P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

「日本エロ本全史」

安田理央著 太田出版
www.ohtabooks.com


タイトルにエロ本とありますが、実際には戦後すぐの1946年「りべらる」から2018年の「FANZA」までのエロ雑誌100誌*1について、その創刊号と簡単な歴史の紹介が書かれた本です。「戦後エロ雑誌全史」という方がより正確でしょうか。著者の方は長年エロ雑誌でライターをされてた人だそうなので、雑誌を「本」と言うのはエロ雑誌業界内でそうなってるんですかね。フレドリック・ブラウンの「発狂した宇宙」
honto.jp
でも、アメリカのSFファンがSF雑誌を「本」と呼ぶと書いてましたが*2

さてこの本、勿論、タイトルに喚起された下世話な興味によって購入したわけですが、正直感想を述べると、物足りない…エロとしての実用性が低いんだよ!とか言ってるわけでは当然無くて、この本はエロ雑誌業界総括の為、歴史を語る手法として過去から現在までの雑誌のある種のカタログとなっているわけですが、殆どの雑誌について割かれるページ数が2ページで写真も多めとなると、1誌あたりの紹介が物足りないものになりがち。さらに100誌の解説となれば正直、思い入れのない情報の羅列のように感じられる事もあり…とにかく、歴史として戦後のまだまだ抑圧的だった時代からエロ雑誌の浸透と拡散の時代へ、そして80・90年代前半までの爛熟の時代から90年代後半以降の衰退、そしてネットの死神の鎌から逃れる為にエロ雑誌が人妻熟女雑誌となっていく*3エロ雑誌の終焉の時代。そういう時代の変遷はわかります。とくに、エロ雑誌の終わりの時代については、コンビニに出かけるだけでその目撃者となれるわけですし。そういう歴史に興味を覚えますし、またこの本を読むとそんな雑誌があったのかとしばしば驚かされる雑誌の事もしれます。個々の雑誌やエロ雑誌業界の歴史に興味を惹かれるのですが、そこで終わってしまうわけです。エロ的にいえば、チラ見せされて興奮したのに触れる事は出来ずに生殺し状態というか。神だけじゃなく面白さも細部に宿っている事がよく分かる本でした。

*1:「りべらる」等々、必ずしもエロ雑誌として始まったわけではない雑誌もあるようですが。

*2:原著発行が1949年なので今でもそうなのかどうかはわかりませんけれど。

*3:現在のエロ雑誌の読者層はやはり高齢のネット弱者層なのだそうですが、その層の熟女需要に答えての熟女雑誌化なんですかね、やっぱり。

「ジェミニマン」

情報に間違いがありましたので修正、かつ太字部分を追加。


『ジェミニマン』本予告

宇多丸さんのおすすめに従いMovixさいたまでのハイフレームレート3Dで鑑賞。政府の殺し屋だった主人公が陰謀に巻き込まれて政府なりその他の悪の組織に襲われるが色々ぶっ殺してめでたしめでたしというお話の何百(何千?)度目かのリメイク。今回の主人公はウィル・スミスが演じていますが、本作の2つある特徴の1つがアクションについての敵役までもウィル・スミスが演じている点。あともう1つの特徴が、1秒24コマの通常の映画撮影ではなく1秒240コマ120コマ、3D、4Kでの撮影が行われたとかで、そのハイフレームレートでの撮影が活きる上映の場合、映像が通常の映画のそれとは全然違う点。実際、Movixさいたまでの120フレームでの3D上映(しかし2K)しかしはこれまで観たどの3D上映とも違っていて、リアリティとなまもの感がありました。また若いウィル・スミスの動きとかもキレッキレで良かったです。しかし結論としては、2700円するハイフレーム3Dで凡庸な、そしていまいちスッキリしない話運びの物語を観せられる、そういう映画でした。

映画「T-34」感想

一部で「男がやってるガルパン」とか何か次元が間違っている発言を目にして気になっていた戦車映画を観てきました。

800万人が熱狂した胸アツ戦車アクション/映画『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』予告編

以前、ブラッド・ピッド主演の「フューリー」

『フューリー』予告編

を観た時にその戦車アクションにものすごく興奮しました。そしてその劇中でのアメリカの戦車に対してドイツの戦車の強いこと、強いこと。ザグからみたガンダムはこういうものかという感じ。そのガンダムをなんとかザグで倒すわけです。対して「T-34」を観ると、ロシアの戦車が強い!あ、ガンダムだと思ってたけど、実はジムだった!となるのですが、それはそれで楽しかったです。第二次世界大戦、男臭いソ連人達が悪いナチを戦車対決でやっつける映画です。ちなみに、その方向の人によるこの映画のおすすめ動画というのもあります。

映画『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』特別映像(上坂すみれがナビゲート)

アクション映画なので大切なのはどんなアクションがあるかでありストーリーではありませんから大胆に話のネタバレをしてしまいますが、劇中、冒頭と終盤の2つの戦車戦闘シーンがあり、その間が主人公達の入れられたナチスの収容所によって繋げられています。その両方でたった一両のソ連戦車T-34が数的優位を誇るドイツのパンター戦車の集団と対決します。そしてその2つの対決シーン(戦闘というより、まさに対決というべき箇所もあります)はロシアの村にドイツ軍が侵入→ドイツの村に主人公達が侵入というようなシンメトリックな変化と、男同士の同じ熱い対決によって作られています。勿論、当然ながらナチ側が圧倒的に悪い描写なのですが、そのナチ側のメインキャラクターも対決中の主人公側からのあるお願いを聞き入れて守っており、闘いを汚したりはしません。一応、戦車アクション以外の恋愛シーンもあり、ラストは恋人たちの再会で終わりますがそれも、「出会いました、終わり!」というとてもいさぎよいものでした*1。凄い傑作なわけでもないのですが、「ハンター・キラー」を観た時にも思ったように、こういう楽しいアクション映画をちょこちょこ観れていれば結構幸せなものです。

*1:なのでちょっとだけあるラブシーンが逆になぜ入っているのか疑問なくらい。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」

言わずと知れたクエンティン・タランティーノの監督・脚本最新作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」を観てきましたので、その感想を。
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時は1969年、ところはハリウッド、かつてのテレビ西部劇のスターであり今は落ち目の現状から脱却しようともがいているリック・ダルトンレオナルド・ディカプリオ)と、彼専門のスタントマン兼雑用係のクリフ・ブース(ブラッド・ピット)がWセンターならぬW主人公の物語。そしてその同じ時、同じ場所には今まさにこの世の春を生きている女優シャロン・テートと、何かがおかしい集団がいて…という話。

シャロン・テートと、そしてマンソン・ファミリーが出てくる映画なわけですが、ある程度事前情報があったので、映画の結末は予想出来ました。タランティーノの最高傑作かという声もあるようですが、それもさもありなんという作品です。いろいろと素晴らしいシーンが続くのですが、中でもブラッド・ビット演じるクリフがディカプリオ演じるダルトンの豪邸から車で自分のトレーラーハウスへ帰るまでの夜の街並みを飛ばしていくシーンとかほんと美しくて素晴らしかったです。

ディカプリオとブラッド・ピットの二人は基本的にはどちらもイケメン主役俳優ではありますが、ブラッド・ピットの方がその傾向が強くてディカプリオの方が役の幅が広いですね。この映画でもその事を反映して、ディカプリオの方がコメディリリーフぽい立場から落ち目の哀愁まで人生のいろいろな面を見せる役を演じており、ブラッド・ピットの方は妻を失い*1犬と共に生きている貧しいかつての戦争の英雄の老年という役柄で、顔は齢を感じさせますが、肉体はファイトクラブの時以来のカッコよさを見せつけます。中盤、ブラピがある勘違いからマンソン・ファミリーと対峙するシーンとかまじ渋いイケメンです。

とにかく最後の展開まではほぼ完全に素晴らしいです*2。ですが、その最後の展開が、ちょっとなぁ。この展開の方向はいいと思うのですが、個人的にはそれが行きすぎ、えぐ過ぎで、ちょっとなぁとなってしまいました。戦いの暴力は(映画では)好物ですが、一方的過ぎたら虐待に感じてしまう…まあ、ここは個人差あるところでしょうが。

とはいえ、タランティーノ最高傑作と言われるのもわかる非常に楽しい作品で、お勧めです。ちなみにエンドロールも最後まで観なきゃならないタイプの作品ですので*3

*1:あるいは殺したのかもしれないという設定。

*2:それでもあえて文句をつけるとすると、ブルース・リーの扱いかなぁ。これに文句をつけている人がいるそうなのですが、まあ気持ちは分かるとは思います。

*3:といってもエンドロールも昔のハリウッドぽく短めにしあがってるので助かります。

トイ・ストーリー4

今更ながらにようやく「トイ・ストーリー4」を鑑賞。CGの素晴らしさとか、話運びがどうこうとか、いまさら言うのも野暮なので触れません。

「トイ・ストーリー4」日本版予告
トイ・ストーリー」のシリーズは良く出来たシリーズであり、言うまでもなく面白いわけです。ですが、オモチャに知性を与えるだけでなく持ち主への愛情・忠誠心もまた当然であるかのようにオモチャに付与されているのがまるで主人への愛情に満ちた奴隷のような気色の悪い設定のようで、その為に喉に刺さった小骨に対するような苛立ちがずっと感じられていたのですが、4にしてようやくそれすらも抜かれてしまいました。

オモチャ達を主人公とするエンタメという作品である以上、おそらく子供達がメインの観客と想定されていたのでしょうし(実際、俺が観に行った劇場でも子供達が多かった)、そうなればオモチャ達がその持ち主である子供達を愛しているというのは自然でありまたそうすべき設定でしょう。でも、子供もいつかは大人になるわけで、そうなれば「愛」は当然のものではないし、まして意識あるものを愛で縛り付ける、隷属させるのは自然でもない事もいつかは分かるはずの事。ましてオモチャから持ち主への忠誠など。もちろん、この作品は愛の隷属からの脱出だけが唯一の「正解」だと主張しているのではないわけですが、たとえオモチャ達が持ち主を愛するのは自然であるとしてもそれだけがあり得るべき状態ではないという事を示しているのは素晴らしい事だと思います。

そして、キャラクターのそういう成長をエンタメ作品が示せるというのは、そのシリーズが長い期間に渡って人気を保ったから出来た事であるわけで、ほんと奇跡のような事ではないでしょうか。

「町山智浩・春日太一の日本映画講義 戦争・パニック映画編」

タイトルにある映画評論家(兼アメリカ紹介者?)町山智浩さんと時代劇研究者の春日太一さん二人による日本映画、特に戦争映画、パニック映画についての対談を一冊の本にまとめたもの。面白い。

www.kawade.co.jp

なかでメインに取り上げられている作品*1については目次をコピペしまして、

  • 第二章 『兵隊やくざ』シリーズ――ブロークバック日本軍 
  • 第三章 『日本のいちばん長い日』(1967)――戦争を終わらせる戦い 
  • 第五章 『日本沈没』(1973)――黒澤組&円谷組、世紀の競演

私がこの中で観たことがあるのは「日本沈没」と「新幹線大爆破」だけですが、その他の各映画についても二人の解説が楽しくて、「日本のいちばん長い日」や「激動の昭和史 沖縄決戦」は観てみたくなりましたね(シリーズ物の「人間の条件」と「兵隊やくざ」はしんどそうなので、ちょっとまだ勘弁。)

ただ、町山さんの映画解説だとよくある事ですが、細かい事実誤認をしてたりしてます。第四章の「激動の昭和史 沖縄決戦」は、例えばアニメヲタの中でも「トップをねらえ!」においてパロられている為に少し知られていたりする作品だと思いますし、町山さんもその事を取り上げます。ですが、OVAである「トップをねらえ!」をテレビアニメ(P.162)と語っていますし、「激動の昭和史 沖縄決戦」での米艦船があまりに多すぎるシチュエーションでの台詞にオマージュを捧げている同様に敵があまりに多すぎるシチュエーションでの台詞を「敵艦で宇宙が見えません!」と引用しているのですが(P.163)、これが正確でないのは置いておいても*2、「トップ」での敵は宇宙怪獣なので「敵艦」なんてものはありません。もともとの対談中に間違えるのは分かるんですが、この本はその後に構成・校正されて出されているはずなのになぁとは思ってしまいます*3。とか書いてしまってますが、まあこの手の事はブーメランになりやすいので自戒ですね。

*1:触れられている作品は多すぎて書ききれない。

*2:第5話での「そうだ。敵の数が多すぎて、宇宙が黒く見えない。敵が七分で黒が三分。いいか。敵が七分に黒が三分だ。」

*3:あるいは出版社の河出の責任なのかな。

「守護教師」 

マ・ドンソクが主演の韓国映画。女子校教師となったマ・ドンソクが失踪した女子高生の謎を追う。
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マ・ドンソクというと、
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新感染での、漢はステゴロ、ゾンビははっ倒す!役が良くて気に入りまして、この映画も見に行くことにした次第。

田舎町の女子校に体育と学費未納の学生からの取り立て役として採用されたマ・ドンソクが悪徳教育者兼政治家と対決するわけです。話は基本的に簡単なものなのに、無駄に小さなどんでん返しを入れてたりしてまして、まあ、まあってところかなという作品です。
マ・ドンソク主演なので当然アクションシーンがあるわけですが、ザ・韓国映画的なアクションシーンというよりちょいハリウッドぽい感じで、それもイマイチ。でも車のサイド・ガラスが割れるシーンは少し上がりました。