P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

「物件探偵」乾くるみ

ミステリーで変わった探偵物というのがありますが*1、これもそういうタイプで、不動産の物件の気持ちがわかると初対面の人にいきなり語りだす女性が探偵役を務める短編集です。正直、そんなに面白くはなかったのですが、でもこれで終わっちゃうのは探偵役の女性が勿体ないなぁと思ってしまいました。

物件探偵(新潮文庫)

物件探偵(新潮文庫)

賃貸なり購入したマンションやアパートで起こる、事件という程ですらない微妙な謎。その微妙な謎に巻き込まれた各話の主人公の前に唐突に現れる女性、不動尊子(ふどうたかこ)。子供の頃から「不動さん」と呼ばれてきたが故に不動産屋になる事を目指して15歳で宅建資格を取ったが、気が付けば物件の気持ちが分かるようになってきたという事をとうとうと語る彼女がその物件にまつわる微妙な謎を解決していく!(そして解決後に片目から一粒の涙)というフォーマットの短編集なのですが、なんか微妙。各話それぞれ、登場する物件についての色々詳細な情報が書き込まれていて、職業もの漫画に近いような印象も持ちましたが、それが特に面白さにつながっているわけでもなく。実のところ、探偵であるはずの不動さんにしても*2、彼女の登場から謎の解決につながりはするのですが特に探偵的な活躍をするというわけでもない話があったりするし。彼女は各話、繰り返し変人として登場してきてちょっと笑ってしまうくらいなんですが、毎話その登場シーンが彼女のクライマックスでその後尻すぼみのような感じになってしまいます。探偵である不動さんがあまり活きていない印象なんですよね。上に書いたように各話、物件についてはよく書かれているわけなんですが、だからと言って面白いミステリーになるわけでもなく*3。ただ不動さんの登場がなんか笑っちゃう感じになったという事は、個人的にはちょっと不動さんに好感を持つようになってたという事なのでどうも勿体ない。もうちょっと活かせなかったのかなぁと残念な作品でした。

*1:とか書いてますが、別にミステリーは詳しいわけではないので、多分あったよなという朧げな印象だけで知ったかぶっりしているだけです。

*2:ここで「不動さん」と書いてから、ふとある事が気になりました。この短編集、全話三人称なんですが、1話目だけなぜか登場人物の名前に「さん」がついていたりしているんです。これは「不動さん」の「さん」を強調する、読者に受け入れてもらう為だったのかな?

*3:さらに最終話はちょっと流石にどうなんろうだと思いましたし。