P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

「Love Trip」MVについて

AKB48の2016年夏曲"Love Trip"のMVがフルで公開されています。このMV、良いです。

この曲は日本テレビの「時をかける少女」の主題歌であり、そのアニソンっぽい曲調自体結構好きでしたが、テレビでの初見時にそのダンスでもって更に気に入りました*1。そしてそのMVがフルで公開されて、今のところ非常に気に入っています。最初に観た時は夜中だったのですが、そのまま3回ほど続けて観てしまいました。今年のアイドルのMVとしては、リリスクのスマホ用MV "Run and Run"

RUN and RUN / lyrical school 【MV for Smartphone】
、そして欅坂46の「サイレント・マジョリティ」のMV

欅坂46 サイレントマジョリティ
が話題になりましたが*2、このLove TripのMVはこれら並みに優れているのじゃないかと思います。ただそれぞれ方向性が違っていて、Lyrical Schoolのは技術の進歩に合わせたMVのみせかたの新しいアイデアであり、欅はアニメ的なカッコよさ。対してこの"Love Trip"のMVはまさにタイトルにある愛に満ちた(ような)優しい世界を巧みな演出と編集で作り出した点です。


【MV full】 LOVE TRIP / AKB48[公式]

ぶっちゃけ、このMVはほんとうにLove Tripという曲の為のMVになっているのか、ちょっと疑問なんですが、一つの映像作品としてとてもよく出来ているのではないでしょうか。なのでAKBヲタとして応援の為の記事を書きたいと思っていたのですが、どうにも筆不精で指がタイプへの消極的徴兵拒否をしていたところに次のようなブログ記事を発見、申し訳ないのですがこの記事を補助ロケットとして利用させていただいてこの応援記事を書こうと思った次第です。

at-home.hatenablog.jp

このブログ記事は、

「LOVE TRIP」のMVはAKB48史上トップクラスの失敗作である、と思う

と主張しています。上に述べている通り、私の感想は全くの真逆です。勿論、作品の感想は人それぞれであり、事実についての間違いがないのならば、それぞれの感想が間違っていたり正しかったりするわけではありません。なので、この記事は上記記事を批判する意図があるものではありません。単に、俺も語りたい!ってだけの事です。あるMVが良いか悪いかなんて、何度も書いてますが人それぞれなんだから。

さて具体的には、上記記事がLove TripのMVをダメだとする理由を3点挙げていますので、そのそれぞれについて私の感想を書いていきたいと思います。

1.「告れ日本プロジェクト」という必然性のない企画
まずこの点について、確かに必然性とか言われるとない企画でしょう。この告白企画はLove Tripと両A面となる「[しあわせを分けなさい」
www.youtube.comゼクシーのCMソングに選ばれている事に関連しての企画なのかとは思いますが、確かに少なくともこれが出てくる事にはなぜ?という疑問がわいて当然です。とはいえ、必然性のなさが悪い事である事を意味するわけではないですし、もしゼクシー関連での企画なのならAKBの財政事情の為にヲタとしては生暖かく見守りたいものです。あと、これは「告れ日本」とLove Tripの間の関係としては微妙ですが、少なくともLove Tripと主題歌タイアップ先の「時をかける少女」との関係について、主題歌タイアップの関係上秋元康に少しばかり鞭が入り、秋元康が職人に頑張ったのが今作なのではないかと思うからです。これはカップリングであり、熱闘甲子園のテーマソングである「光と影の日々」だと更にじゃないでしょうか。年間100曲以上(200曲近い?)の作詞をおこなう今の秋元康はしばしばおそらく作詞時に目についたもの、思いついたものをあまり練りこまずに詩にしているのではないかと思ってしまう状況だったりするのですが、こういうタイアップという縛りは、かつてのようなメンバーへのあて書きが難しくなっている今の秋元康を助ける枠組みになっているのでないかと思うのです。そういう縛りがないと、「翼はいらない」のような「紙飛行機」の成功を受けての秋元本人のノスタルジーを開放したような曲・MVばかりになりそうで(汗)*3
 
 
2. 告白という題材にそぐわない楽曲
上記ブログ記事はこのLove Tripが

暗に"告白しなかった恋が一番"というメッセージを内包している

としています。ですがこれには全く同意できません。それだと「脳内パラダイス」じゃないですか。
www.youtube.com
Love Tripは

ずっと言えなかったことがあるんだ
僕は今日まで後悔し続けている
自分の気持ちを隠していたことを
好きと言えなきゃ 夏は終わらない

という歌詞からしても、踏み出さない方が良いという曲ではなくて、踏み出せなかった故の後悔についての曲であり、ですから告れ企画にダイレクトにつながった歌詞になっていると思います。今回の企画の決定時期がいつだったのかはわかりませんが、このLove Tripが時かけの主題歌かつ告れ企画の決定後に書かれてたものだったと考えた方がそうでないよりはありそうじゃないですか?
 
 
3. 企画を活かす気ゼロの演出と構成
これもまったく同意できない、というか全く真逆の感想となる理由です。Love Tripは曲そのものよりもこのMVが良いと思うのですが、その良さは企画に即した演出・構成と、巧みな編集だと感じます。love TripのMVでは12組の素人の「告白」が映されるのですが、上記ブログそしてその他からのこのMVへの批判として、ろくに知らない素人の告白に共感できないというものがあります。

……でもさぁ、これってAKB48のMVだよね?

ファンは素人の告白が見たいのではなく、メンバーの反応が見たいのだ。さらにいえば、素人の告白を本気で応援して、どうしたら成功するか真剣に考えて、結果、依頼人と心から喜んだり悲しんだりするメンバーを見たいんだよ。なのに、このMVで映っているメンバーときたら、ついさっきバスで到着して、五分前に知り合ったっぽい人の告白を覗き見して、成功したから大喜び。

嘘つけ、そんなさっき会ったばかりの奴に感情移入できわけないだろ!

これがAKB48のMVなのかという疑問については当然のものだし、ある意味、違うと思います。メンバーの魅力を見せる事を追求していないMVですから。実のところMVのそもそもの存在理由である楽曲Love Tripについても、このMVはダイレクトに曲に貢献するというよりも、MVとして魅力的であることによって、実はBGM感すらあるLove Tripの魅力を高めているというものになっています。そしてMVを魅力的にしているのが、ろくに知らない素人の「告白」の切り取りとつぎはぎの演出と編集にあると思います。ツイッターで"Love Trip"と検索すればいくつも出てきますが、ろくに知らない素人の12パターンの「告白」は、視聴者に素人のバックグラウンドについての情報をろくに与えない事で、名探偵が関係者一同を部屋に集めたところから始まるミステリーのように美味しいとこどりをしたものになっています。登場人物たちは、みんなそのあたりにいそうな素人なわけで、彼らは個人であると共に「普通の人」という記号を背負っているわけです。結局、告白にはそれ以上のキャラクター属性は必要ないですから。さらに一組を除いて若者ばかりの告白は、「青春」の記号も抱えています。高校野球を観て感動するために、選手たちのバックグラウンドを知る必要は無いわけです。勿論、バックグラウンドを知っていれば更に感動したりもしますが、その逆の結果もありえます。短い時間のMVで確実な結果を残すには豊富すぎる情報はリスキーだったりしますから、メンバーから告白する素人への描かれている以上の介入は不要なんだと思うんです。大切なのは、メンバーが本当のところどう感じているかではなく、視聴者がどう感じるかだという事です。これは視聴者に観てもらう為のMVなんですから。そして更に言って、ぶっちゃけある程度歳がいってくると、「若者」が頑張っているというだけで心揺さぶられたりするわけなので。
 

AKB48の「LOVE TRIP」のミュージックビデオ、泣けるなあ。歳なのかなあ。みんな、頑張れ。
秋元康の755.

 
このMVでは単に告白だけでなく、スタッフによる告白当事者の周辺人物達への歓喜の演出指示が当然入っているはずです。そういう演出込みの告白がテンポよくかつ曲とも合致して続いた上で、Love Tripという曲自体のクライマックスへとつながり、そして最後の告白へ。先程も書いたように美味しいところどりをした演出はMVという短い時間*4の作品において有効に働いています。これが更に長い作品だったならちょっと持たない、あるいは「泣かせる系演出が露骨な邦画」ぽい事にもなりえたでしょうが。
 

という訳で、このMVは一作品としては相当良い物になっていると思います。ですが上記ブログの方が述べている批判で一点、同意せざる得ない問題があります:AKB48のMVとして本当にこれでいいのか?
通常のシングルのMVなら、作品として良いのだからそれで充分と言っていいとはずですが、残念ながらこのLove Tripは通常のシングル曲ではなく選抜総選挙曲なので、MV中でのメンバーの扱われ方について運営はセンシティブである必要があるのではなかとは、正直思います。2016年総選挙1位の指原は勿論、そこから5位の柏木由紀までの5人のメンバーはMVではっきりと映っていますが、その他のメンバーについてはかなり微妙になっています。それでも印象に残る程度には写っているメンバーもいますが、応援するヲタが大金を投入して選抜へと押し上げたメンバーの何人かはよほど注意深くなければ見落としても不思議はない、まるで印象に残らない程度にしか映っていなかったりします。この点について憤るヲタがいても変じゃないはず。
しかしそれはヲタ以外の一般視聴者にとっては重大なポイントではないですし、そしてこのMVは「告れ日本 プロジェクト」企画の一環として目線はヲタではなく一般層を向いているのでしょうから、それは正しい判断であったのでしょう。とはいえ、AKBにお金をつぎ込んでいるのは濃いヲタであって一般層ではないので、そういうヲタの為にメンバー全員がちゃんと映っているダンスバージョンとかを別で作って欲しい!とは、私もおもいます。

*1:SKE48の夏曲「金の愛、銀の愛」もこのパターンでした。曲を最初に聞いた時は、松井珠理奈主演ホラードラマの主題歌という事情もあっての暗い曲調の為あまり気に入らなかったのですが、テレビでのダンス込みの初見時に、そのホラードラマの暗さを逆手にとってなのかのちょいキモ目のゆらゆらとした動きに心を掴まれてしまいました。ただ残念ながらMVは、少なくとも現在公開中のスペシャル・エディット・バージョンとやらについては、そのダンスがちゃんと映されないのでLove Tripと違って評価がガクッと落ちましたが。

*2:アイドルMVでないのでは、岡崎体育の「Music Video」も良かったですね。

*3:いや、「翼はいらない」も悪いとは思わないけど。

*4:と言っても8分ありますが。