「ロンドン幽霊譚傑作集」
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ロンドンを舞台とする19世紀に書かれた幽霊や怪奇についての編者の夏木健次による短編アンソロジー。19世紀の小説というと文章がくどくどして読みにくい印象があるが(というか僕にはあったが)、現代の訳だという事もあって特別読みにくい事はなかった。実のところ、日本では江戸時代に発表された作品もあるのにも関わらず、現代社会との連続性を感じられたりもした(というとちょっと言い過ぎかもだが)。
でもだからといって面白いかとはちょっと別なわけで、やはり2世紀も、というか19世紀後半の作品ばかりだから1世紀半も昔の短編達なので、怪異について因果応報というか物語の起承転結がはっきりついているものばかりなのが作品としてやはり古めかしい感じはしたし、あとほぼ怖くない。その中でちょっと面白かったものとしては、「女流作家」に恋愛と錯覚させて都合の良いように使っておきながら裏切った出版社社長の元に、いつまでも会えないままにその作家の幽霊が何度も訪れて来るという「シャーロット・クレイの幽霊」(1879)*1とか、白昼堂々、主人公以外の人達にはハッキリ人間として何度も視認され続ける幽霊とかちょっとゾクっとしたし、死を告げるアイルランドの妖精バンシーがでてくる「ハートフォード・オドンネルの凶兆」(1867)もちょいコワな感じはあって良かった。あと、「降霊会の部屋にて」(1893)もミステリーぽい因果応報幽霊譚として良かったし、「隣牀の患者」(1895)も病室内での幸せな結末の幽霊譚として良かった。
でもやはり一番は、新居にとりついていた裸(?)で口の悪い美少女幽霊という19世紀イギリス幽霊物ではなくて現代日本の漫画においてこそ予想される設定の「令嬢キティー」(1873)かなと。この手のロリコンものがまさか19世紀末のイギリスで書かれていたとはなぁ。
*1:これ、著者の方が女性、つまり「女流作家」なので作中の「ただの〈作家〉ではない点が重要で、女流作家という呼称は性差の意味以上に、職業より趣味の雰囲気を持たせる意味がある」という文章とか、本人が感じていた事なんだろうな。