P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

「神曲ができるまで」

井上ヨシマサというとAKB48グループの色々な曲の作・編曲を手掛けている作曲家さんですが、実は80年代から活躍していた方だったそうです。この本はその自伝です。

神曲ができるまで

神曲ができるまで


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この「ハロウィン・ナイト スタッフversion」においてセンターで踊っておられるアフロの御仁でございます。

正直、買う気はなかったのですが、宣伝の為になのか出られていたラジオを聞いた翌日に本屋に行ったら見つけてしまったので、まあこれも縁かと買ってみました。1000円と安かったし。

自伝ですが、文章からするとおそらく口述筆記なのでしょう、たぶん。帯には秋元康の「井上ヨシマサは天才である」という言葉が書かれてます。秋元康は高校生の時にラジオの構成作家になりましたが、井上ヨシマサさんは中学生の時にアイドルジャズバンドの一員としてプロデビューをし、その後も高校中退して音楽で食っていく道を探って、二十歳そこそこの頃に作曲家の長者番付に入っていたそうで*1、天才かどうかはわかりませんが早熟の才人なんでしょう。で、その才人の自伝なのですが、秋元康と初めて仕事をしたのが1994年、28歳の時で、この150ページ無い短い本の46ページ目、約3分の1のところです。ここまでは全然、AKBに触れていないのですが、ここから3分の2ではどんどんAKBに触れていきます。その為、正直、この本のバランスが悪く感じられました。

勿論、私がこの本を買ったのは著者がAKBの作・編曲家であったからなので、AKBに触れてくれるのは良いのです。というか、一杯触れてくれたらいいのです。ですが、建前的にはこの本は自伝でありAKBについてではありません。なので大島優子の「泣きながら微笑んで」におけるエピソード*2とかもあったりはするのですが、これがそんなに深くはならないのです。AKBヲタ的には物足りない。なのにあまり一般知名度がないようなメンバーの名前が説明抜きで出てくるして、非ヲタの読者にとってはわかりにくい、というより置いてきぼり感もあるのではないかと思ってしまいました。一応、建前としては誰でもが対象なのに、実際には「ぶっちぇけ、AKBヲタですよね、皆さん」という感じの文章があったりするわけです。けれどでも、AKBヲタが本当に求める方向では書かれていない、なぜなら作曲家の自伝という建前だから。バランスが悪い。いや、現実的にはこの本を買う人の大半はAKBヲタでしょうから、それを前提にした文書は当然なんでしょうが、だとするならもうちょっと「AKBについて」であってくれたらいいに。バランスが悪い、あるいは狙いがニッチ過ぎて私が外れてしまっているだけかもしれませんが。このバランスの悪さ、あるいは何かずれている感はAKBがらみだと以前にもこの本で感じました。

AKB48とブラック企業 (イースト新書)

AKB48とブラック企業 (イースト新書)

タイトルからするとこれはAKBがブラック企業だと批判している本であると思われるかも知れませんが、実はそうではなく...AKBのメンバーの労働環境が厳しいという指摘はあったりするのですが、しかしAKBがブラック企業だと言っているどころか、ブラック企業についての批判とAKBの昔の公演曲についての解説が混在し、辛い事があってもAKBの曲を聴いて励まされたりするとか語っていたりするという、何のためにこんな事をしたのかよく分からない非常に混乱させられる本なのです。ここ数年でAKBヲタになった私としては公演曲や昔のことを教えてくれた本でしたので良かったのですが、AKBに興味がなくてブラック企業についてだけ興味があった人達からすると非常にうっとうしい本だと思います。そしてまた、AKBについてだけ興味ある人達からすると、ブラック企業についての要らん文章が多いし。ブラック企業とAKB、売れそうなネタを二つを混ぜて本にしたらもっと売れるんじゃないだろうかという企画はわかるんですが、編集の方は中身についてこれで良いと思ってたんでしょうか?個人的には非常に楽しい本だったのですが。

*1:昔はそういうのが公表されていたんですなぁ。

*2:0048から入った私としてまして、まさに「優子さん!」なエピソードで良かったです。