P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

「アイ・アム・ア・ヒーロー」と「太陽」、あるいは邦画、面白いって!

しばらく前に、海外で日本映画を配給しているイギリス人の方による

「日本映画のレベルは本当に低い。最近すごく嫌いになってきたよ!」

という発言がちょっと話題になってました。
www.sankei.com
最近の日本映画がつまらないので面白い邦画のプロデュースにも乗り出しているそうで、日本映画への愛を感じますが、それでも日本映画に対する評価がちょっと厳しすぎる気もしてしまいます。この記事(やヤフーで配信された時)のブクマを見てもこの批判に同意している人が多いようです。ですが、そういう批判が想定している「日本映画」って邦画の中でも「大作」と呼ばれるタイプの作品の事ですよね。うまく当たれば映画興行収入ランキングの中に入ってくるような。そういう作品だけを考えれば「日本映画ダメ!」と言ってしまいたい気持ちもわからなくはないのですが、日本映画を観てる人ならだれでも知っているように、日本映画の大半はそういう「大作」とか呼ばれるような作品ではない*1わけです。そういう作品は目立つわけですから仕方ないとはですが、面白い邦画も作られていますって!と声を大にして言いたいと思った映画ファンは多いはず。
 
ですが、そういう非大作系の面白い日本映画って、
matome.naver.jp
こういうタイプの作品である傾向が高いです。つまりアクションとかホラーとかSFとかいうジャンルラベルを貼られない非ジャンル系の作品であったりします。勿論、それはそれでいいのですが、ジャンルに分類されるタイプの映画が好きな人間としてはそれはそれでちょっと残念と思っていたら、まさにそういうジャンルに含まれるで傑作を最近、日本ならぬ二本も観ることができて興奮しましたので、宣伝の意図も込めて書いてみます。
まず一作目は「アイ・アム・ア・ヒーロー」です。漫画原作な事もあり、これは日本映画としてはちょい大作よりかもしれませんが。

「アイアムアヒーロー」特報2
ゾンビものです*2。ということはホラーアクションものなわけで、正直、日本映画であまり期待が持てる分野ではありません。ですが、以前、1巻だけ読んだ原作は面白かったしと言う事という事で観に行ってきました。

  感想:びっくり、面白いじゃん!

そんなに日本のホラーとか観てるわけではないのですが*3、こんなにはアクション満載で面白いホラー作品が日本で出来るとは!とか思ってたら、エンドロールでアルファベットの韓国名が一杯出てきて...実はアクション部分については韓国の会社の力を借りて韓国で撮影されたそうで、そう言われるとなるほどなとなってしまいました。ぶっちゃけ、韓国映画となるとこれくらいのアクションも当たり前かなとは思いますが、これは日本映画なわけで、日本映画としてこれだけのアクション満載のジャンル映画が作れたのは素晴らしい事だと思います。また韓国での撮影というのも、今後の日本のアクション映画の為にはいい方法なんじゃないでしょうか。 
 
次はSF映画です。

映画『太陽』予告編
ウィルスによってノックスと呼ばれる新人類とキュリオと呼ばれる旧人類に分かれてしまった近未来の日本を舞台にした作品です。この映画自体は少し前から知ってましたが、ノックスとかキュリオという単語にイラついてしまって観る気がありませんでした。ですが、TBSの人気ラジオ番組ウィークエンドシャッフル、通称タマフルでのライムスター宇多丸さんのこの「太陽」映画評を少し聴いて興味を持ち、翌日が映画代金が1100円となる映画の日だったので観に行ってみることにした次第。すると、なんとまぁ、これは傑作SF映画でした!その感想のツイートがこれ。


「良い深夜アニメレベル」というのは観始めてすぐに感じた事です。これをなにか馬鹿にしているようにとられる人もいるかもしれませんが、真逆です。「良い」アニメレベルのSFを実写で出来るなんて、ちょっとした事件です。それの意味が分からない人は、たとえば「進撃の巨人」のアニメ版と実写映画版を見比べてみればいいと思います。
 
ノックスによって事実上支配される立場にある、荒廃した貧しいキュリオの村社会を主な舞台とすることでこの映画はSF映画的な背景やガジェットの作りこみをできるだけ避けています(お金、なかったんだろうなと)。荒野を見せて、核戦争後です!と同じ方法ではありますが、しかし静けさを切り取った美しい撮影により映画はチープさではなく豊かさを感じさせます。近未来SFっぽい背景・ガジェットが出るとちょっとお安い感じが出るところもありますが、切り取った画面設計で非常にうまくそれを隠していると思います。ラストちかくのゲート前の別れのシーンでは、スピル・バーグの「ブリッジ・オブ・スパイ」を思い出しましたし、ラストは若者の友情で終わっていくのですが、そっちではハーラン・エリスンの「少年と犬」*4を思い出しました。あんな陰惨な明るさじゃなくて、爽やかで美しいラストなんですけどね。そう、この作品はこれだけ美しい映画もそうないと思わせるくらい美しい、素晴らしいSF映画でした。

*1:実際、このイギリス人の方が面白い日本映画として挙げている作品も、またプロデュースしている作品もそういう「大作系」ではないはず。

*2:「謎のウィルスによって」云々ということなので、正確には違うのかもしれませんが。

*3:というか、ビビりなのでホラー物全般をあんまり観ませんが。

*4:原作の方。映画は未見。