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P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

クルーグマン:忘れぬように

クルーグマン 金融危機

ちょっと久しぶりのクルーグマンニューヨークタイムズ・コラムです。テーマは次の金融危機を防ぐ為の金融市場改革、というかそれが行われない可能性についての危惧、というところでしょうか。
忘れぬように  ポール・クルーグマン 2008年11月27日

何ヶ月か前、経済学者や金融関係の政府高官の集まりで議論をすることになったことがあった−−何についてかと言えば、もちろん危機についてだ。多くの人が悩んでいた。ある政策担当の高官は、「なぜ我々はこうなる事を予想できなかったのだろう?」と訊ねていた。
勿論、これに対するたったひとつの冴えた答え*1として、私はこう言った:「『我々』って誰の事ですか、白人の旦那?」*2
とはいえ実のところ、その高官はいいところを突いてもいる。現在の危機は前例がないものだと言う人もいるが、実際は前例などいくらでもある。ほんとうについ最近採れたばかりのものまであるのだ。しかし、こういう先例は忘れ去られてしまっていた。よって、どうして「我々」はこれを予見できなかったのかの物語は、政策に対する明らかな意味を持つ事になる−−つまり、金融市場改革は急いで行わなければならないのだ。危機が解決するまで待ってはいけない。
先例について:なぜあんなにも多くの人達が住宅バブルのあからさまなサインを見逃したのだろう?1990年代のドット・コム・バブルがまだ我々の記憶に新しかったのに?
なぜあんなにも多くの人達が我々の金融システムは弾力的だと主張していたのだろう?アラン・グリーンスパンもそう言っていた。ヘッジファンド、ロング・ターム・キャピタル・マネジメントの崩壊が世界中の金融市場が麻痺に陥っていた1998年にだ。
なぜほとんど全ての人たちが連邦準備銀行の全能を信じ込んでいたのだろう?(太平洋を挟んだ)その片割れたる日本銀行が停滞した経済を動かそうと10年の間努力して失敗してしまったのに?
こういう疑問への理由の一つは、パーティーの雰囲気を壊す奴を好きな者はいないという事だ。住宅バブルが膨れ上がっている間は、貸し手は店舗にやってきたもの全てに住宅ローンを貸し出してそれで一杯儲けいていたのだ。投資銀行はそういう住宅ローンを光り輝く新しい証券に作り変えることで更に一杯儲けていた。借りた金でこういう証券を買い込んでは帳簿の上の利益をあげていたマネー・マネージャー達は天才に見えていた。そしてそのように報酬をもらっていた。一体だれが陰鬱な経済学者*3からそういった事の全てが実は巨大なポンジー・スキーム、詐欺でしかないんですよ、なんて事を聞きたいだろうか?
経済政策をつくる人達が現在の危機が来るのを見逃したのには他の理由もある。1990年代の危機は、そして2000年代初めの危機は、さらにひどい問題がやってくるぞという恐ろしい予兆として理解されるべきだった。しかし、その事に気がつくには、だれもが危機をやり過ごせた事を祝うのに忙しすぎたのだ。
とくに1997年−98年の危機の後に何が起ったかを考えてもらいたい。その危機は、規制の緩和された市場と、借り入れ比率を非常に高めたプレイヤー達(highly leveraged players)、そして世界的な資本の流れに基づいた現代の金融システムは危険なほどにもろいものなのだという事を示していた。しかし、危機が収まった後は、悩みではなく、勝利の喜びが世界を包んだ(the order of the day was triumphalism, not soul-searching.)。
タイム誌がグリーンスパン氏、ロバート・ルービン、そしてローレンス・サマーズを「世界救済委員会」と名付けたことは有名だ−−「三銃士」が「世界の崩壊を防いだ」のだ。実際、だれもが崖っぷちからの生還を喜ぶパーティーを催していた。そもそもなぜそんな崖っぷちまで行ってしまう事になったのか、だれも問うこともなく。
実際、1997年−98年の危機と、ドット・コム・バブルの破裂はもしかすると、投資家達と政府高官たちを警戒させるのではなく、更に慢心させてしまう副作用があったのかもしれない。どちらの危機も最悪の予想ほどではなく、新たな大恐慌をもたらす事はなかったから、投資家達はグリーンスパン氏が全ての問題を解決する魔法の力を持っていると信じるようになってしまった−−そして、金融市場の規制強化の全ての提案に反対したグリーンスパン氏自身もそうなっていたのではないだろうか。
そして、我々はいま新しい危機の真っ只中にいる。1930年代以来最悪の。今のところは、その危機へ目先の対応に全ての眼が向いてしまっている。連銀のさらなる積極策により、資本市場はついに解凍されてまた動き出すようになるだろうか?オバマ政権の財政刺激策は生産と雇用を回復させるだろうか?(ちなみに、私はいまだに政権の経済チームが十分に大きい対策を考えているのかどうか確信できない。)
そしてまた、我々はみな現在の危機の事を余りに心配しているので、長期の事を考える事が難しくなっている−−次の危機を回避するか少なくとも抑えるために暴走する金融市場を抑制することを。しかし、1990年代の経験は金融改革について考慮すべきだと、とくに今回の混乱の中心にある「影の銀行システム」を規制すべきだと、それも後でではなく、今すぐにそうすべきだと教えている。
いったん経済が回復の軌道に乗れば、やり手の連中はまた安易な金を手にするようになるだろう−−そしてそれを規制しようとする者全てに反対する猛烈なロビー工作を行う。その上、回復の成功は、そんなわけはないのに、まるで当然の事だったようにみなされるようになり、行動の必要性が認められなくなる。
だからここで、お願いをしておきたい:次期政権の予定はすでに一杯ではあるが、金融改革を後回しにしないで欲しい。次の危機を防ぐ為に動くのは今なのだ。

*1:ここ意訳です。

*2:俺はずっと警告してたろ、という事。

*3:"Dismal science"陰鬱な科学というのは経済学の別名。