「神曲ができるまで」
井上ヨシマサというとAKB48グループの色々な曲の作・編曲を手掛けている作曲家さんですが、実は80年代から活躍していた方だったそうです。この本はその自伝です。
- 作者: 井上ヨシマサ
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2015/08/21
- メディア: 新書
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ハロウィン・ナイト STAFF Ver. / AKB48[公式] - YouTube
この「ハロウィン・ナイト スタッフversion」においてセンターで踊っておられるアフロの御仁でございます。
正直、買う気はなかったのですが、宣伝の為になのか出られていたラジオを聞いた翌日に本屋に行ったら見つけてしまったので、まあこれも縁かと買ってみました。1000円と安かったし。
自伝ですが、文章からするとおそらく口述筆記なのでしょう、たぶん。帯には秋元康の「井上ヨシマサは天才である」という言葉が書かれてます。秋元康は高校生の時にラジオの構成作家になりましたが、井上ヨシマサさんは中学生の時にアイドルジャズバンドの一員としてプロデビューをし、その後も高校中退して音楽で食っていく道を探って、二十歳そこそこの頃に作曲家の長者番付に入っていたそうで*1、天才かどうかはわかりませんが早熟の才人なんでしょう。で、その才人の自伝なのですが、秋元康と初めて仕事をしたのが1994年、28歳の時で、この150ページ無い短い本の46ページ目、約3分の1のところです。ここまでは全然、AKBに触れていないのですが、ここから3分の2ではどんどんAKBに触れていきます。その為、正直、この本のバランスが悪く感じられました。
勿論、私がこの本を買ったのは著者がAKBの作・編曲家であったからなので、AKBに触れてくれるのは良いのです。というか、一杯触れてくれたらいいのです。ですが、建前的にはこの本は自伝でありAKBについてではありません。なので大島優子の「泣きながら微笑んで」におけるエピソード*2とかもあったりはするのですが、これがそんなに深くはならないのです。AKBヲタ的には物足りない。なのにあまり一般知名度がないようなメンバーの名前が説明抜きで出てくるして、非ヲタの読者にとってはわかりにくい、というより置いてきぼり感もあるのではないかと思ってしまいました。一応、建前としては誰でもが対象なのに、実際には「ぶっちぇけ、AKBヲタですよね、皆さん」という感じの文章があったりするわけです。けれどでも、AKBヲタが本当に求める方向では書かれていない、なぜなら作曲家の自伝という建前だから。バランスが悪い。いや、現実的にはこの本を買う人の大半はAKBヲタでしょうから、それを前提にした文書は当然なんでしょうが、だとするならもうちょっと「AKBについて」であってくれたらいいに。バランスが悪い、あるいは狙いがニッチ過ぎて私が外れてしまっているだけかもしれませんが。このバランスの悪さ、あるいは何かずれている感はAKBがらみだと以前にもこの本で感じました。
- 作者: 坂倉昇平
- 出版社/メーカー: イースト・プレス
- 発売日: 2014/02/09
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タイトルからするとこれはAKBがブラック企業だと批判している本であると思われるかも知れませんが、実はそうではなく...AKBのメンバーの労働環境が厳しいという指摘はあったりするのですが、しかしAKBがブラック企業だと言っているどころか、ブラック企業についての批判とAKBの昔の公演曲についての解説が混在し、辛い事があってもAKBの曲を聴いて励まされたりするとか語っていたりするという、何のためにこんな事をしたのかよく分からない非常に混乱させられる本なのです。ここ数年でAKBヲタになった私としては公演曲や昔のことを教えてくれた本でしたので良かったのですが、AKBに興味がなくてブラック企業についてだけ興味があった人達からすると非常にうっとうしい本だと思います。そしてまた、AKBについてだけ興味ある人達からすると、ブラック企業についての要らん文章が多いし。ブラック企業とAKB、売れそうなネタを二つを混ぜて本にしたらもっと売れるんじゃないだろうかという企画はわかるんですが、編集の方は中身についてこれで良いと思ってたんでしょうか?個人的には非常に楽しい本だったのですが。
なぜドナルド・トランプは人気なのか?
ドナルド・トランプについてのとある記事を読みまして、下の様なブクマツイートをしました。
トランプ人気の理由は、トランプが反移民・親社会保障という、民主・共和両党の政治家が占めていないポジションを取っているからではないかという記事。特に共和党の金持ちスポンサーは親移民・反社会保障だからな。 / “The conserv…” http://t.co/T2qJSZblXU
— okemos (@okemos_PES) August 28, 2015
すると私のツイートにしては珍しく非常に多いRTやお気に入りを受けましたので、その記事で書かれていたトランプの人気の理由について改めてブログで書いてみます。 続きを読む
シリアルキラーはなぜ白人男性のイメージなのか?
一つ前のポストで、「シリアルキラーは白人男性(。・ω・。)ノ♡」というアメリカの神話は間違いだという受け売りをしました。okemos.hatenablog.com
しかしこの神話はアメリカだけでなく、日本にもあったりします。
それがなぜなのかについても前のポストで触れるつもりだったのに忘れてしまってたので、その事についての受け売りをこの別ポストで書いておきます。
"Rule Golden" (黄金律) デーモン・ナイト
デーモン・ナイトの1954年の傑作!だと思うのですが、残念ながらあまり有名ではない作品です。でも傑作なんですよ。
初読がいつだったか正確には思い出せませんが、とにかく90年代に古本屋で買った
- 作者: ジョー・ホールドマン,岡部宏之
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1979/08
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留学やらなんやらで何回も引っ越しをして本を整理してしまううちにこの本も手放してしまってたのですが、思い出す事がよくある作品でしたので今回改めて原文の方を読んでみました。
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なんかバカっぽい表紙ですが、中身はいたってシリアス。アメリカ中西部において暴力を振るったものがまるで自身に暴力を振るわれたかのような痛みに襲われるという現象、つまり「他者から望む行為を他者にせよ」という黄金律(Golden rule)の逆である「他者になした痛みが己に戻る」という黄金律をひっくり返した(Rule Golden)謎の症状が人間だけでなく動物にまで発生。その為に、犯罪者に発砲した警官は銃弾の痛みに襲われ、屠殺場では食肉の為の屠殺が出来なくなり、さら監獄の看守たちも人間を閉じ込める事による精神的苦痛から退職者が出る始末。ゆっくりと拡大を続けるこの「目には目を」によって引き起こされた暴力からの逃避により社会が崩れていく状況を背景に、地方の小新聞社の社主である主人公が米軍の秘密の研究らしきものに気づいて調査を始めたところ、米政府からその研究施設への招待を受けてというところから物語が始まり、そしてまったく新しい世界への扉が開かれたところで物語が終わります。
読んでいて小松左京の
- 作者: 小松左京
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2015/01/28
- メディア: Kindle版
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作中で人類そしてある程度以上の知性をもった地球の生物全体が強制的な変化に直面してゆくのですが、正直、邦題が「黄金律」となっているこの作品は上でスターリンや毛沢東の名を出したことからも分かるように倫理的な作品には思えません。Golden ruleではなく、Rule Goldenなのはそのあたりの事をデーモン・ナイト自信が認識していたからというのもあるのでしょうか。「正しい事」を成す為の犠牲が正当化される、あるいは軽視される作品ですから。パワー・ファンタジーなどと揶揄される事もあるSFにおいてもこういう発想は基本的には否定される傾向にあると思いますし、アラン・ムーアの
WATCHMEN ウォッチメン(ケース付) (ShoPro Books)
- 作者: アラン・ムーア,デイブ・ギボンズ,石川裕人,秋友克也,沖恭一郎,海法紀光
- 出版社/メーカー: 小学館集英社プロダクション
- 発売日: 2009/02/28
- メディア: 単行本
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このRule Goldenにおける世界の変化もまさに「上からの」者たちである、まあ未読の方でも推測はもうついていると思いますので書きますが、宇宙人によってなされるわけですが、しかし作品の印象として嫌な感じがしません。それは主人公が最初はともかく基本的には巻き込まれ型であり、真相を知ってからも変化に関わっていかざる得ない立場にある事、そして「上から目線」の宇宙人も実はこの変化の為に大変なコストを支払っていることがあるからです。なので印象としては、冷静に考えれば膨大な命を奪っている酷い話なのに、主人公たち自身も膨大なコストの一部を支払っている事によって一見倫理的なように感じられます。経済学でいうところの清算主義っぽいというか。その仕組みによって上からの変化の押し付けの厭らしさを感じさせずに、大量虐殺に基づく苦難に満ちた楽園を読者に飲み込ませるこの作品は、踏み入れて良いのかどうか分からない領域に足を踏み入れる事を納得させている作品であり、故に何の悪意も込めずに傑作と言いたい作品なわけです。
『前田敦子の映画手帖』
元AKB48のセンターで、いまは女優である前田敦子によるアエラでの映画の感想の連載をまとめた書籍です。
- 作者: 前田敦子
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2015/04/20
- メディア: 単行本
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まっ、正直に言いまして、俺がAKBヲタになってしまったが故に購入して読み、さらにはこのブログ記事を書く気になった本であり、ぶっちゃけただの映画ヲタならわざわざ読まなきゃならないような内容の本ではありません。とはいえ、では全然ダメという事でもないわけです。少なくともそう感じるからこそ書いているわけですが。
この本を手に取ってみてちょっとビックリしたのが、出てくるタイトルの幅広さです。彼女が映画を積極的に観るようになったのが2012年の夏に「風と共に去りぬ」を観てからという事なのですが、それ以来多い時には1日に5作観ていたとか。その本数だと当然DVD/BDなわけで、実際DVD/BDのジャケ買いを良くするそうなのですが、映画館も今は無き新橋文化みたいな退職したおじいさんと仕事サボってる営業のおっちゃんぽい人しかいないような味わいのある(つまりボロな)映画館にまで足を運んでいたという情報が2013年に流れていて、結構大したものです*1。この本に出てくる作品タイトルだけで180くらいあり、そのほぼ全てを褒めてますが、世の映画の大半は褒められないものですから観たけど出していない作品が多数あるはずです。そしてその出てくる作品タイトルも、「アメイジング・スパイダーマン2」*2から「Once ダブリンの街角で」まで、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」から「喝采」まで、「隠し剣 鬼の爪」から「トガニ 幼き瞳の告発」まで、ハリウッド大作ばかりとか、過去の名作にこだわるとか、邦画だけとか、フランス映画の単館モノだけとか、そういう素人っぽかったりシネフィルっぽかったりする偏りがなく、ハリウッドのスーパーヒーローアクション大作からヨーロッパ映画、新作アクション物から過去の名作、邦画時代劇から韓国のシリアスな告発映画まで、ほんと観てる映画が多様で健全です。彼女が出演した「苦役列車」や「もらとりあむタマ子」
- 出版社/メーカー: キングレコード
- 発売日: 2014/06/25
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とか書いてますが、取り扱われる映画は映画評・感想本においては料理の具材であり、出てくる料理そのものではありません。そしてこの本の料理そのものは既に書いた通り、非常に薄口なわけです。ぶっちゃけ、映画評本として褒めやすい点がそんなにないわけです。でも、ダメではない。では、それをどう書いたら良いのだろうと思ってましたら、上手い事書いてる書評がありました。
「ミーハーかも知れませんが、例えばアカデミー賞の作品賞にノミネートされた作品をすべて見ていく、というのも私はありだと思っています。だって、絶対に外れがないから(笑)」と言い切る前田敦子は、女優になりたいという進路を選びながら、実にアイドル的な感覚で映画を論評し続ける。本稿は別にどこかからプロモーションを頼まれているわけでもないのだが、彼女のテキストを丁寧に読み進めていくと、その薄味が妙な中毒性を帯びてくるから面白い。時折、すっと入り込んでくる文章がある。テレビの世界では相変わらず、端的に人を攻撃する毒舌ブームだが、前田敦子の映画評って、その逆。つまり、「えっ、褒めるのにこの一言だけでいいの?」という「逆毒舌」で映画を讃えていく。詳しく語らない。その淡々さは斬新だ。
この後、「この本を、文章が稚拙と片付けたら負けだと思う」と題された段落に続いていくのですが、いやあ、流石に金貰ってるライターさんはなんとか考え出しますねぇ。実際、この本は映画ファン・ヲタが求めるような情報や、彼/彼女らを唸らせるような視点や文章はないので、普通に褒めようとするとすっからんな褒め言葉を並べるだけになりそうなんです。そんな気負ってる本じゃないわけなので。だけど、何度も書きますがじゃあダメかというとそういうわけでもないのが困ったところで。俺もAKBのヲタになったのが「あっちゃん」こと前田敦子のAKB卒業後の事なので、彼女に対してそれほど思い入れがあるわけではなかったのですが、ただそれでも彼女に対して興味をある程度は持つようになったのは、たとえば彼女主演作の「もらとりあむタマ子」での演技であったり、そして彼女の声がとても気持ちいいからであったりします*3。まあそれでも彼女のファンではないのですが。じゃあ、なぜわざわざこの本を評する為に頑張ってみようとしているのかというと、この本はあっちゃんの声の綺麗さに合った本であると感じたからなわけなのですよ!って、これだとほんとヲタヲタしい言い訳だなぁとは、はい、自分でも感じておりますです、はい。