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P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

ケネス・ロゴフ:インフレを受け入れよう

ケネス・ロゴフ 経済学 金融危機

ケネス・ロゴフがイギリスのガーディアン紙に寄稿した、金融危機対策です。インフレを起せと言ってられます。まあ、それはいいのですが、起した後、行き過ぎてしまう可能性はどうするのかについての答えが...そんなに簡単なら、ヴォルカーのインフレ退治はなんだったんだと。
インフレを受け入れる  ケネス・ロゴフ  2008年12月2日

今は、世界の主要中央銀行が、適度なインフレの発生は現在の負債に関する大問題の中で、大いに助けとなってくれるだろう事を認める時だ。
確かに、インフレは経済の中の[インフレに]連動されていない全ての債権の実質的な価値を削減してしまう、アンフェアなやり方ではある。物価のインフレにより、債権者は減価した通貨での返済を受けることになる。確かに、原則的にはインフレに拠らずに金融システムの問題を解決するすべがあるはずだ。[だが]残念ながら、銀行への資本注入や住宅ローン債務者への直接救済を含むそのような対案を検討してみると、インフレは障害ではなく、助けとなる事がやはりはっきりしてくるのだ。
現代の金融システムは、負債の処理への通常のアプローチとして、眩暈がしてくるほど複雑な債務不履行のdynamic(?)を作り上げてしまった(Modern finance has succeeded in creating a default dynamic of such stupefying complexity that it defines standard approaches to debt workouts.)。証券化、ストラクチャード・ファイナンス、そしてその他のイノベーションによって金融市場の様々なプレイヤー達が結び付けられ絡まりあっている為に、一時に一つずつ金融機関を再建してゆく事は事実上不可能になっている。システム全体の救済策が必要なのだ。
短期の穏やかなインフレ−−たとえば、2年間の間6%など−−は、帳簿を清算してはくれないだろう。しかし、それは問題を大幅に改善して、他の手段のコストを引き下げ、より効果的にしてくれる。
一端、インフレの魔神がランプの外に出てしまえば、それをもとに戻すのに数年もかかってしまうというのは正しい。1980年代や1990年代の反インフレの戦いをもう一度行いたいと思うものなど誰もいない。しかし今現在、世界経済は破局への崖っぷちでよろめいているのだ。我々は既に世界的な不況の中にいる。政府が問題に対して先手を打たなければ、1930年代以来経験する事がなかったような深刻な世界的景気後退の危険を冒すことになる。
必要な政策手段は積極的なマクロ経済的刺激策だ。理想的には財政政策は減税とインフラ投資に集中すべきだ。中央銀行は、すでに利子率をあちこちで限り切り下げていっている。世界中の政策利子率はゼロ%を目指すべき。合衆国と日本は既にそこにいる。イギリスとユーロ・ゾーンもいずれはそこを目指して進むことになる。
金融システムの資本強化と再規制の為の手段も取られなければならない。合衆国、イギリス、そしてユーロ・ゾーンと他の多くの国で事実上そうなっているように、金融システムが政府による救命処置を受けつづけているようでは、大きなリスクがいつまでも消えくれはしないからだ。
世界の大銀行の大半は事実上、債務超過の状態にあり、なんとかやっていく為に政府からの継続的な援助と融資に頼っている。多くの銀行がすでに住宅市場での損失がどこまでになるかわからない事を認めている。だが不況が深刻化してゆくなか、銀行のバランスシートは商業不動産、クレジットカード、株式、そしてヘッジファンドなどでの債務不履行の波によって更に傷つくことになるだろう。各国政府は銀行の公然たる国有化は避けようとしているが、彼らは第2、第3の資本注入を迫られる事になるだろう。
アメリカ政府が資本強化と、3000億ドルの不良債権からの損失の為に450億ドルをつぎ込んだ金融大手Citigroupの巨額の救済ですら、おそらく結局は不十分だった事が判明するだろう。何兆ドルもの融資のスワップ市場のような、その他の問題を見渡してみれば、金融市場の穴は納税者のドルだけで完全に防ぎきるには大きすぎる事は明白だ。
間違いなく解決策の重要部分は、預金者は完全に保護しつつしかし債権保有者はその限りにあらずとして、より多くの銀行を倒産させることだ。しかし、この道はコストが高く、そして痛みも大きいものとなる。
故に、インフレという手段に戻ってくるわけだ。負債の問題を改善してくれる上に、穏やかなインフレの短期的な発生は住宅不動産の実質(インフレ調整)価値を下げてくれる。そして市場がより安定しやすくしてくれる。十分なインフレなしでは、名目住宅価格は多分、アメリカであと15%、スペイン、イギリス、そしてその他の国々ではさらに大きい下落が必要だろう。インフレがあがれば、名目住宅価格がそれほど大きく下落する必要はない。
勿論、今のこの不況の中で、中央銀行がどんなものであれすぐにインフレを生み出すのは容易ではない。実際、デフレの、つまり物価の下落の継続を避けるのがやっとのようだ。
幸運な事に、インフレを生み出すのは精密科学の問題ではない。中央銀行が行わなければならない事は、政府の負債を購入する為にお金を刷りつづけることだ。その主な問題は、インフレが、5−6%ではなく、20%や30%のように高くなり過ぎてしまうかもしれない事だ。じっさい、この高くなりすぎてしまうかもしれないという恐れが日本銀行を10年もの間、麻痺させてしまっていた。しかし、この問題は、簡単に対処できる。優れたコミュニケーション手段があれば、インフレ期待は抑えることができる。インフレは必要とあればすぐに抑える事ができるのだ。
今日の1世紀に1度の金融危機を解決するには手持ちの道具を全て使う必要がある。世界恐慌の可能性の前にしてのインフレへの恐怖は、ペストを前にはしかを恐れれているようなものだ。