P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

クルーグマン: モデルとしての日本

またクルーグマンの翻訳です。日本がらみだと訳してしまいますね。クルーグマンはリベラルですが、アベノミクスが上手くいくことを願っています。俺も安倍政権は好きじゃないですが、いい加減日本の経済的衰退にはうんざりなので、ほんとにアベノミクスに成功してもらいたいです。
 
モデルとしての日本 2013年5月24日
一世代前、日本は経済的模範として広く称賛され、そして恐れられていた。ビジネス書のベストセラーはその表紙にサムライをのせて、日本式経営の秘密を教えると約束していた。マイケル・クライトンのそれ*1のようなスリラーは、日本株式会社を急速に世界を支配しつつある止められない力として扱っていた。
そして、日本は終わりがないような景気停滞に落ち込んでしまい、すると世界の大半はその興味を失ってしまった。主な例外は比較的わずかな経済学者たち、今は連邦準備制度の議長であるベン・バーナンキ(pdf)、そして読者諸兄の親愛なる友人(pdf)*2などを含むグループであった。日本にとりつかれた経済学者たちはこの島国の経済問題を日本の無能さの表れではなく、我々すべてへの予兆であるとみなしていたのだ。もし、とある豊かで政治的にも安定した大国がこれほどまでによろめく事があるのなら、同様のことが他のそういった国々にも起こりえるのではないのか?そう彼らは考えたわけだ。
そして本当に、そういったことは起こりうることであり、そして起こってしまった。ここしばらく我々は、経済的な意味で、みな日本人である。これこそが、その全てが始まった国における現在進行中の経済的実験が非常に重要である理由だ。日本にとってだけでなく、世界にとって。
ある意味では、安倍晋三首相の政府によって採用された金融・財政刺激政策への急転換である「アベノミクス」について本当に大切な点は、他の先進国が同様なものをまったく試していないということだ。実のところ、西洋世界は経済的敗北主義に圧倒されてしまっているように思われる。
たとえばアメリカでは、今回の経済危機の前の4倍もの長期的失業者がいまだにいるにもかかわらず、共和党は偽のスキャンダル*3についてしか話したくはないようだ。そして、公平にいって、オバマ大統領も雇用創出についてどんなものであれ力強いことを公式に語ってから、ずいぶん長い時間が経っている。
それでも少なくとも我々は経済成長している。ヨーロッパ経済は不況に逆戻りで、しかも過去6年の間の成長は1929年から1935年の間の成長をすこしばかり下回っているのだ。一方、失業については増加を続けている。それでも政策の大きな転換はきざしもない。せいぜい、ブリュッセルとベルリンが債務国に押し付けていた厳しい緊縮政策が幾分ゆるめられたように見えるくらいだ。
日本の政策当局者が、北大西洋周辺で聞かれるような無策へと同じ言い訳をするのは容易なはずだ。急速に高齢化する人口に縛られてしまっているとか、経済は構造的な問題によって押しつぶされているとか(そして日本の構造的問題、とくに女性に対する差別などは伝説的だ*4)、負債が大きすぎるとか(経済規模でみて、ギリシャよりも大きい)。そして過去においては、日本の当局者は実際そういった言い訳をするのが大好きだった。
しかし真実は、安倍政権がどうやら理解したらしい真実は、こういった問題の全ては経済停滞によって悪化してしまっているというものだ。短期的な成長押し上げは日本の病の全てを癒したりはしないが、しかし、それ*5が実現できれば、はるかに明るい未来へ向けての最初の一歩となりえる。
では、アベノミクスはうまくいっているのだろうか?安全な答えは、判断するには早すぎるというものだ。しかし良い兆候はみえる。そして、日本株の木曜の急激な下げはこれを変えるものでは全くない。
良好なニュースは、今年最初の四半期の日本の経済成長が驚くほど高かったことから始まった。実際、合衆国よりもずっと高い成長だったのだ。その間、ヨーロッパ経済は縮小を続けていた。一四半期の数字にあまりに多くを読み取ろうとするのは良くないが、それでもそれは見たいと思える数字だった。
その間、日本株は上昇し、そして円は下落した。疑問に思われるかも知れないから答えるが、弱い円は日本によって非常に良いことだ。輸出産業の競争力を高めるからね。
一部では日本の長期金利の上昇に警戒の声が出ている。この金利はまだ1%未満なのに。しかし金利と株価の上昇の組み合わせは、その両方が日本の支払い能力への心配ではなく、楽観論の高まりを反映したものであることを示唆している。
確かに、日本株の木曜の売りは楽観論に小さな傷をつけた。しかし株価はいまだに去年よりもずっと高いままで、私はアメリカ株が特に理由もないまま20%以上も急に下落したが景気への影響は全くなかった1987年のブラックマンデーを覚えている年寄りだ。
よって経済を立て直そうとする日本の努力についての全体的な評価は、これまでのところ良好だ。そしてこの評価がこのまま維持され、時とともに高まっていくことを望もうじゃないか。もしアベノミクスが上手くいくならば、それは日本にとって非常に必要な成長の押し上げをもたらし、その他の世界には政策の無気力さへの非常に必要な解毒剤を与えるという、二つの目的を果たしてくれるのだから。
最初に述べたように、現時点では西洋世界は深刻な経済的敗北主義に陥ってしまっているように思われる。我々自身の問題を解決しようとすらしていないのだ。これは変わる必要がある。そしてもしかしたら、ほんとうにもしかだが、日本はその変化の旗手となりえるのだ。

*1:こういうの。http://goo.gl/NPkrw

*2:クルーグマン本人の事。

*3:IRSやベンガジがらみでなんとかオバマにダメージを与えようと共和党が画策している。

*4:どっかの誰かのせいで。

*5:成長の押し上げ。