P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

我はアシモフ:29.シオドア・スタージョン

というわけで、今日2本目の「我はアシモフ」、スタージョンの巻、です。


29.シオドア・スタージョン
1918年に生まれたシオドア・スタージョンの、もともとの名前はエドワード・ハミルトン・ウォルドー(Edward Hamilton Waldo)だった。しかし彼はその継父の名前を受け継ぐことにしたのだった。フレッド・ポール、ジャック・ウィリアムスン、レスター・デル・レイ、そしてその他と同じように、テッド(Ted)*1は難しい少年時代を過ごし、わずかの教育しか受けなかった。(わずかな教育は、もっと普通の職業に就くことを難しくする事で、執筆に人を向かわせたりでもするのだろうか?)
テッドは、最終的にサイエンスフィクションの執筆に取り組むようになるまで職を転々としていた。彼の最初の物語はASFの1939年9月号「高額保険 (Ether Breathers)」だった。これはハインラインの最初の作品の一ヵ月後、そして私の最初の二ヵ月後だった。キャンベルはこの幸福な時期に、毎月主要な作家を見つけていたのだった。
テッドは、レイ・ブラッドリ同様、特殊に詩的な作家だった。(ブラッドベリはキャンベルによって発見されたのではない1940年代の主要な作家の一人で*2、キャンベルにはほとんどまったく作品を売る事がなかった。二人共に単純に相手と馬が合わなかったのだ。しかしその事はブラッドベリを悩ませはしなかった。彼はそんな事に関係なく、栄誉と富を手にしていったのだ。)
詩的に書くことの問題は、的をうまく射ればその結果はすばらしいものとなるが、はずしてしまえばひどいものになってしまう事だ。詩的な作家は通常、不安定なものだ。私のような多作の作家は、いつだって高みには届かなかったりするが、しかし谷底に落ち込む事もない。しかし、テッドの物語はたいていうまくいっていた。
スタージョンはフェイ*3な人物である。(この形容詞がどういう意味か、私にはよく分からないのだが、それがどんな意味であろうと、テッドにぴったりなのだ。)彼は優しい話し方の、気持ちのよく(sweet)、そしてシャイな感じで、彼はまさに若い女性達が守ってあげたくなるタイプだった。その結果、彼は込み入った性的生活をおくり、私などには理解する気にもならないような複雑な結婚生活を送った。これは彼のフィクションにも反映されて、それは多種多様な愛とセックスをどんどんと取り扱うようになっていった。
彼は1940年代と1950年代に非常に大量に執筆していたのだが、スランプが深刻な問題となってゆき、人生の後半には彼は不安定な生活を送らざるを得ないようになってしまった。何度か彼は私に、不本意な恥ずべき事態におちいらずに済むように、いくらかの金額を頼む手紙を送ってきて、私は貸していた。
この点、私は「狙い目 (soft mark)」であって、何十人もの作家がいくらかの金を借りようとしてきた。今も昔も。こうなるのも、私は欲しいものが特にはないし、多額の金を使うような機会もほとんどないからだ。陸軍においてすら、ほかの兵隊達は給料日に払うからと私からの借金に列を作っていたものだった。タバコも吸わず、酒ものまないなら、お金はポケットに残るものなのだ。金を貸すたびに私は、借りるのではなく貸しているのだということに私は深い感謝を感じていた。
私はお金が返ってくる事は期待していなかった。貸すたびに実はこれはあげているんだと考える事で、私は、まず第一に*4、事態を現実的に捉えていたのだ。友達から金を借りざるを得なくなった人は、もはや返済する事ができない状態になることもあるものだ。そして当然ながら私は催促はしなかった。第二に、帰ってこないものと考える事で私は失望を避けることができた。しかしながら、いつもというわけではなくとも多くの場合、お金はちゃんと返ってきたのだという事は言っておかなければならない。
非ユダヤ人の友人がかつて、私にいくらかのお金を借りに来たことがある。そして私は一言も言わずに小切手帳を取り出し小切手を書いた。彼は6週間で返すと約束し、そして返してくれた。それから彼はこう言った。「最初にユダヤ人じゃない友人全員に頼んだが、皆、断ってきた。君はユダヤ人だから最後に頼みに来たのだが、君が金を貸してくれた」
私はこう言った、ほんの少しだけの皮肉を込めたつもりで。「あれ、利子も請求してなかったね。どうやら自分がユダヤ人だって事を忘れていたみたいだ」
しかし、スタージョンの事に戻ろう。テッドはかならず返済してくれた人だった。一度など、貸してからあんまりにも時間が経っていたので、貸した事も忘れていたぐらいだったのに。
勿論、こういう事は双方向に働く。一度、テッドが何人ものサイエンスフィクション作家を集めて、とあるラジオの企画に参加させたことがあった。残念ながら、その企画を主催していた人物はそれを実現する事ができず、作家達に報酬を支払わないまま企画を放棄してしまった。報酬の額は大したものではなかったが、しかしそれでも金は金であった。テッドは何ヶ月もその人物に払わせようと奮闘し、最終的にそうなって、小切手が関係した作家それぞれに送られた。私も含めて。
数週間後、私はテッドから悲しげな手紙を受け取った。報酬を支払わせるためにどれだけがんばったかを述べた後、彼は、「小切手を送った作家全員の中で、返信を書いて感謝してくれたのは君だけだ」、と書いていた。
ちいさな事で人に親切にするのは難しい事ではないし、そしてそうすればそのお返しに相手もまた小さな事で親切にしてくれるのも間違いない、私はずっとそう思ってきた。

*1:シオドア(Theodore)のニックネーム。

*2:"Bradbury was the one major writer of the 1940s who had not been discovered by Campbell"。「ブラッドベリはキャンベルによって発見されたのではない1940年代の主要な作家の一人」と訳しましたが、こういう意味なら普通は"one of the major writers who"となると思うので、誤訳じゃないかと思います。"one major writer"には「1940年代の主要作家でキャンベルによって発見されなかった数少ない一人」といった感じか、もしかすると「ただ一人の」といった具合の強調があるんだろうと思いますが、分かりません。

*3:研究社リーダーズから:「死ぬ運命の, 死にかけている; 死[災厄]の前兆となる; 異常にはしゃいだ, 高ぶった《昔死の前兆とされた》; 頭の変な, 気がふれた; 第六感のある, 千里眼の; この世のものでない, 異様な; 魔力をもった, 妖精のような; 奇矯な」。

*4:"I am, in the first place, accepting the matter realistically." "in the first place"の訳がいまいちですが。