
 
次の図はアフリカ系アメリカ人、ヒスパニック、そして白人の男性の拘禁率の変化を示している。アメリカは現在、アフリカ系アメリカ人100人のうちほぼ5人を拘禁しており、その大半は暴力系ではない犯罪によってそうなっている。これがアメリカ独特の失敗ではないと主張できるものはほとんどいないだろう。
 
 

*1:himaginaryさんの[http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20120315/is_the_one_percent_the_same_everywhere:title=この記事]を参照。

*2:日本の高等学校卒業程度認定試験と同じ、高校卒業資格を得るための試験。

*3:たとえば、[http://ideas.repec.org/p/nbr/nberwo/12018.html:title=この論文]を参照。