P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

オバマ・リアラインメント by ロス・ドーサット

2012年のアメリカ大統領選が終わりましたね。結果は事前に予想されていた通り、オバマの勝利となりました。New York Timesによると、日本時間の11月8日午前10時時点で、オバマの獲得した選挙人が303人、ラムニーが獲得した選挙人が206人、そしてフロリダの当落がまだ確定していないため未定の選挙人が29人となっています。ただフロリダもオバマが僅差でリードしていますのでこの29人もオバマに行くのじゃないでしょうか*1
ちょっと呆れたのは選挙前、「接戦」という報道が多かったこと。まあ得票数についてはせいぜい数%ポイント差と事前から見られてましたが、しかしオバマ勝利の可能性高しは様々な統計予測で言われていたことでしたし、選挙は一票でも票が多いほうが勝ち*2ですから、僅差ではあってもそれが維持されているなら、そっちが勝つわけなんですが。
まあ、とにかくオバマが予想通りに勝ち、これからは共和党のソウルサーチ、というかぶっちゃけ内紛がおこると思われるのでそれが楽しみです(苦笑)。
その内紛は、支持基盤をどこに求めるのかについてになるでしょう。ニクソンの南部政策以降、共和党は白人、特に南部の白人男性層をメインの支持層としてしてきました。しばしば、黒人やヒスパニックなどの少数派を白人層への脅威として描きながら。今回の選挙での各人種ごとの投票傾向は、その結果を示しています。
      ラムニー  オバマ
   白人  59%    39%
   黒人   6%    93%
ヒスパニック 27%    71%
  アジア系 26%    73%
保守派の論客であるパトリック・ブキャナンはニクソン政権で働いていた71年に、「国を二つに割り、大きいほうを取れば勝つ」というメモを書きました。実際、それで共和党は勝ってきました。昔は、白人有権者が圧倒的に大きかったので。しかし、今回の選挙では投票者中、白人の比率は72%で過去最低となり、さらに今後この比率は低下していくものと思われています。気が付けばいつの間にか共和党は割られた国の小さい方をとるようになってしまっていたわけです*3。この現状をどう変えていくかが重要なのですが、その為にはまず現状を認識することから始めなければなりません...
このブログでは、08年のオバマ勝利後に若手の保守派論客による共和党再生のためのネット戦略についての文章を訳しました。アメリカのネット上でのリベラル優位を覆すために、ネットを積極的に使って若者そして少数派を取り込んでいこうというものでした。実際、08年以降、共和党はより積極的にネットに取り組んだそうです。ただその結果は、元々共和党支持の高齢白人層がネットを使い始めるようになったという、なんというか苦笑いなものでした。結局、道具の問題ではないということですね。
この12年の敗戦後、若手の保守論客ロス・ドーサットがニューヨークタイムズのサイト内での自身のブログでその共和党の支持基盤の問題について書いていましたので、訳してみることしました。
追記:いやあ、訳注の一つで自分でも驚くような馬鹿な計算間違いをやってました。うーん、もうほんと恥ずかしい...
追記2:ジョン・ベイナーの役職名について「院内総務」と「下院議長」を勘違いしてることを@emigrlさんに指摘していただきました。ありがとうございます。
追記3:id:Yogokoroさんがブクマで下院は共和党が勝ったのじゃないかと書かれてますが、ちょっと違います。まだ全議席が確定したわけではないので数字は変わるでしょうが(2012年11月9日午後4時半現在)、現状ですでに民主党は下院の議席を3つ増やしています。未確定の残り9議席がたとえ全部民主党のものになっても共和党は下院での多数派を維持するのですが、議席を減らしての多数派維持は素直に勝ったと喜べるものではないでしょう。
 
オバマ・リアラインメント by ロス・ドーサット 2012年11月7日
一度きりなら、それは単なる勝利。だが二度続くなら、それはリアラインメント、支持基盤の再編成が起こっていることになる。
バラク・オバマが作り上げて、2008年に軽々と彼に大統領職をもたらした支持者の連合は、楽観的なリベラルが1990年代以来、政治の地平線上に発見し続けてきた民主党支持者の多数派*4にとてもよく似たものに見えた。それは1972年にジョージ・マクガヴァンの敗北した連合がようやく大人になったもののようだった。若者、未婚、アフリカ系アメリカ人、ヒスパニック、リベラルな専門職階層の有権者たち。そして、ラストベルト*5民主党に提供するのに充分以上の数の、歳のいったブルーカラーの支持者たちからなるものだ。
しかし2008年は特殊な政治的状況の年でもあった。ジョージ・W・ブッシュの非常な不人気が金融危機によって増幅され、そしてわが国初の黒人大統領を選出する可能性が国民の(そして全国のマスコミの)想像を掻き立てていた。そのため08年のオバマの多数派を、状況を変えるというよりは偶然の産物でしかないとみなすことはまだ可能だった。あるいは少なくとも、もろいものでしかないと。愚かな選択と危うい展開によって簡単にバラバラになってしまうものでしかないとみなすことが。
大統領の第一期目にはその両方が数多くみられた。オバマ政権は不況の深さを軽視し、健康保険法案と失敗したキャップ・アンド・トレードに政治的にのめり込み過ぎて、2010年の中間選挙でそのしっぺ返しを受けた。2008年以降、半死状態だった共和党は息を吹き返し、そして2012年の選挙期間中の様々な時点でオバマの多数派連合は危ういものに見うけられた。その政策的成果も危なくなっているように思われた。
そしてオバマの連合はもろいものだったのだ。選挙戦のはじめに私はそう考えていたし、10月半ば、ミット・ラムニーが選挙をものにするかと思えた時にもそう感じられた。そして、大統領が(得票数で)僅差の、しかし選挙人においては明白な勝利を収めた今も、そう思っている。
しかし今回の選挙の教訓は、オバマの連合を真にもろいものにするには、共和党がオバマの事を敵として真剣に考えなければならないということ、つまり、その多数派がどうやって作られたのか、なぜ有権者がそれに参加したのか、そしてレーガンとブッシュ時代の保守多数派が崩壊してしまったのはなぜかを理解しなければならないということだ。
そういった理解を、今年、共和党が得ることはなかった。部分的にはこの失敗は、共和党の代表であったミット・ラムニーのせいである。彼は大体において八方美人的なつまらない共和党員として選挙を戦った。彼の党を新しい時代に向けて再発明するのに必要なイマジネーションを見せるのではなく。ただ、ラムニーの最後の月の選挙戦はほとんど問題のないものだった。彼のディベートでのパフォーマンスはレーガン以来のどの共和党大統領候補よりも良かったのだが、彼は選挙戦の終盤でのリードを誇った数少ない挑戦者の一人として歴史の中に消えていく。いろいろな点で弱い候補ではあったが、リーダーとしての限界によってよりも、彼の党が変革を遂げることを特に望まなかったこと、1980年や1984年のレトリックとポジショニングが2012年のアメリカにおいても再び勝利するという信じていたことによって結局は敗れたのだ。
この信仰の力は、多くの保守派がオバマ政権時代が単に荒波の時期だったというだけでなく自明なまでに悲惨なものであったと主張する時の確信の中や、右派の中のあまりに多くの声があらゆる機会にイデオロギー的な成果を実現しようとするやり方の中に、保守派が左と右の間の選択を明確にすればするほど有権者は支持をしてくれるのだという確信の広まりの中に見ることができる。
また、この確信は評論家や今回の選挙までに連日、保守派から発せられた予測に影響を与えているものであった。単純な応援などを行うとは通常はみなされていなかった分析者たち(マイケル・バローネやジョージ・ウィルなどを私は考えている*6の多くが、ラムニーの勝利を予測したこと、それも圧勝を予測したのも驚きであった。レーガン以来、共和党へ向かったことのない諸州もとるというのだ。しかしそこまで夢見がちでなかった保守派も、つまり、まあ私のようなものも、共和党の支持基盤を過大評価し、民主党の拡大する人口学的優位を軽視した有権者のモデルを受け入れていた。
そういったモデルは2012年について誤ったものであった。そして2016年にも2020年にも正しくはないだろう。共和党員は獲得票数が僅差だったと自分を慰めることはできる。共和党に有利な2014年の上院選に目を向けたり、下院の多数派をまだ維持していることに安心することもできる。
しかし火曜日の結果は、オバマ大統領がその一期目において実施したリベラルな政策の多くを是認するものだった。ホワイトハウスが、より介入主義的な政府を賄う為に税収の少なくとも一部を引上げさせることを可能させるものであったし、これは共和党が自身の連合を生み出す黄金のチャンスを逃してしまったことを意味する。
この意味で、民主党が下院を支配していたのにもかかわらずレーガンの共和党が1980年代を独占したように、我々の時代は、ジョン・ベイナー*7がいまだに下院の院内総務下院議長ではあっても、はっきりとオバマの民主党のものとなっているのだ。
この時代は永遠には続かない。次の4年すら持つことはないかもしれない。現在の民主党多数派はその矛盾を内部に抱えているし、支持者の人口構成が広がるにつれて、様々なところからの攻撃に脆いものになるだろう。党とはその敗北の時に思いもかけないほどの柔軟性をみせるものだ。ミット・ラムニーが失敗したところにおいて成功する共和党の大統領候補が現れる日はいつか来るだろう。
しかしこの日の為には、保守派は現実を直視しなければならない。レーガンの時代は公式に終わったのだ。そしてオバマの多数派が今、我々の持つ唯一の多数派なのである。

*1:フロリダの票差は5万票で0.6%ポイントほど。すでに開票率は100%となっていますが、[http://goo.gl/olUvD:title=不在者投票の集計などで時間がかかる]らしいです。他の州はすでに結果を出してるのに、よくわかりませんが。

*2:理屈の上では。実際はあまりに小差だと数え直しになり、さらに揉めると[http://goo.gl/4BhXI:title=票数についてはわからないまま裁判で決着]がついたりすることもありますが。

*3:勿論、いまだに白人有権者が7割を占めているわけですが、その7割中の6割しか取れないのでは、0.7*0.6 = 0.42で42%ほどにしかなりません。とすると選挙に勝つにはあと8%ポイント必要ですから、残りの投票者3割のうち4割くらいは抑えなければなりません(0.3*0.4 = 0.032)2割7分は抑えなければなりません(0.3*0.27=0.81)。でも現状ではのこり3割の投票者の2割以下しか取れていません。

*4:2002年に出版された[http://goo.gl/EuEZg:title="Emerging Democratic Majority"]のことですね。90年代のクリントン時代から民主党支持者は、民主党支持の大連合の誕生を夢みてきたわけです。まあ、2002年の時点ではかなり望みのないものにみえましたが。因みにこの本は、1969年に出版されて、その後の共和党支持の連合を予測した[http://goo.gl/xzeSe:title="Emerging Republican Majority"]のタイトルをもじったものです。

*5:今回の選挙の鍵となったオハイオなどの中西部の工業州のことです。

*6:これらの保守派は[http://goo.gl/SLMX6:title=選挙の直前にラムニー勝利を予想]していました。

*7:共和党下院議員。